EP576:伊予の物語「庚申の色夜(こうしんのいろよ)」 その9~伊予、謎解きの答えに不安になる~
元佐さんが
「若君は西の対を、姫君は幼いので北の対で奥様と一緒にいます。
ちなみに、伊呂波さんには穂経斗さん以外にも弟君が二人いて、弟君二人と若君は西の対を使ってます。
穂経斗さんは結婚して妻の実家に寝泊まりしてるそうです。」
まぁ!一気に登場人物が増えたっ!!
「でも、今まで言わなかったということは弟君は謎を解くのに関係ないのね?」
元佐さんは頷き
「そうです。はじめの情報だけで解けるはずです。」
忠平さまが顎をつまんでブツブツと
「東西南北に、青磁は青、小袖は白、緋袴は赤、黒漆の櫛の黒、青、白、赤、黒 のもの・・・・と、生卵、蜥蜴、蚯蚓、小魚、と言えば・・・・・生き物の餌か?
あっ!そうかっ!
なるほどっ!
わかったぞっ!!」
目を輝かせてハッ!と顔を上げて叫んだ。
爆速っっっ!!!!
もうわかったのっっ??!!
でも方角と色と生き物が関係するといえば・・・・アレよね?
というわけでハイッ!と手を上げ
「もしかして、お供え物?
東西南北の方向を守る神様、四神、東の青龍・西の白虎・南の朱雀・北の玄武にお供え物を置いたんじゃない?」
影男さんが
「確かにそう考えられます。
ですが、お供え物は方角の色の野菜や果物のほかには米、酒、木の実、果実が妥当です。
蜥蜴や蚯蚓や卵や小魚、ボロボロの小袖や緋袴や櫛を供えるなんて聞いたことがありません。
黒い種を供えるなら朱雀ではなく玄武に、青菜なら玄武ではなく青龍にすべきでしょう。
いったい誰が何のために四神に変なものをお供えしたんですか?」
それを聞いて、完っっ全っっに!ひらめいた私が
「犯人は正確な知識がない人よ!
中途半端に聞きかじったことから推測してお供え物を用意したから、そうなったの!
朱雀は鳥だから蚯蚓と菜種を食べると思ったし、玄武は亀だから小魚と青菜、白虎は虎だけど猫を見たことしかないので、蜥蜴、青龍に至っては蛇のようなものと考えて卵をお供えしたの!
つまり犯人は子供よ!」
望子さんが不思議そうに首を傾げ
「子供と言えば、姫君は小さいから、犯人は若君?
でも・・・・なぜ?
いたずら?
庚申の日に徹夜させられたけど退屈だからいたずらをして遊んだの?」
うん。
若君が犯人なのは正解だと思う。
でも、ただのいたずら?にしては・・・・変!?
わざわざ四方向の神様にする?
それより、必死で神様にお願いしたかったんじゃない?
どの方角の神様でもいいからかなえてほしい、『差し迫った真剣なお願い』があったんじゃない?
なのに、ボロボロの物を供えないわよね?
ボロボロになった理由がある・・・・
庚申の夜・・・・・
徹夜で過ごす・・・・・
父親が別の女子のところで過ごし、母子三人きりで・・・・
もしかして・・・・
と嫌な予感がして、私はそこで考えるのをやめてしまった。
自分の予想を確かめるのが嫌で、黙り込んだ。
元佐さんが望子さんに笑顔でうなずきながらパチパチ拍手した。
「そうです!
犯人は若君です!
伊予どのも正解です!
犯人は子供で、屋敷にはいたずらできる年齢の子供は若君しかいないですし!」
といった後、ぷっくりした頬をポリポリ掻きながら
「でも~~その理由に納得がいきませんね~~~。
穂経斗が言ってたんですけどね、伊呂波さんの妻が若君を虐待してたんだろうっていうんです。
庚申の夜に、徹夜で過ごすうちに、まだ小さい姫君は眠り込んでしまうけど、若君と母親は二人きりで過ごさなければならない。
伊呂波さんの浮気に腹を立ててた妻は、若君の顔を見るたびに浮気者の夫を思い出し、耐えられなくなって折檻してたんじゃないかって。
若君の腕を見ると、棒のような硬い物で叩かれたとみえる内出血と擦り傷があったそうです。
若君に話を聞くと、
『四神にお供え物をして折檻されませんようにと神様に頼んだのに、神様が願いを聞き入れてくれなかったから、ムカついて朝にお供え物を滅茶苦茶にした』
そうです。
小袖と緋袴は母親のものだったそうです。
でも、母親が愛する我が子を折檻するなんてことあるんでしょうか?
信じられません!」
それを聞いて、私の背中に冷たいものが走った。
嫌な予感が当たった上に、兄さまの状況と似てる、と思った。
でも、違うわよね?
廉子さまには若君と二人の姫君がいるし。
兄さまの弟君は大学寮に入ってない、と思うし。
だけど、廉子さまの気性なら、あってもおかしくないこと。
考えるだけで気分が落ち込んだ。
そのあとは、夜が明けるまで、双六する人たちがいたり、元佐さんが『史記』を朗読してくれるのを聞いたり、琴を弾いてみたり、おしゃべりしてたり、各々が好きなことをして過ごした。
けれど丑の刻(午前一時ごろ)を回ったあたりから、眠気に耐えられなくなり、
『三尸だろうが四尸だろうが、虫だろうが牛だろうが、天帝だろうが閻魔だろうが、何が何に悪行をどう告げ口したって関係ないっっ!!どーーにでもなれっ!!
眠いっ!!限界っ!!私は眠るっっ!!』
と思うくらい眠たくなった。
元佐さんと双六で勝負してたのに、いつの間にかウトウト舟をこいでて、盤の上に涎をこぼしそうになって、元佐さんにギャーギャー騒がれたので
ハッ!
と目が覚めたけど、やっぱり眠いのでねることにした。
当初の目的を思い出し『恋多き女子』を全うすべく、元佐さんに近づき、クイクイ袖を引っ張り
「一緒に寝ましょ?」
と媚びるように誘う。
元佐さんも眠そうだったのに、トロンとした二重瞼の目が突然パチッ!と音を立てて真ん丸に開き、白い顔が真っ赤になった。
「は、はいっ!!
い、伊予どのっ!そのっ!いいんですかっ?!
私でっ!
わ、私はっ、じ、実はっ、そのっ!!」
モゴモゴしてるので、イラッとして袖を引っ張りながら立ち上がり
「さ、行きましょっ!
東の対を使わせてもらいましょっ!」
勝手知ったるお屋敷なので、廊下へ出ようとスタスタと妻戸のほうへ歩いていった。
主殿で茶々とおしゃべりしてた忠平さま、琴を弾いてた望子さん、琵琶を弾いてた影男さんが、私たちに気付いてこちらを振り返った。
一応、屋敷の主に断っておくべき?と考え忠平さまに
「東の対をお借りしますね?眠らないようにしますから、規則違反じゃないと思うので」
と言い、ペコリと会釈した。
忠平さまが一瞬、言葉が理解できないように硬直し、あえぐように
「あ・・・・ああ。わかった。元佐も一緒・・・・なんだな?」
私は余裕の笑みを浮かべ、うなずき
「ええ。そうさせてもらいます。さ、行きましょ、元佐さん」
元佐さんの袖を引っ張って歩いていく目の端に写ったのは、私から素早く目をそらし、呆然としてうつむく影男さんの姿だった。
茶々と望子さんもポカンと口を開け、私の大胆な行動にあっけにとられてた。
どう?この大胆な行動こそ『恋多き女子』でしょ?
と得意になった。
(その10へつづく)




