EP595:伊予の物語「三悪趣の半獣(さんあくしゅのはんじゅう)」その1~伊予、いかがわしい噂を立てられる~
【あらすじ:いかがわしい噂を立てられ、何とかしなきゃ!って焦った私は、義弟君とキッパリ縁を切るため、最後の遠出でお寺参りをすることになった。
地獄絵図と馬頭観音が有名なそのお寺で、名門関白家の黒い噂やその子息として生きる覚悟がどれだけ大変かを知ることになった私は、義弟君への尊敬の念を新たにした。
親の罪を子が償うために、地獄でまでも苦しめられるってあり得ないほど可哀想?
私は今日も決意するたび翻す悪趣の沼から抜け出せない!?】
今回は一話ずつ毎日23:20~公開します!
よろしくお付き合いお願いいたしますっ!!
梅雨の『中休み』とは思えないほど、晴れ渡り、強い陽射しが照り付け、ぐんぐん気温が上がった六月のある日のこと。
枇杷屋敷で臺与に『ざまぁ』した日から、すでに一週間以上経過していた。
雷鳴壺にお使いに来た茶々と私の房でおしゃべりしてると、急に茶々が面長でほっそりとした顔に扁桃形の生気のある目を細め、眉根を寄せ、いつもは口角の上がった口元をへの字にして、不機嫌そうに
「唐花殿の女房だったかしら?知り合いの子がね、あなたのことを悪く言ってたんだけど・・・・聞きたい?」
えっ??!!
悪くって・・・・『陰口』ってこと?
まぁ、臺与や廉子さまと揉めたあとだし、その方向から不快な風が吹いてきてもおかしくない。
グッとお腹に力を入れて、覚悟を決めてウンと神妙にうなずき
「聞きたい!なんて言ってたの?」
茶々はためらうように、ゴクッと唾を飲み込み
「あのね、嘘だとは思うし、間違ってたらごめんなさいだけど・・・・」
じれったくなった私は
「いいから!気にしないで!」
続きを促すと茶々は意を決したように
「伊予がね、左大臣さまだけでは飽き足らず、弟君の上皇侍従さままでを虜にして、二股かけて楽しんでるって!
その子が言うには、枇杷屋敷で伊予が女主きどりで寝所に兄弟二人を侍らせ夜伽をさせるだけでは飽き足らず、大人の玩具?とか鞭とかそういう道具を使って、三人でいかがわしい行為に日夜ふけってるっていうの。
嘘よね?
あの伊勢さんだって、仲平さまや時平さまと付き合うときは一人ずつだったでしょ?
同時に兄弟二人と付き合って、そういう行為を一緒にだなんて・・・ねぇ?
いくらなんでも、倫理的に堕落してるし淫蕩すぎるわよね?!」
最後は、もし事実だった時に私を傷つけないためか、半信半疑の探るような上目遣いでチラ見して呟いた。
はぁっ??!!
顔から火が出るほど真っ赤になって首をブンブン横にふり
「違うっ!!そんなことは絶っっっ対っ!にっ!ありえないからっっ!!
嘘も嘘っ!大嘘よっっ!!
信じないでねっっ!!
恥をかかされた仕返しに臺与が流した嘘の噂だからっ!!」
それにしてもヒドイっっ!!!
私だけじゃなく、兄さまや忠平さまの名誉まで貶めてるっ!!
忠平さまが廉子さまの侍女に『兄の側女と仲良くしてることを世間に公表されてもいいのか?』と脅されてたけど、人品を卑しめるような噂を流すなんて、ホントっ!腹黒いっ!し、底意地が悪いっっ!!
黙ってプンスカ!怒ってると、茶々は細い横目で私の様子をうかがい、不信感まるだしで口をとがらせ
「でもぉ~~~そこまでじゃなくても~~~、実際、伊予って上皇侍従さまに言い寄られてるんでしょ?
ごまかしたって無駄よっ!
女の勘を舐めないでよねっ!
臺与に復讐するときだって、枇杷屋敷を貸してもらったり一緒に演奏したりして手伝ってもらったんでしょっ?!
わざわざ伊予のためだけにって、メチャクチャ愛されてる証拠じゃないっ!」
拗ねたように呟きジトッと睨みつける。
た、確かにっ、忠平さまの誠意というか、尽力というか、ずっとお世話になりっぱなしで、ありがたいし、ちょっと好きになりかけてるというか、頼りになるっ!ってグラついてるのも本心なので、やましくて茶々から目を逸らし、
「で、でも、付き合ってるとか、男女の関係とかじゃなくて、仲のいい男友達?だしっ!
兄さまから乗り換えるとか、二股するとか、そんなことするつもりはないしっ!」
モゴモゴ言い訳してると、茶々は落ち着いてるけどピリピリした雰囲気でスッと立ち上がり
「ふ~~~ん。
でも、もう、私には関係ないし。
伊予の好きにすればいいんじゃない?
じゃ、ね。」
冷めた低い声で呟いて、私に背を向けて立ち去った。
ずーーーん、と重いものが胃のあたりにのしかかり、気持ちが沈んだ。
茶々を傷つけた?
忠平さまと付き合うつもりもないのに、態度をあいまいにして気を引いて、その気にさせて、チヤホヤされていい思いをしてるって思われた?
うん。
そうかもしれない。
影男さんでも、忠平さまでも、私のためにいろいろ気を使ってくれて、大事にしてくれて、機嫌を取ってくれるって、心地いい。
愛されてるって実感すると、生きてていいんだ!って自尊心が上がる。
真剣な、熱のこもった、激しく求めるような眼差しで見つめられると、心の奥が沸き立つように騒めいて、ドキドキする。
嬉しいっ!って気持ちが湧き上がり、ウキウキする。
忠平さまを嫌いだったころは、好かれても迷惑で気味が悪くて嫌悪感しかなかったけど、今は告白されるたびに動揺するぐらいは好きになってる。
好きな人に愛されるのはいい気分。
でも、ずっとこんなことしてると、気が多くて、浮気者で、流されやすい、淫乱な女子って兄さまにも思われそう!
そろそろ忠平さまに借りを全部返して、会うのをきっぱりやめなくちゃ!
本気で『恋愛ごっこ』はやめにしましょうって言わなきゃ!
考え込みながら、御座にいらっしゃる椛更衣の横に座り込むと、椛更衣はお読みになっていた文を隠すようにクルクルと巻き、文箱の中におしまいになった。
ん?と違和感を感じた私が
「どちらからの御文ですの?」
椛更衣は慌てたように文箱の蓋をキッチリして
「え?ええっと、年子姉さまよ!
最近、どこか山で採れたキノコをいただいて食べたんだって!
それがとっても美味しかったって仰ってたわ!
火鉢の炭の上に網を置いて焼いて食べるんですって!」
私はシメジのもっと旨味の強いキノコの味を想像し、口いっぱいに唾が湧き
「へぇ~~~!羨ましいですわ!私も食べてみたい!めずらしいキノコですの?」
椛更衣は焦ったように
「え?そ、そうなのかしら?名前は知らないキノコだったわ!
ところで、ね、伊予っ!」
と鋭く呼びかける。
(その2へつづく)




