会員制ラウンジの誕生
スタンピード事件から一週間。ロスの名は、ギルドどころか王都全体に知れ渡っていた。迷宮を改築し、数千のオークを一人で撃退した男。その噂は瞬く間に広がり、彼を一目見ようと様々な人物がギルドを訪れるようになった。
「ロスさん、今日もお客さんが来てますよ」
「……またか」
リリアが苦笑いしながらロスに告げる。今日だけで既に五組の訪問者があった。その多くは、ロスの技術を買いたいという商人や、彼の施設を利用したいという遠方の冒険者たちだ。
「いい加減、対応を何とかしないと、仕事が進まないよ」
ロスは頭を抱えた。彼は建築が好きなだけで、人と接するのはそれほど得意ではない。特に、見知らぬ人と長時間話すのは苦手だった。
「……仕方ない。ここらで、ちゃんとしたシステムを作るか」
彼はそう決意し、すぐに動き始めた。
数日後、ロスは10層の休憩所を「会員制ラウンジ」へと大改装した。以前の簡素な石造りの建物は、白い大理石で外壁が覆われ、入口には重厚な木製のドアが設置された。内部には、高級な調度品が並び、飲み物や軽食を提供するカウンターまで設けられている。
「……これ、本当にダンジョンの中かよ」
「豪華すぎるだろ。宿屋より綺麗じゃないか?」
初めて改装後のラウンジを見た冒険者たちは、口を揃えて驚嘆の声を上げた。しかし、最も彼らを驚かせたのは、その利用システムだった。
「会員制……だと?」
「そうだ。月額銀貨50枚。ただしSランク以上の冒険者は割引あり」
ロスが説明すると、冒険者たちは一瞬沈黙した。銀貨50枚は決して安くない。しかし、それに見合う価値があると判断した者たちは、すぐに手を挙げた。
「俺、入る!」
「私も! 安全に休めるなら、その価値はある!」
最初の数時間で、既に二十人以上の申し込みがあった。その中には、Sランクの冒険者も数名含まれている。
「Sランクが入るのか……」
「あの連中ですら、この施設の価値を認めてるんだな」
冒険者たちの間で、ロスのラウンジへの評価はさらに高まった。そして、その評判は瞬く間に他の層にも広がり、20層、30層にも同様の施設を求める声が上がり始めた。
その夜、ロスはギルドの一室で、今後の計画を練っていた。彼の前には、ダンジョン全体の地図が広げられている。
「10層はもう完成した。次は20層……いや、30層に宿泊施設を作る方が需要が高いかもしれない」
彼がノートに図面を描いていると、ドアがノックされた。入ってきたのはドレイクだ。彼の顔には、珍しく笑みが浮かんでいる。
「ロス、聞いたぞ。会員制ラウンジの評判は上々だ。ギルドとしても、大いに期待している」
「ありがとうございます。ただ、問題もあります。施設を拡張すればするほど、維持費がかかる。それに、人材も必要です」
「それについては、ギルドがサポートする。お前には、これからも自由にやってもらいたい」
ドレイクはそう言って、一枚の書類をロスに差し出した。それは、ギルドからの正式な協力依頼書だった。そこには「ロス・グレイヴァーはギルドの特別技術顧問として、ダンジョン内の施設管理・運営に関する全権限を持つ」と明記されている。
「……これで、俺は自由に動けるってわけですか?」
「ああ。ただし、責任も伴う。何かあれば、お前が全ての責任を負うことになる」
ロスはその書類をじっくりと読み、そして署名した。
「わかりました。引き受けます」
彼の目には、新たな決意の光が宿っていた。これから彼は、ただ穴を埋めるだけの男ではなく、ダンジョンそのものを変えていく存在となる。その第一歩が、今まさに始まろうとしていた。




