神器
しばらく待つとクラリスが戻ってきた。
頭に四、五センチ程の小さなネズミ。
展開が読めた。
「はじめまして、魔王のお嬢さん。おいらがここの村長、トガリ」
世界一小さな哺乳類は確かトガリネズミだった気がする。
「皆、おいらと魔王のお嬢さんだけにしてくれ、話をしたい」
それにしても地底人より流暢に話すネズミって…もう、驚くまい。
そんなこんなで家から地底人たちが出て行く。
「…お嬢さんがあの子、助けてくれたのは感謝する。だがな、この村は誰にも秘密にしてくれ」
そういうパターンか。
「どうして?」
「おいらたちは亡命者だ。地底人はアグネス大陸で奴隷やってたが逃げて来た」
ちょっと待て、アグネス大陸からどうやってきたんだ?
「穴を掘った。地底人の特技だよ、おいらは逃げ出す手伝い、しただけだ」
海中トンネルを掘ったというのか。
さしずめ固有魔法でドカドカ掘ったというところだろうが。
「魔王のお嬢さんは魔族の端くれのおいらたちを助けるか?」
助ける、そう言えばいい。
でも、これは試験なのだと思った。
秘密にしてくれと言ったのに海中トンネルの話をした。亡命者の村だと教えてくれた。
魔族の端くれなら“絶対服従”でそれこそ絶対の見方になれる。
トガリはこう言ったのだ。
助けてくれ、と。
弱い魔族は魔王の加護が必要。
魔王は強さの象徴でなければならない。
「か弱いお前らに加護を与えよう、従うな?」
精一杯、高慢に言ってやった。
「死という終わりが訪れるまで、あなた様へお仕えしましょう」
トガリが頭を垂れる。
ちっちゃくていまいち分からないが。
そこにチョンと指先をのせる。
……地味だ。
ひたすら地味だ。
やっぱり魔王みたいに凝った演出は必要かもしれない。
「他の地底人にも…」
「分かっている」
こうしてトガリ、また地底人二十五名が俺の配下になった。
***
「で、地上に行きたいんだけど」
「おいらが案内する」
地底人たちは名残惜しそうな顔をしていたがまた来るといったら笑顔になった。
目がないから怖いけど。
「…それで、迷宮の底だったな、見た方が早い、寄っていくぞ」
しばらく歩いたらトガリがそう言った。
地底人の前では一度も口に出してないから伝えられてないのかと思っていたがちゃんと説明されていたらしい。
「主、おいらの話、聞いてくれ」
トガリは俺のことを主と呼んだ。
変な響きだ。
「実は主のことを監視していた。クラリスを使ってな、だがミスをしたあいつを助けて貰ったばかりか加護まで授けてくれた」
監視してたのかよ。
全く気づかなかった。
「天井に張り付いていたぞ?」
それ、怖いよ。
「なのにあのバカは大事な薬を落とし、あちこち探す内に魔物に囲まれた」
そういやあのぼた餅は何だったんだ?
「薬って、何だったの?」
「若返りの薬」
マジかよ。
「冗談だ」
真顔(ネズミだからよく分からないけど)で言ったから本当かと思ったじゃないか。
「亡命したのはな、百人だ。だがこんな所では食べ物もろくにない。数は減るばかり、だが二十五人ならギリギリ耐えられた。だから、あれは薬なんだ、子供を流す為のな」
マジかよ。
人数制限があるなんて。
毒を薬と呼ぶほど追い詰められていたのか。
「その薬の材料の花が採れるのが迷宮の底だ」
話が繋がった。
楽しそうにしている地底人たちの前でこんなこと言いたく無いだろう。
どうも地底人は鼻と耳は良いようだから。
当たり障りのない、味方にしてくれという話で誤魔化したのだ。
「もうすぐだ」
奥の方から真っ白な光がもれている。
そこは神聖な空気を漂わせていた。
天井からは水晶の柱がいくつも伸びている。
その周りには赤く、透き通った花が咲き乱れている。
「おいらの物ではないが、真ん中の台座に乗っている耳飾り、主に渡そう」
これが“神器”なのか。
周りに咲いている赤い花をかたどった精緻な意匠。まるで本物の花だった。
「つけてみてほしい」
いつか、自称神様が言っていたあとあと都合がいいとはこういうことだったのか。
さすがに男が花のイヤリングは無いな。
「よく似合っている、おいらの嫁さんのようだ」
後半がなければ喜んだのに。
村長はネズミでした。
トウキョウトガリネズミです。
次回予告
簡単に戻って来られる訳がない




