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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の物語(恋愛・ミステリー)

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598/602

EP598:伊予の物語「三悪趣の半獣(さんあくしゅのはんじゅう)」その4~伊予、恨まれる~

えっ??!!


 どこまで話したっけ?


 戸惑いつつも、


「だから、臺与(とよ)への復讐を忠平さまに手伝ってもらったのね。

 でお世話になり過ぎたので、最後にまとめてお返しをして、忠平さまに頼るのをきっぱりやめて、会うのもやめましょうという話になったのね」


 上目遣いで兄さまをチラ見すると、不審そうに眉根を寄せている。


 私は続けて


「で、まとめてお返しするには、忠平さまの命令をひとつ聞くこと!ってなってね、『一緒にお寺にお参りがしたい』っていうから、そうすることにしたの。」


 兄さまをうかがうと理解しかねるように難しい表情。


「だから、お参りしたその寺で、浄見と共寝するってことか?」


 はぁっ??!!


 ブンブン首を横に振り


「ち、違うっ!!日帰りだからっ!共寝しないのっ!!

 一緒にお参りして帰ってくるだけっ!」


 兄さまは目を細め疑わしそうに


「昼間に共寝することもあるだろ?

 なぜないと言い切れる?」


 引き続きブンブン首を振り続けながら


「そ、そんな暇ないっ!多分、行って帰ってくるだけで日が暮れるしっ!

 絶対それは無いってっ!

 忠平さまもそう言ってたしっ!」


 言ってた??かな??


 自信ないけど。


 兄さまは扇を唇に押し当て、


「ふ~~~~ん。

 ま、いいけど。

 最後は浄見が決めればいいんだ。

 私は浄見の決断に従うよ。

 じゃ、もう行く。」


 呟くと、風のように音もなく素早く立ち上がり、背を向けた。


 私も慌てて立ち上がり、見送ろうとすると、立ち止まった兄さまが背を向けたまま


「ほかの女子のもとから帰ってこない夫を待ちわびて、恨んで、ついには幽霊になって恋敵に憑りつき呪い殺す妻の気持ちが身に染みる。

 よくわかるよ。

 共感で胸が痛くなる。

 いっそ恋人を殺してしまえば、この苦しみも終わるのかと思えば、それを考えない夜が無いとは言えない。」


 は?


 え??


 回りくどい言い方っ!!


 何が言いたいのっ??


 キョトンとしてると、顔だけをこちらに向けて


「四郎や影男を呪い殺しそうだ、と言ってるんだ。

 最後は誰かさんもね。」


 えぇっっ??!!


 やっと意味が分かって、兄さまの背中にギュッ!と抱き着き


「じゃなぜ恋人を放っておくの?

 ひとりぼっちにしてるのは兄さまでしょ?

 私が毎夜、影男さんや忠平さまと浮気してるとでも?」


 兄さまのお(なか)に手を這わせ、官能を引き出すような、まといつくような手つきで動かした。


 グイッ!と兄さまが私の腕をとり、お(なか)から引きはがし、


「私が何も知らないとでも?

 影男に房中術の書を頼んだとか、四郎にお礼に口づけしたとか、宮中や枇杷(びわ)屋敷には私の目が届かないとでも?」


 ギクッ!


 として、冷や汗が背中を伝い落ちた。


 (やま)しさで血の気が引き、官能的な気分が吹っ飛んだ。


 兄さまが振り向き、私の肩に手を乗せ、身をかがめて顔を覗き込み、目を合わせて、幼子に言い聞かせるように


「浄見を責めてるわけじゃない。

 恋多き女子になるんだろ?

 飽きれば私の妻になってくれるんだろ?

 だけど、私だって男だ。

 いつもいつも浄見にいいように操られて慰めるだけの『都合のいい男』扱いされることには耐えられない。」


 浮気がバレてたのが恥ずかしいのと、誘惑したのを拒絶されたのが恥ずかしいのと、兄さまは思い通りになるって考えてた魂胆を見透かされたのが恥ずかしいのと、下手な誘い方だった?のが恥ずかしいのとで、唇を噛みしめ、うつむいて、ジッと固まり、この世から今すぐ消えてしまいたくなった。


『もう何でもいいから今すぐここから出て行ってよっ!!早く一人にしてっ!!』


 って泣き出しそうな気持で、床を見てジッと立ちすくんでると、グイッと顎を掴まれ、上を向かされた。


 細い鼻梁の鼻と、薄い桃色の潤んだ唇と、うっすら髭の伸びた口元が近づき、唇で唇が覆われた。


 長いしなやかな舌で奥を掻き回され、吸いつくされ、慈しむように愛情を注がれた。


 兄さまの頸に両腕を絡め、しがみついて口づけを交わすと、全身がとろけそうな気持ちになり、鼻から抜けるような官能の喘ぎ声が漏れる。


 下腹部の奥が熱く(うず)く。


 チュッと音を立てて唇を放した兄さまが


「浄見はズルい。結局、負けるのはいつも私なんだ。」


 そう呟くと、その夜は、空が白むまで兄さまと仲良くして過ごした。



  三日後、忠平さまと私の日程を合わせて、京の都の郊外にあるxx寺に出かけた。


 朝から馬を並走させ二人きりで。


 私は以前、兄さまから借りた同じ馬を貸してくれることになったので、何度か馬場に通い詰めて、雌の愛馬『わらび』と旧交を温めて?準備万端にして臨んだ。


 私の『わらび』は雌の鹿毛で線が細くて体重も軽いし体高(たいこう)もそんなに高くない。


 だけど忠平さまの愛馬『優隼丸(ゆうしゅんまる)』は黒い(たてがみ)が艶やかに輝く、立派な体格の筋骨隆々の黒鹿毛で、骨も太く体重も重く力が強そう、なのに(はやぶさ)のように俊敏で飛ぶように駆け走りそうな、『誰が見ても!』な名馬。


 (あるじ)に似て(ずる?)賢そうだし、野性的で勝ち気で我儘(わがまま)そうなところもありそう。


 (あるじ)も愛馬も、(たくま)しくて溌剌(はつらつ)として躍動的で、どちらも見とれそうになるほどの自然の造形美!!


 だけど忠平さまは道中、いつもと違って表情を曇らせ、ずっと黙り込んで何か考え込んでるみたいに静かだった。


 萎烏帽子に水干・袴の従者姿に身をやつして、同じく水干・括り袴・束ね髪の私と並ぶと、従者二人が並んで馬を走らせてるように見える。


 浅黒い肌に難しそうに眉間(みけん)にしわをよせ、口元もキッと引き結んで、二人で遠くへお出かけ!を楽しんでる雰囲気じゃない。


 心なしか顔色が悪く、具合が悪そうに見え、心配になったので


「どうしたの?

 ずっと黙ってるけど、お体の具合が悪いの?」


 忠平さまはまっすぐ前を向いたまま、馬を一定の速さで歩かせながら


「・・・・いや。別に。どこも悪くないけど。」


 もっと楽しい雰囲気の行楽だと思ってたので拍子抜けした私は、少しでも楽しませようとできるだけ明るい口調で


「年子さまと兄さまがね、美味しいキノコを食べたんだって!

 珍しくてなかなか手に入らない、旨味の強いキノコですって!

 (しい)の枯れ木に生えるらしいって、忠平さまは食べたことある?」


「・・・・・・・」


 考え事に集中してるのか、質問に答えず、まっすぐ前を見つめ無言。


 私はめげずに別の質問。


「これからいくお寺って何があるの?

 何か有名な仏像があるとか?

 五重塔があるとか?

 今なら睡蓮(すいれん)紫陽花(あじさい)の花がきれいとか?」


 これにはハッとしたように私を見て


「あぁ、xx寺はね、馬頭観音と地獄変相図(へんそうず)が有名なんだ。

 私も最近そのことを知って見てみたいと思ってたんだ。」


 最低限の会話をすると、また前を見て黙り込む。


 無理にしつこく話しかけても会話が続かないからそれ以降は黙ってついていった。

(その5へつづく)



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