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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の物語(恋愛・ミステリー)

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EP593:伊予の物語「叛心の安禄山(ほんしんのあんろくさん)」 追記その1

忠平さまがキョトンとした顔で


「さっきまで上機嫌だったのに、なぜ急に怒ってるんだ?」


私は煮えくり返る怒りでイライラしながら


「だって!兄さまにずっと無視されてるんだものっ!

 謀反を起こす直前の安禄山(あんろくさん)の気持ちよっ!」


忠平さまは声を出して笑い


「なんだそれっ!伊予が安禄山(あんろくさん)?!

 よし、じゃあ、時平皇帝に謀反を起こせっ!

 三行半(みくだりはん)を突き付けて、離縁しろっ!」


言ったあと、突然、真面目な表情で私を見つめ


「で、私の妻になれ。兄上はあきらめて。」


少し彫りの深い目元に、切れ長な目は刃物のように鋭く、瞳の奥には燃えるような情熱が揺らめいていた。


一瞬で、茶化すように、おどけた口調に戻り


「だって、今日の私はかっこよかっただろ?

 兄上より!

 美男子だし、龍笛(りゅうてき)も上手いし、皮肉も的確で廉子(やすこ)女王をやり込めた。

 復讐相手全員を呼び出し、謝罪の言葉を引き出した。

 どれをとっても非の打ち所がない!」


エヘン!と威張るように胸を張る。


忠平さまの活躍に感激してたので素直にうなずきながら


「うん!かっこよかったわ!

 最高に素敵な殿方!

 美男子だし、博識だし、器用だし、芸術的な才能もあるし、もちろん頭もいいし!

 忠平さまより有能な人って見たことないわ!」


というと、忠平さまはニヤケた顔で冗談っぽく肩をすくめ


「じゃ、ご褒美は?」


私はためらわず、素早く忠平さまに近づき、(くび)に両手を回した。


忠平さまが驚いたように目を見開いた瞬間、グッと背伸びして、唇に唇を押し付けチュッ!と音を立てて離した。


呆気にとられた忠平さまはそのまま硬直してた。


つぎの瞬間我に返り


「は?え?いや、違うっ!いまの無しっ!もう一回っ!」


「だ~~~めっ!終わり!また次の機会にね!」


言いながらも、忠平さまと過ごす時間が、楽しい、温かい、ホッと安心する、大切な時間になりつつあることに気づいて、戸惑い、そしてチクッと胸が痛んだ。



************



時間を少し巻き戻して、臺与(とよ)への復讐劇を準備してる間の出来事。


私は『長恨歌(ちょうごんか)』の漢語(からことば)の発音を、まず影男さんに訂正してもらおうと、夜、雷鳴壺の自分の(へや)に呼び出した。


私は漢字の横に仮名で、自分のわかる範囲の漢語(からことば)の読み方を記した。


その紙を読んでる影男さんの横顔を見つめながら、私がポツリと


「兄さまが私のことを『不器用』って言ったんだって」


影男さんは『長恨歌(ちょうごんか)』の訂正に没頭して、上の空で相槌(あいづち)


「そうですか」


を打つ。


私はまた、尖った顎と尖った鼻と文字を追う鋭い眼差しを見つめながら


臺与(とよ)がね、聞いたんだって。

 私が幼稚で、色気が無くて、手先も不器用だから『男性を愛する技術が無い』って言いたいのよ!

 兄さまもそう言いたかったんだと思う?」


影男さんがまだ書に没頭して、話半分な感じで


「え・・・はぁ、そうかもしれませんね。」


私はちゃんと聞いてくれないことに苛立ち始め


「でね、相談なんだけど、房中術?の指南書なんてどこかにある?

 読んで勉強したいんだけど?」


バッと影男さんが初めて文字から顔を上げ、私を見つめ


「は?ええっと、確か、『医心方』の「房内篇」に房中術に関する記述がありました。

 ですが、あれは神仙のように、不老長生のために陰陽の交わりを行うことで男性が女性から陰気を補い、精気を保持し養生するための術です。

 あなたが望むのは・・・その・・・男を、左大臣を喜ばせるための技術でしょう?

 その記述はありませんね。

 あくまで男性が女性を扱うときの方法で、女性の心身の準備や興奮状態の見分け方や、体位や、交わりの際の動かし方や・・・・そういったものが記してあるだけです。」


照れてるのか、全体的に歯切れが悪い。


三白眼の瞳が大きくなって輝き、体から放たれた、汗と香の混じった熱気が、一瞬、強く鼻を突いた。


男性の、野獣のような、たくましい、精気にあふれた(にお)いに胸がドキン!と高鳴った。


焦って目を逸らし


「そうなんだ!知らなかった!じゃ、読むのはあきらめるね!」


カサッ


影男さんが紙を床に置き、正面から私を見て、真剣な顔で


「私が練習台になってあげましょう。」


と言いながら水干を脱ぎ捨て、袴の紐を解いて少し下げ、小袖引き抜いて紐を解き、(えり)を開き、畳の上にあおむけになった。


はだけた(えり)から、厚い胸板やおなかの、盛り上がった筋肉と、くっきりとした境界線がチラ見えする。


鼓動が速くなった。


さらに焦って手を前でヒラヒラ横に振り


「は?!いいっって!遠慮しますっ!」


影男さんが肘をついて上半身を起こし、私の腕を引っ張ると、手を自分の素肌の胸に触れさせ


「いつもヤツにしているようにしてみてください。

 どこが悪いのか添削してあげましょう。」


指に、影男さんの張りのあるしっとりと湿った温かい肌の弾力を感じた。

(追記その2へつづく)

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