害虫
依頼は増えすぎた虫系魔物討伐。
俺としては全く戦う気は無かったのだが勇者パーティーに討伐系依頼を受けようとしていたところを見られた手前、今更止めるとは言えない。
増えすぎたのだから仕方ないと自分を無理やり納得させて依頼に専念しようと思う。
「久々の害虫駆除だね、リーダー」
へらへらしながらハリスが言った。
害虫駆除。
人間からしたら俺たちは害虫。
生きているだけで、害虫というレッテルを貼られる。理不尽な話だ。
「馬鹿、あたし達は見てるだけよ。お手並み拝見させて貰うんだから」
俺たちだけで知能が低い虫系とはいえ魔物を倒すことになるなんて思ってもみなかった。
気が重い。
勇者パーティーといる限りは魔物を倒さないでお金を稼げる依頼だけにしようと俺は心に誓った。
***
“人化”はイメージがものを言う。
その為、想像した自分の姿が一度でも崩れると“人化”はとける。
深く眠っていたり、気を失っていたりするとイメージを保てなくなり元に戻ってしまう。
まあ、これだけの制限ならバレないだろう。
と思っていたのだがふと気が付いた。
“人化”は完全に人と同じになるわけではなく、姿を似せるだけだ。
だから竜の怪力を普通に扱いながらモリオンは戦える。
ということは似たように魔王種の特徴である回復力は誤魔化せないのでは?
つまり一撃も当たってはいけないのだ。
どうせ直ぐ治るからとあまり避ける練習はしてこなかったのが悪かった。
当たる事を前提とした攻撃も封じられた。
それに羽や尻尾を使えないのも痛い。
「ご主人様は職業、魔法使いにしたんだよね、なら後方支援でも平気だと思う」
うだうだ考えていたらモリオンが助言をくれた。
つくづく冷静なやつだ。
前世の事も考えれば精神年齢は最年長のはず、踏んだ場数が違うのだろう。
「……って思ったから」
そんな事を考えていたら俺はモリオンがぼそぼそと呟いた言葉を聞き逃してしまった。
「ごめん、もう一度言って」
「ぇ、そ、それは…」
慌てて聞くとモリオンは顔を真っ赤にして視線を泳がせる。
何を言ったんだ?
「さっさと行くよ、二人とも」
そこで勇者が俺たちを呼んだ。
不本意だが行くことにする。
あとで追求しよう。
***
モリオンはめちゃくちゃ焦っていた。
ご主人様の前で言ってしまった。
聞かれちゃったかな、と思ったら顔に熱が集まったのが分かる。
恥ずかしい。
生まれた頃から一緒にいたとはいえ相手はご主人様。
配下の自分が言うことでもない。
でも、色々あって戸惑っているはずのご主人様を思うとポロリとこぼしてしまったのだ。
「それに、ご主人様には、魔族を殺してほしくないって思ったから」
なんて。
とても失礼だ。
ご主人様は魔族のことをよく考えている。
苦渋の決断だったはず。
今更そんな事を言っているようでは未熟な配下として扱われてしまうかもしれない。
迷惑をかけてしまうかもしれない。
「ごめん、もう一度言って」
…なんだ。
聞こえていなかったのか。
ホッとしたのも一瞬。
なんて答えればいいんだろう。
「ぇ、そ、それは…」
とっさに何も思いつかなかった。
視線が泳ぐ。
また顔が赤くなっているだろう。
恐る恐るご主人様を見るといかぶしんでいるようだった。
ど、どうしよう。
「さっさと行くよ、二人とも」
助かった。
あ、でも…勇者に助けられるなんてご主人様に対して失礼なんじゃないだろうか。
***
「この辺ね」
町の中心から少し離れると畑だらけだった。
生えているのは…ミカン、なのだろうか。
ばんぺいゆよりデカいのだが。
そういうものだと思うことにする。
「で、虫系魔物って…」
言いかけて背中に寒気が走った。
右に飛び退くと前髪すれすれに何かが通り過ぎた。
音がF1だった。
確認するとその魔物は所謂カマキリだということが分かった。
ただし、二メートル位の。
くるくると鎌を回す。
どういう構造なんだよ、と突っ込む前に左の鎌で俺を切り裂こうとする。
振りかぶってくれたお陰で避けられたが半端ない速度だ。
「一旦下がって、ぼくが何とかするから」
そこにモリオンが参戦。
勇者パーティーは戦う準備はしてあるものの手を出す気はないようでこちらを見ている。
こうなったのはおまえ等のせいなんだが。
普段モリオンは竜らしく力業で攻撃する事が多いがさすがにバレると思ったのか走り回ってちょこまかとカマキリを攪乱している。
「汝、古の契約に基づき…」
これを唱えるのも久しぶりだ。
いつもなら闇魔法を使うところだが確実にバレるだろう。
慣れている火魔法も周りに被害が及びそうで使えない。
不便だ。
苦手だが水魔法でいく。
狙いはカマキリの鎌。
振りかぶった瞬間に撃つ。
「“水斬”」
使うのは実に二年ぶり。
水の初級魔法。
生み出された小さな水の刃は余りにも脆いがカマキリの鎌を一瞬鈍らせる。
その隙を逃さずモリオンはカマキリの懐に飛び込んで長めのナイフで貫く。
…そんなの持ってたのか、知らなかった。
カマキリの胸(だと思う)を抉ってナイフを引き抜く。
「こんなもんかな?」
モリオンは慣れた手つきでナイフに付いた血を拭った。
お前、いつナイフなんて習った。
俺が仕事してたときか?
「お見事。でもなんかぎこちない気が…」
「動きに迷いがあった気がしますね」
「魔法のチョイス、微妙」
「時間かかりすぎだよ?」
……誰のせいだと思ってる。
「という訳であたし達もやるわ。見てるだけじゃつまんないし。さっさと駆除するんだから」
…いちいち腹が立つ。
悪意がないところが更に。
まだ学校にいっていた頃のクラスメイトにもこういう奴がいた。
根本的な解決なんて何一つしないで正義ぶっている奴。
偉そうに説教をするくせに自分がいじめられるのを恐れて。
これだから人間は…
「…ご主人様」
気づいたらそばでモリオンが囁きかけてきた。
さっき魔物を貫いた小さな手で俺の手を掴む。
金の瞳に涙の膜が揺れている。
「ぼくは、もう二度と魔族を殺さない。だから、だからさ、そんな顔しないで」
…そうじゃない。
そんな大層なことを考えているわけでは無かった。
こんなんじゃ、駄目だ。
モリオンに負担をかけているのをはっきりと感じた。
***
カマキリを三十匹程倒したところで帰ることになった。
俺とモリオンはサポートに徹して直接ではなかったが間接的に殺したことに変わりはない。
勇者は冒険者ギルドの中の一角、エルフのカウンターの隣を指差して言った。
「報酬はこっちで受け取るの。銀貨三枚だけど全部二人のものでいい?」
よくない。
それは魔物の命を売ったお金だ。
それにより多く倒したのは勇者パーティーだ。
それでも生きていくのにお金は必要だった。
「うん」
丁寧に三枚の銀貨を受け取る。
とても軽かった。
エイプリルフールに間に合いませんでした。
嘘をつく予定が何という失敗。
しかもオチ無し。
これだからシリアスは←おい!?
主人公もモリオンも互いの評価は高すぎるほど高いです。
どこかの夫婦喧嘩防止サイトに似たようなことが書いてありました。
次回予告
さらに引っ張り回される




