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壮大な世界の物語~絶望の果てで、少年は勇者になる~  作者: おう
共和国遠征編

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第二章幕間『帰還』



 「…やっと、やっと…帰ってきた…」


 言い表し難い複雑な思いを抱え、ユダ達はギルドの門を通った。すると溢れんばかりの歓声がユダたちの集団に浴びせられる。


 第一部隊の出雲遠征からの帰還。


 アアル王国に残っていた第一部隊員、そして他部隊。彼らが一斉にユダたちを祝福したのだ。


 (王都に帰ってきた実感がすごい…)


 実のところ、数日前には王都には帰ってきてはいたのだ。ただ第一部隊の目的は『出雲幕府と同盟を結ぶための使者の護衛』ということもあり、出雲から帰ってきたら直にギルドに戻れるというわけではない。


 王城への報告や、諸々の経費の精算などの数多の義務。それらをする間は帰った実感がわかず、門をくぐった今になってようやくその実感が湧いたのだった。


 「やっとだねユダ」


 アルスはユダの肩に手を置き、いつもの軽い調子の中にも、どこか心底ホッとしたような色を滲ませて微笑んだ。


 「常世隊長からは自由にしていいって言われてんだ! 今から飲みに行くか!?」

 「フェリスお前な…何度も言うけど俺達まだ未成年なんだよ! それにもう飲みに行く気力は流石にないよ」


 ユダの前を歩くフェリスが豪快に笑いながら、飲みに誘ったが流石にそんな気力はない。もう寮の自室で寝たい気分だ。


 (未成年飲酒を気にしているのは俺だけなのかよ…)


 心の中でそうツッコミを入れつつ、ユダはあきれたように肩をすくめた。


 「あはは、フェリスらしいね。まあでも、今回はさすがにユダの言う通りだよ」


 アルスが苦笑しながら助け舟を出すように口を開いた。


 「さすがのフェリスも、お城の堅苦しい空気で丸数日間も胃を痛めた後なんだからさ。酒を流し込む前に、まずはふかふかのベッドで泥のように眠りたいのが本音だよ。ほら、見てみなよ。第一部隊の他のメンバーだって、歓声に応えてはいるけど目が半分閉じてる」



 言われて周囲を見渡すと、確かに帰還した隊員たちの顔には、祝福の声を浴びながらも隠しきれない濃厚な疲労が張り付いていた。


 大罪教との死闘による身体の傷。仲間を失った精神的な摩耗。そして王都に戻ってからの容赦ない事務処理の山。彼らのエネルギーは、とっくに限界を迎えている。


 「つれないねーやつらだな! 大仕事を成し遂げた後の美味い酒ほど最高なもんはないってのに!」


 フェリスは両手を頭の後ろで組みながら、わざとらしく唇を尖らせたが、その瞳にはユダたちの体調を気遣うような優しい色が混ざっていた。


 「――フェリス君の祝杯を交わしたい気持ちも分かるが、今の君達は何よりも休息を取るべきだろ。」


 背後から響いた冷徹で、けれど酷く落ち着く低音。

 振り返ると、隊服を軽く揺らした常世――出雲要が、ユダ達を心配そうな目で見ながら歩いてきた。


 「はい、隊長……」


 フェリスは今までの調子はどこに行ったのか、萎縮したように静かに頷いた。 

 ユダは小さく息を吐き、ようやく自分の家――ギルドの寮がある方向へと、ゆっくりと足を向けたのだった。


 「まじで限界だ…倒れそう…」 


 アルスにフェリスの自室は寮の入り口から近く、もう自分の部屋に戻ったが、何故か奥の方に部屋があるユダは一人倒れそうになりながら歩いていた。

 

 視界は淀み、瞼は鉛のように重たい。


 (あれ…? これちょっとやばいかも…)


 「ユダ危ない!!」

 

 完全に膝の力が抜け、前のめりに倒れ込みそうになったユダの身体を、間一髪で誰かが横からガシッと抱きとめた。

 閉じかけの視界に映ったのは、美しく靡く青髪で、ユダはそれを最後に気を失った。




 ―― ―― ――




 「なんで私はユダを自分の部屋に連れ込んじゃったのーーー!?」


 静まり返った女子寮の一室に、リンの後悔と混乱が入り混じった叫びが虚しく響いた。自分の両手を見つめ、それからベッドで泥のように眠りこけている幼馴染へと視線を往復させる。


 たまたま廊下を通りかかったら、今にも倒れそうなユダが目に入った。慌てて駆け寄り、間一髪でその身体を抱きとめたところまでは、我ながら完璧なファインプレーだったと思う。


 問題はそのあとだ。


 「……いや、普通にユダの部屋の鍵を探して、あいつのベッドに放り込めばよかったじゃん私!!」


 頭を抱えてその場にしゃがみ込む。あまりの疲弊ぶりにパニックになり、無意識のうちに一番近かった自分の部屋へと引きずり込んでしまっていた。いくら幼馴染とはいえ、年頃の男子を自分の部屋の、しかも自分のベッドに寝かせてしまうなんて。


 幸いというか何というか、当のユダはそんなリンの葛藤など露知らず、「すー、すー……」と気の抜けた寝息を立てている。出雲での死闘、そして王都に帰ってきてからの怒涛の手続き。そのすべてから解放された彼の顔は、かつて一緒に過ごしていた頃のような、ただの無防備な少年のものに戻っていた。


 「……本当に、ボロボロになるまで頑張ってきたんだね」


 さっきまでのパニックが嘘のように、リンの表情がすっと和らぐ。


 無事でいてくれた。生きて帰ってきてくれた。それだけで、胸の奥がじんわりと温かいもので満たされていく。


 リンは小さくため息をつくと、ユダの胸元までそっと毛布をかけ直した。

 

 「ま、いっか。今回だけ特別なんだからね」


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