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転生して魔王になったら  作者: 揚羽
二章 アグネス大陸にて
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成り行きって怖いね

俺はまだあの勇者と魔大陸を海にした勇者をイコールで結ぶことは出来なかった。

正直自分でも驚いている。

憎んで当然の相手。

殺伐とした戦場で剣を振り回す勇者より先に邪気のない笑顔の、あの勇者を見てしまったからかもしれない。


「あたし達は“兎と子猫”っていう宿に泊まってるから首都に行くときは絶対声かけなさいよ?」


俺達の登録が終わると勇者は“声かけなかったら次会ったときやっちゃうぞ♡”というアピールをしながら冒険者ギルドから出て行った。本当に何なんだよ。


「ご主人様、情報収集とお金」


まあ、何事も切り替えが大切だろう。

とりあえずエルフに話しかけてみる。


「あの、今の世界情勢との依頼の相場、あとこの町で過ごすときに気を付けることを教えてください」


俺は見た目ただの子供に見えるのでこの質問にエルフは面食らっていたようだが一瞬で仕事だと切り替えて説明してくれる。プロだ。


「そうですね…今の所は平和ですよ。魔族もあらかた片付いたようですし、国同士の戦争もあまりないです」


どうやら魔族=敵という方程式が出来上がっているようだ。迷惑な話。

おまえ等はあの魔王よりいい統治が出来るのか? 

でも、まぁ、国同士が戦争していないならそれに越したことはない。


「依頼の相場はお使いのような簡単な物なら銅貨一枚、討伐系なら最低でも銀貨一枚、上限はありませんよ。」


銅貨一枚ならパンを一切れといった所だ。

銀貨一枚ならそれなりの宿に泊まれる。

モリオンのおかげで市場…じゃなくて店の相場はだいたい把握した。


「この町で特に気を付けることはありません。平和すぎるほど平和ですから」


エルフに礼を言って依頼を確認しにいく。

モリオンはもうすでにお使い依頼を見に行っている。竜の宅急便でもやるつもりか?

俺も依頼を見ることにする。

いきなり討伐系だと突っぱねられるかもしれないが何せお金がない。

魔物討伐は手下が増えるチャンスだしうまくやればお金が手に入る、やってみようか。


「お金、無い?」


手頃な討伐系依頼に手を伸ばした所でさっき帰ったはずの黒猫、ノーラに質問された。

思いっきり気配を消して近づかれ、耳元で囁かれたので一メートルくらい飛び退いてしまった。脅かすなよ。

そこにモリオンが戻ってくる。


「それ、難しい依頼だから、“卵”じゃ受けられない」


そうなんだ。

俺は別に倒す必要なんて無いので難しいもへったくれもない。

だが人間の子供には難しいのだろう。


「…即席でパーティー組む?」


だから手伝ってくれるらしい。

いや、これバレるだろ。

モリオンはじとっとした目で見つめてくる。

断れ光線に同意して口を挟む。


「…ううん、平気。他の依頼、やるから」


「組む?」


拒否権は無いらしい。


***


声をかけるように念をおして勇者パーティーは冒険者ギルドを出た。

周りの人たちは怯えて目を合わせようとしない。まあ大量虐殺(なのか?)をしたのだから当然だろう。


「そういえば、あの子たちは怖がらなかったわね」


「助けたから、でしょうか」


カルロスの言うことはとっともらしいが勇者はそうではないように思えた。

あの二人は何も知らないようだった。

もしかしたら魔大陸をぶっ飛ばしたことも…いや、さすがに知っているか。


「リーダー、あの子たちのこと気になるの? ならノーラ辺りに見張らせたら?」


脳天気に提案するハリスをとりあえず殴りながら勇者は考える。

どこかの貴族の子供でも自分たちのやったことは知っているはず。

知っていた上で恐れない。

それに二人きりで旅をしていると言っていた。

変な子供だった。

放っておけない。


「ノーラ、お願い」


「なら殴らないでも良かっ…いだっ!?」


お手本のように美しい回し蹴りをハリスに放ってから勇者は堂々と宣言した。


「尾行よ!」


周りに花でもって咲いているんじゃないかと思うほど輝いた笑顔にパーティーメンバーは深々とため息をついた。


「ノーラが中で見てて、あたし達は外で覗いているから」


冒険者ギルドに走った。

なら子供たちと離れなきゃいいのにとか思っても誰も口にしない。学習能力はあるのだ。


「ならずっとあの二人についていればいい……いったぁ!」


約一名、欠如していたようだ。


***


「何あの質問」


「同感ですね」


「うんうん」


冒険者ギルドはレンガ造りの二階建ての建物である。

基本的に一階でサービスを受けられる。

二階には偉いやつがふんぞり返って(偏見だぞ)いる。

一階の壁には大きめの窓がいくつかあるがそこから覗くと果てしなく目立つので伝書鳩が入ってくる穴に三人で群がっている。

天下の勇者パーティーがただの不審者である。


「あ、依頼を取ろうと…ってあれ、討伐系じゃない! しかも“成鳥”でも苦労するレベルの」


「もしかして凄腕でしょうか?」


「単に馬鹿なだけとか?」


道行く人々の目線を全力で無視して(勇者はそもそも気にしてない)相談する。

これが勇者パーティーでいいのでしょうか?


「ってノーラ、話しかけちゃ意味ないから」


「リーダーに遮られているけどノーラも変人何でしたね…」


「完璧な人選ミスだね」


完璧に気配を消して忍び寄ったノーラに驚いて飛び退いた金髪の少女。

さっきまで別の依頼を眺めていた黒髪の少年は直ぐにそれに気づいて戻ってくる。


「身のこなしはいいじゃない」


「黒髪の方も直ぐ気付きましたね」


「あれなら二人で旅、出来なくもないかもね」


勇者がすっくと立ち上がる。

真後ろにいたハリスが跳ね飛ばされ、カルロスに手を引かれて立ち上がる。

その頃には勇者は冒険者ギルドの中に入っていた。


***


ノーラが俺たちを手伝うと宣言してから一分後、勇者がどどーんという効果音がつきそうな感じで冒険者ギルドのドアを開けた。


「ノーラ、よく分かんないけどあたしも手伝うわよ」


よく分かんないなら手伝わないでくれ。

人数が増えれば増えるほどバレそうで嫌だ。

それとこっちは複雑な乙女心(もう開き直った)を抱えてんだよ。


「ちょ、リーダー待って…」


やはりと言うか残り二人も登場。

止めてくれ。


「で、何すればいいの、ノーラ」


「…即席でパーティー組む。あと、これ」


もうどうにもならないようだ。

腹をくくってバレないように頑張るしかない。


「…ご主人様、ぼくたちあの人たちの恨みを買うようなまねした?」


「…多分、そういう事じゃないと思う」

次回予告

勇者に振り回される

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