EP578:伊予の物語「庚申の色夜(こうしんのいろよ)」 その11~撫子、藤にぞ匂う~
目が覚めると、まだ夜は明けてなくて、薄暗い中で隣に誰かが寝てる気配にびっくりして心臓が跳ね上がった。
立烏帽子のまま、自分の手を枕にして仰向けに寝てる、白い狩衣姿の男性。
白檀と汗の混じった、懐かしい、かぐわしい匂いにすぐに誰なのかに気付いて、身を起こし、顔をよく見ようと、肘で這うようにして近づいた。
肘で上半身を支え、上から顔を覗き込む。
青白い白皙の肌に、筆で引いたような目元。
ツンととがった鼻と少し開いた薄い唇からは、一定の拍子で寝息が漏れる。
狩衣の胸も深く、ゆっくり、上下する。
私を無視して、心地よく眠っていることにじれったくなって、寝息を立てる美しい薄桃色の唇に、乱暴に唇を押し当てた。
チュッ!とすぐに唇を離すと、まだ同じリズムで寝息を立ててる。
枕にするように狩衣の胸に頭をのせ、顎のほうから寝顔を観察した。
いつ私に気付くのかな?
呼吸してる胸が上下するたびに、顔が持ち上げられたり、下がったりするのを楽しんでると、息苦しくなったのか、呼吸が浅く速くなり始めたので
『ヤバっっ!!苦しくなった?!』
心配になって胸から顔を上げると、
パチッ!
兄さまが目を開き
「いいよ。のせてて」
私は体を起こし、座った姿勢になり
「いつから枇杷屋敷に来てたの?」
兄さまは口ごもるようにムニャムニャしながら
「浄見が元佐と東の対に入ったころから」
不機嫌そうに呟いた。
私はゴソゴソと狩衣の衿紐をはずし、狩衣の腰紐をほどきながら
「あのね、みんなでね、色数を多く含んだ和歌を詠む遊びをしてたの。
『潤色』とか『常盤色』とか『夏虫色』があるなんて知ってた?
忠平さまは『百色』で色数が百ある!とかズルしてたけど。
兄さまならどんな和歌を詠む?」
言いながらも狩衣の腰紐をほどき終えたので、前身ごろを開いて、小袖と指貫姿にし、次は指貫の腰紐にとりかかった。
兄さまは私のしてることを見つつも、姿勢を変えず
「そうだな・・・・・う~~~~ん。
思いつかないな・・・・・・やっぱり和歌は苦手だ。
・・・・・浄見、何をしてる?」
最後は探るような怪訝な声。
私は指貫の腰紐と小袖の腰紐をほどき終えたので、小袖を引っ張り出してはだけ、兄さまの裸の胸を露出させたところだった。
「何って、私は恋多き女子よっ!」
言いながら、くっきりと境界のある、美しい胸の筋肉に、唇を這わせた。
兄さまがいつもするように、胸の谷間や、おなか、鎖骨を、唇でなぞり、徐々に円を描くようにゆっくりと、胸の、敏感な、とがった先端に近づく。
とがった敏感な先端を、口に含むと、兄さまがビクッと体を震わせ、吐息を漏らした。
舌で包むように触れ、何度も動かして刺激するたびに、兄さまは痙攣するように体を震わせ、うめき声をあげる。
眩暈のように淫らな気持ちが沸き上がり、突き動かされ、指でおなかをなぞり、ゆっくりと手を袴の下に潜り込ませた。
胸に口づけながら硬く満ちたそれを柔らかく包み、ゆっくりと動かし、官能を引き出そうと刺激する。
「・・・あぁっっ・・・」
我慢できず喘ぎ声を上げた兄さまが愛おしくて、動きを速めようとすると、ガシッ!と私の顔を両手で包んだ。
兄さまも顔を上げ、持ち上げた私の顔を見て
「元佐にもこんなことをしたのか?」
上気してるのに、ひそめた眉に怒りをにじませ、イラだったように唇をかみしめてる。
私は悪びれず余裕の笑みを浮かべながら
「さぁ?どう思う?」
挑戦的に問いかけると、もう一度、まといつくような手つきで兄さまのそれを、触れるか触れないかぐらい微かに握り、動かし始めた。
私の手の動きに合わせて、体を痙攣させていたのに、突然、意を決したように私の腕をつかんで、兄さまは上半身を起こし私を仰向けに押し倒した。
上から覆いかぶさるように四つ這いになった兄さまが、
「東の対から浄見が出てくるまでに、そんなに時間はかからなかった。
元佐があんなに早く済ませるとは思えない。」
深刻な悲愴な、泣きそうな顔で呟く。
私は袴の腰紐をほどき、兄さまは小袖の腰紐をほどくと、前をはだけ、胸に顔をうずめ
「浄見は私のものだ!全部、私のものなのにっ!」
悔しそうに呟くと、唇と指で激しく愛撫された。
気を失いそうなほどの眩暈と快感に襲われ、何度も悦楽の絶頂に上り詰めそうになった。
兄さまが私の中に入り、かき回し、突き崩し、固いこわばった快楽の結晶に、何度も打ち付け、ひびを刻んだ。
二人で一緒に、夢中になって官能の硬い膜の結晶を壊し崩し、裂け目からあふれ出る真っ白な世界と、全身へ広がる緊張と弛緩の波に、心身をあずけ震わせていた。
荒い息で速く浅く上下していた胸が、深くゆっくり呼吸できるようになるまで、二人だけの甘い罪の余韻に浸った。
けだるい疲労のままに、兄さまの胸に顔をのせると、
「浄見にとって私は何色?」
ゆっくりと上下する胸に顔をあずけながら
「兄さまの色?
う~~~~ん、そうね・・・・色じゃない。
光りよ。
光りがなければ、色なんて存在しない。
兄さまがいなければ、私にとって、この世は真っ暗なの」
フフン!と疑うように鼻で笑い、ふぅっ!と息を吐き、
「・・・・・そうだな。
色数が多い・・・・こんな和歌はどうだ?
『青丹よし 若草山の 杜若 きょうの撫子 藤にぞ匂う』
(美しい奈良の若草山に咲く杜若よ。
今日、都にさく撫子は、藤の花のようにやさしく美しく香り立っていることだ。)」
ふ~~~ん。
「なかなかよくできてる!と思う!
色は『青丹』『若草』『杜若』『撫子』『藤』色で、五色ね?
『奈良』と『京』を縁語にしてるところや、『今日』と『京』を掛詞にしてるところはいいと思う!
『紅』とか『紫』とか色を直接いうんじゃなくて、物の名前で色を取り入れてるところは合格点ね!」
兄さまに向かって偉そうに言えるのはこんな時ぐらい?
ムギュッ!
ほっぺたをつままれたかと思ったら
「それだけじゃないぞ!
『撫子』は『藤』のそばでこそ、美しく香しい匂いを放つんだ。」
拗ねたように、ポツリと呟いた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
最近ウィキペディアの『藤原時平』を見たら、二人目の妻が裁更衣(源湛の娘)(『公卿補任』による)となってました。
「二人目の妻は源昇の娘(ここでは年子)として醍醐天皇の更衣(ここでは椛更衣)とは姉妹という設定にしたのに!!
そうでなければ無理なストーリーなのに?!
全部書き変えなきゃいけないのかっ??!!
Σ(゜д゜lll)ガーン」
とショックでしたが、こちらは『尊卑分脈』によるという言い訳があるので、放置しておきます。
フィクションですしね!!(^_-)-☆




