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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の物語(恋愛・ミステリー)

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EP599:伊予の物語「三悪趣の半獣(さんあくしゅのはんじゅう)」その5~不思議な少女と出会う~

 昼前にはxx寺に到着し、仁王門の門前で馬を下り、手綱を引いて歩いて中の様子をうかがうと、付近にある宿屋の雑色がやってきて


「お参りの間、馬をお預かりしましょうか?

 今日中にはお帰りですか?

 それまで水と飼い葉を与えておきますよ。」


 と話しかけると、忠平さまが水干の(ふところ)から巾着を取り出し


「ああ、頼む。いくらだ?」


 と銭を払おうとするので、私が間に割って入り


「待って!私が払うっ!だってこれは恩返しの一部だからっ!!」


 と銭緡(ぜにさし)を馬の背に括り付けた荷物袋から引っ張り出して、紐をほどいて銭を取り出し支払った。


 忠平さまは眉を上げ一瞬驚いた表情をし、またすぐに憂鬱そうに顔を曇らせた。


 馬を預け、いよいよxx寺へお参り!すべく、人の二倍ぐらいの大きさの木像の仁王さまが睨みつける仁王門から寺の中に入ろうとすると、馬を引いてた雑色の慌てた叫び声が聞こえた。


「あぁっっっ!何をしてるんだっ!危ないじゃないかっ!」


 一瞬、顔を見合わせ、叫び声の方向へ忠平さまと私は急いで引き返した。


 路の途中で、手綱の端を引かれた『優隼丸(ゆうしゅんまる)』が後ろ足で立ち上がり、前足をバタバタさせてるのが見えた。


 その大きな馬の体のすぐ下には市女笠を手に持ち、壺装束姿で、暴れる馬を上を向いてぼぉっと見つめる小さな少女の後ろ姿があった。


「危ないっ!馬の下敷きになるっ!!踏みつぶされるっ!!」


 と、誰がどう見ても危機的状況!


 なので、忠平さまが素早く駆け付け、手綱を奪い取って落ち着かせようとすると、馬の前足が地面に着地した拍子に、壺装束の少女の体に当たったようで、ドンッ!と突き飛ばされたように地面に投げ出され、横向きに座り込んだ。


 どこからともなく


「姫っっ!」


「姫さまっ!!ご無事ですかっ!」


 と男性と女性の声が聞こえ、従者と侍女と思われる男女が少女に駆け寄った。


 姫様と呼ばれた少女はまだぼぉっとしたまま、自分の手を見て、()りむけて血が出てるのを見て


「痛い・・・・」


 と呟いた。


 忠平さまが手綱を預けると雑色は泣き出しそうな顔で


「あ、あの姫が、と、突然、馬に駆け寄ってきて驚かせたんです!」


 忠平さまは委細(いさい)承知(しょうち)顔でうなずき


「大丈夫。問題ないよ。馬を移動させてくれ。」


 雑色が馬を引いて立ち去ると、座り込んだままの十四・五歳の少女に話しかけるために、膝をついてしゃがみこみ目線を合わせて


「怪我は手のひらを()りむいただけ?

 足は大丈夫?

 立てるかい?」


 少女は忠平さまを見ると、一瞬、目を輝かせ、今度は魂を吸い取られたように焦点の合わない眼差(まなざ)しで、ぼぉっっと吸い込まれるように見とれ続け


「・・・・はい。立てます。」


 と小さく呟いた。


 忠平さまが腕を支え


「じゃ、立ち上がって」


 と命じると、少女は忠平さまの水干の袖をギュッ!と握りしめ、腕によりかかるようにして、やっと!って感じで立ち上がった。


 忠平さまがまだ腕に手を添えながら、


「寺の中に薬師が待機してる看病所(かんびょうしょ)があるから、そこで手当てしてもらうといい。」


 といった。


 ん?このお寺には看病所(かんびょうしょ)があるってなぜ知ってるの?


 様子をうかがい恐る恐る近づいてくる侍女と従者に向かって


「何かあったら私もお参りしてるから、声をかけてくれれば手伝うよ。

 私の馬のせいで怪我したんだ。

 遠慮せず声をかけてくれ。」


 と少女の腕を支える役目を侍女に譲ると、侍女が頭を何度も下げ


「申し訳ございません!

 姫さまは、その、少し浮世離れしており、衝動的なところがございまして、思いついたらすぐに行動してしまうんです!

 ご迷惑をおかけしまして、まことに・・・・」


 その後、『ペコペコ!』と「いえいえ!」の応酬があり、名前を聞かれて忠平さまが応え、ひと段落すると、美濃(みの)というその少女たち一行(いっこう)が仁王門から寺の中に入っていくのを、私たちは見守った。


 私たちもxx寺の中に入り、砂利道を鐘塔(しょうとう)やお堂を見ながら本堂まで歩いた。


 林の中に続く細い道の先にある三重塔を見に行くか、本堂で馬頭観音と地獄変相図を見るか迷って、まずは本堂を拝観することにした。


 枇杷(びわ)屋敷や堀河邸の主殿の(ひさし)全部を合わせたぐらい大きい本堂は入口が開け放たれていて、石段を登ってすぐの場所で、拝観のためのお布施を支払うことになってた。


 ここでも私が率先して二人分払い、忠平さまはそれを苦々(にがにが)しい顔で眺めてた。


 中に入ると格子が下りていたけれど、昼の光が入るので思ったより明るい。


 私たちのほかに参拝客はなく、しんとした空気の中、ご本尊の馬頭観音菩薩や脇侍(わきじ)の不動明王や毘沙門天を眺める。


『うん?』と思ったことをすぐ口に出したくなり、クイクイと忠平さまの袖を引っ張り


「ねぇ!

 馬頭観音って馬の顔をした仏像じゃないのね?

 冠に馬がついてるだけなのね?」


 忠平さまは楽しそうにほほ笑み


「経典によっては馬頭人身の像容も説かれるらしいが、大半はそうだな。

 馬をはじめ畜生類を救済してくださる仏様だから、愛馬の供養のために祈る人もいる。」


『アレ?』と思いついた私は


「馬の顔に人の体なら、地獄の獄卒、馬頭(めず)と同じになるわね?!

 仏さまと獄卒と同じでいいのっ??!!

 道でばったり出会ったら見分けがつかないわっ!」


 忠平さまが面白そうに肩をすくめ


「いいの?と聞かれても、ダメだって言っても同じなんだから仕方ないだろ?

 どうしようもないよ!

 地獄で会えば馬頭(めず)、極楽で会えば馬頭観音、だと思えばいいさ!

 さ、つぎはいよいよ地獄変相図だ!」


 シレっと私の手をとり、ギュッと握りしめ、引っ張りながら歩いていく。

(その6へつづく)


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