ひれ伏すドルイドたち
オークの大群が迷路で壊滅してから数時間後、ギルドには次々と報告が届いた。10層のスタンピードは完全に鎮圧され、負傷者はゼロ。ロスが作った迷路と自動タレットが、文字通り全てのオークを撃退したという。
「……本当に、たった一人でやったのか?」
「あのロスってやつ、化け物だな」
「いや、化け物じゃない。あれは天才だ」
冒険者たちの間で、ロスへの評価が一気に変わった。それまで「穴埋め屋」「地味な生産職」と嘲笑っていた者たちも、今では敬意を込めて「迷宮建築士」と呼ぶようになっていた。
しかし、最も大きな変化があったのは、エルフのドルイドたちだった。
ギルドの一室。エルダは深い沈黙の中にいた。彼女の前には、ロスが作成した報告書が置かれている。そこには、スタンピードの詳細と、彼が取った行動が克明に記録されていた。
「……迷宮を改築し、魔物の流れを変え、自動兵器で殲滅。まるで、一つの戦争を一人で戦ったようなものだ」
エルダはその報告書を読み終えると、深いため息をついた。彼女の後ろには、他のドルイドたちも控えている。彼らもまた、ロスの行動に衝撃を受けていた。
「長老、私たちは間違っていたのでしょうか?」
「……分からない。だが、少なくとも、彼の行動は自然を破壊するためのものではなかった。むしろ、多くの命を救うためのものだった」
エルダは立ち上がり、決意を固めたようにドアへと向かった。
「彼に会いに行く。直接、話をしよう」
ロスは、10層の迷路の後片付けをしていた。オークの死体を撤去し、壊れた壁を修復し、タレットを回収する。彼の手は休むことなく動いていた。
「……やっぱり、ここはもう少し広くした方がいいな。次にスタンピードが起きた時、もっと多くの魔物を収容できるように」
彼がそう呟いていると、背後から足音が聞こえた。振り返ると、エルダが立っていた。彼女の表情は、以前とは明らかに異なっていた。威厳と共に、どこか柔らかさが加わっている。
「ロス・グレイヴァー。話がある」
「何でしょう? また抗議ですか?」
「……いや、謝罪だ」
エルダは深く頭を下げた。
「私は、あなたのやり方を自然への冒涜だと断じました。しかし、それは間違いでした。あなたの作った迷路は、無数の命を救った。それは、自然の摂理に反するものではなく、むしろ、自然を守るための知恵でした」
ロスは少し驚いたように彼女を見つめた。
「……評価が変わったんですね」
「現実を直視したまでです。あなたの力は、破壊ではなく、保護のためのものだということを、私はようやく理解しました」
エルダは顔を上げ、真っ直ぐにロスを見つめた。
「どうか、私たちにもあなたのやり方を教えてください。ダンジョンと共存する方法を。私たちは、これからはあなたを妨害せず、むしろ協力したい」
ロスはしばらく沈黙した後、小さく笑った。
「……協力してくれるなら、ありがたいですね。ただ、俺のやり方は俺のやり方です。それをそのまま真似する必要はありません。あなたたちなりの方法で、ダンジョンと向き合ってください」
「……それが、あなたの答えですか?」
「ええ。俺は俺の道を行く。あなたたちはあなたたちの道を行く。それでいいじゃないですか」
エルダはその言葉に、深く納得したように頷いた。
「……あなたは、本当に特別な方ですね。今までの人間にはいなかったタイプだ」
「特別なわけじゃないですよ。ただ、穴埋めが好きなだけです」
ロスはそう言って、再び作業に戻った。彼の背中は、いつも通り軽やかだった。




