迷宮改築
ロスはダンジョンへと駆け込んだ。階段を飛ばすように駆け下り、10層へと向かう。彼の足はこれまでにない速さで動いていた。
「はぁ……はぁ……!」
息を切らしながら10層に到着すると、そこは既に地獄と化していた。通路の奥から、無数のオークが雪崩のように押し寄せている。低い唸り声と地響きが洞窟全体を震わせていた。
「くそっ……!」
ロスは壁に手を当て、魔力を巡らせた。彼のスキル『圧縮形成』は触れた物質を変形させる。それを使って、彼は通路の形状を一変させようとしていた。
「──『迷宮改築』!」
スキルが発動すると同時に、通路の壁が動き始めた。一本道だった場所が、複雑に入り組んだ迷路に変わる。壁がせり上がり、天井が低くなり、分岐路が無数に生まれる。
「な、なんだこれは!?」
「道が変わった!?」
オークたちは突然の変化に戸惑い、立ち止まった。しかし、後ろから押し寄せる群れに押され、彼らは迷路の中へと吸い込まれていく。
ロスはさらに壁面に手を当て、銃眼と呼ばれる小さな穴を開けた。そこに、彼が事前に準備していた自動クロスボウを設置する。魔石で動く簡易タレットだ。
「これで、しばらくは持つだろう」
彼は迷路の中央部に陣取り、タレットを次々と起動させた。クロスボウが火を噴き、迷路の中で方向を失ったオークたちを次々と撃ち抜く。
「うおおおっ!」
「逃げろ! この迷路は罠だ!」
しかし、オークたちには逃げ場がない。迷路は一方通行で、出口はロスのいる中央部だけ。そこに到達するまでに、彼らは次々と倒れていく。
ロスは手を休めることなく、壁を増設し、罠を仕掛け続けた。彼の目はどこまでも冷静で、まるで将棋の盤面を見るように状況を把握している。
「数は多いが、迷路で分散させれば一つ一つは弱い。後は時間の問題だ」
彼の言葉通り、オークの群れは迷路の中で徐々に数を減らしていった。一時間後、最後の一匹が倒れ、通路は静けさを取り戻した。
その頃、古参冒険者たちの野営地は、オークの大群の進路から辛くも外れていた。ロスが迷路を作り変えたことで、オークたちの流れが変わったのだ。
「……助かったのか?」
「あの穴埋め屋が、道を変えたのか?」
彼らは呆然としながら、遠くで響く戦闘音を聞いていた。やがて、ロスが迷路から現れる。彼の服はほこりまみれだったが、傷は一つもなかった。
「……お前たち、無事か?」
ロスの問いに、古参冒険者たちは言葉を失った。彼らはロスの施設を拒否し、野営を続けると宣言した。しかし、今、そのロスに命を救われたのだ。
「……なぜ、助けた? 俺たちはお前のやり方を認めていなかったはずだ」
「認める認めないは関係ない。俺は、ただ目の前の命を救っただけだ」
ロスはそう答えると、振り返って迷路の方を見た。そこには、無数のオークの死体と、まだ煙を上げるクロスボウのタレットが残っている。
「さて、後片付けをしないとな。それと……」
彼は古参冒険者たちに向き直り、小さく笑った。
「工事費と利用料は請求するからな」
古参冒険者たちは、その言葉に思わず笑いを漏らした。そして、その笑い声はやがて、彼らの心の中にあった頑なな壁をも壊していった。




