革命の始まり
ロスが10層に休憩所を建設してから、わずか三日後——ギルドには驚くべき報告が相次いだ。
「10層の攻略成功率が倍以上に上がりました!」
「中ボス『岩砕きの巨像』を撃破したパーティが、過去最多を記録!」
「負傷者の搬送数が三分の一に減少!」
リリアが慌ただしく書類を整理しながら、報告を読み上げる。彼女の声には興奮が混じっていた。
「ロス、見てよこれ! あなたの休憩所のおかげで、10層の死亡率が激減してる!」
「そうか。それはよかった」
ロスはいつも通り、ツルハシの手入れをしながら、淡々と答えた。彼にとっては、それは当然の結果だった。安全に休める場所があれば、冒険者は体力を回復でき、判断力も保てる。それだけで成功率は上がる。当たり前のことだ。
「当たり前じゃないよ! ギルドの統計によると、これまで10層で最も多くの冒険者が命を落としていたんだ。それが、たった一つの施設でここまで変わるなんて!」
リリアは興奮してまくし立てる。彼女の声に釣られて、周囲の冒険者たちも集まってきた。
「おいおい、本当か? 10層の休憩所って、あの石の箱のことか?」
「あれがそんなにすごいのか? 俺も使ってみようかな」
「ただし会員制らしいぞ。ロスさんが管理してるって話だ」
冒険者たちの間で、ロスの休憩所は瞬く間に話題となった。実際に利用した者たちの証言は、さらにその評判を後押しした。
「あそこで一晩寝たら、体力が全回復したよ!」
「水が綺麗で、飲みやすいんだ。ダンジョンの水はたいてい濁ってるのに」
「魔物の気配が一切しない。まるで聖域だよ」
これらの証言は口コミで広がり、やがてギルド全体の話題となった。ギルドマスターのドレイクも、その報告に驚きを隠せなかった。
「……たった数日で、ここまでの成果を出すとは。ロス、お前の価値は、俺が思っていた以上だ」
ドレイクはロスを呼び出し、そう告げた。彼の顔には、珍しく笑みが浮かんでいる。
「評価に感謝します。ただ、まだ始まったばかりです。10層だけでなく、他の層にも同じような施設を作るべきだと思います」
「それは俺も考えている。だが、その前に一つ聞きたい。お前は、この休憩所をどうやって運営するつもりだ?」
「会員制にします。利用料を取って、その収益で施設の維持と拡張を行う。貧しい冒険者には無料枠も設ける予定です」
ドレイクは感心したように頷いた。
「……ビジネスとしても成立させるつもりか。ただの職人ではないな」
「職人だからこそ、作品を持続させる方法を考えないといけません。作って終わりじゃ、意味がない」
ドレイクは大きく息を吐き、そして言った。
「よし、好きにやれ。ただし、ギルドとしても協力する。何かあれば、いつでも言え」
ロスは軽く頭を下げ、部屋を出た。彼の頭の中では、すでに次の計画が動き始めている。
その日の夕方、ロスは再び10層へ向かっていた。休憩所の様子を確認するためだ。中に入ると、そこには数人の冒険者が寝ていた。彼らは深い眠りについており、安堵の表情を浮かべている。
「……よく眠れてるな」
ロスは小声で呟き、彼らを起こさないように静かに退室した。外に出ると、ちょうどカイルたち新人パーティがやってきた。彼らは10層の攻略に挑むつもりらしい。
「ロスさん! あの休憩所、すごいですね!」
「俺たちも使わせてもらいました。一晩で疲れが取れて、今日は万全の状態で挑めます!」
カイルは目を輝かせて言った。彼の後ろの仲間たちも、同じように興奮している。
「それはよかった。だが、無理はするなよ。中ボスは強いからな」
「はい! でも、こういう場所があるってわかってるだけで、心の余裕が違います!」
ロスは彼らの背中を見送りながら、ふと何かを思いついた。10層だけでなく、もっと深い層——例えば20層や30層にも、同じような施設を作れば、もっと多くの冒険者が助かるかもしれない。
「……よし、次は20層だ」
彼はその場で決意し、すぐに地上へ戻って準備を始めた。




