脱出
トガリの案内で迷宮の中を進む。
ときどき魔物に遭遇するものの全て雑魚、問題なかった。
「それにしても、魔物が少ないな」
しかしそれはめったに無いことらしくトガリは俺の頭の上に座りながら首を捻っていた。
「次は左だ」
言われたとおりに進むと、そこはいつも敵が出てくるような円い部屋だった。
正直、いやな予感しかしない。
「…ここ、通らないと出られないぞ?」
めちゃくちゃ通りたくない。
絶対何か出るじゃん。
こんな、如何にもな造りの部屋はゴールかモンスターハウスに決まっている。
「早く」
嫌だよ。
「平気だぞ?」
こういう部屋で平気だった試しがない。
しかし、このネズミの主なのに逆に宥められるのも見苦しい。
腹をくくって進むことにした。
一歩、二歩、三歩………………………あれ?
何も起きない。
そのまま部屋を出ようとする。
何も起きない。
部屋を出た。
何も起きない。
「何も起きないじゃないか!?」
「あれはフェイク」
まんまと引っかかった。
悪質だ。
「主も可愛い所があるんだな」
精神的ダメージを受けました。
相手がネズミだったので効果は三倍です。
「もう二度とそれを言わないでくれ」
ニヤニヤ(あくまでネズミの顔)しながらも頷いてくれた。
「次は真ん中」
………あの、
何で真ん中だけ血のように赤い道なんでしょう?
「早く」
いや、明らかにヤバいでしょ?
所々顔みたいな模様があるし。
手のひらみたいな模様もかなり怖い。
「平気だぞ?」
嫌だよ。
でもこのネズミの主なのに逆に宥められるのも見苦しい。
腹をくくって進むことにした。
一歩、二歩、三歩………………………あれ?
何も起きない。
そのままてくてく進む。
何も起きない。
さらに進む。
………後ろに気配。
振り返ってみると白い着物に身を包んだ血まみれの女が……いるわけもなく、雑魚モンスター。蝙蝠のような血を吸う魔物。
「あそこはあいつらの餌場」
なるほど。
魔物は血だまりにかがみこんで食事中。
襲ってくる気配もないので放置。
「次は右」
言われたとおりに進む。
……行き止まり。
「「何で?」」
初めてハモった。
トガリにも想定外らしい。
「落石、なのか?」
巨大な岩。
でも何でこんなものが?
「迂回するか」
だな。
魔法で、とも考えたが迷宮の中では下手な真似はしたくない。
そう思って振り返ると、いた。
数十、いや、数百からなる魔物の軍勢。
やけに魔物が少ないのはこういうことだったのか。
「トガリ」
「すまん」
一見劣勢に見えるがそうではない。
俺としてはまとまってくれた方が一気に片付けられてずっといいのだ。
「“竜吐息”」
全力で放った“竜吐息”で魔物はドロドロに溶け出した。ついでに通路も少し溶けた。
「走るから掴まって」
そして魔物たちの上を走る。
猫みたいな魔物を踏みつけて進む。
鳥みたいな魔物を踏みつけて進む。
大きめな魔物の脇を走り抜ける。
少し溶けた通路を走る。
人型の魔物を踏みつけ……
ガシッ
え?
「避けろ!」
生き残っていた魔物に足を掴まれたのだと理解する前に俺は何かに切り裂かれた。
***
「ご主人様、まだ帰ってこないね」
「今の魔王様だって三日かかったんだ、それぐらい覚悟しておけ」
その頃、魔王城でモリオンとラドルフは訓練を続けていた。
もうラドルフではモリオンにかなわなくなりつつあるが。
「でもなぁ……ご主人様、詰めが甘いから心配だよ」
「悪運が強いから平気だろ」
「そういうものかなぁ?」
それでもモリオンは深々とため息をつくのだった。
***
…目を覚ます。
俺は、確か魔物にやられたのでは?
「マスターのお目覚めです、トガリさん」
ま、マスター?
誰だよ。
「マスター、私はあなた様の“神器”です。マスターの危険を感知し、稼働を始めました」
自らを“神器”と呼んだひとを見る。
透き通った赤い髪。赤い服。赤い……とにかく、あの花を擬人化したようなひとだった。
「驚いたよ、魔物にぶったぎられて、で耳飾りが美女になって」
「魔物は排除致しました。マスターは魔王種なので自然治癒力に任せ、ここに寝かしておきました」
……そうなのか?
危ないところだった。
「マスター、これからどうされますか?」
いや、迷宮をでるけど。
そう思って起き上がると目の前に出口。
地上、だよな?
「主は城においらは村に戻る、だろう?」
……まあ、そうだな。
「また遊びに行くからな? “転移”」
とりあえず帰ることにする。
戻ったらやることが沢山ある。
報告、あの村への支援、“神器”の説明。
そういえば“神器”に名前はあるのだろうか。
そんな事を思いながら転移する。
出てくる先は魔王城の庭。
皆の驚いた顔が楽しみだ。
武器とかが意志を持つのは憧れです。
という訳で出しました、“神器”です。
名前は花からとることにしました。
次回予告
一日で戻ってきたら驚かれた