EP574:伊予の物語「庚申の色夜(こうしんのいろよ)」 その7~伊予、和歌の良し悪しに悩む~
元佐さんがまた手をたたいて
「よっ!上皇侍従どのっ!!大トリですねっ!!大物は最後に登場ですものねっ!!」
はやし立てる。
忠平さまが
「では、私の歌は、動きのある風景を描いたと思ってくれ。
『百色に うつろう天に 月白く 鳶狐追う 春の曙』
(さまざまな色に移り変わる空に、月が白く残っている。鳶が狐を追っている――そんな春の夜明けである。)
色は・・・・何色だと思う?」
筆で引いたような切れ長な眉に、漆黒の瞳に光を宿した、少し彫りの深い目元は、命を懸けて挑んだような真剣勝負のまなざし。
薄い唇は片方だけ口角が上がり、誘うように、挑戦的に微笑みかける。
ひとりずつ全員を見渡し、ゆっくりと問いかけた。
茶々がウットリと見とれ、望子さんは『はぁ~~~』とため息をついた。
私も目が合うと吸い込まれそうになったけど、ブルッと頭を振って気を取り直した。
元佐さんが
「色数は、天、月白、曙の三色ですか?案外少ないですね!」
茶々が
「いいえっ!鳶、狐を加えた五色よっ!
それに情景が美しいわ!
夜の名残である月が白く輝いてる空が暗い色から多彩に移り変わる夜明けなんて想像するだけで美しいし、鳶が狐を狙って舞い降りてくるなんて躍動的で素敵!
天と動物、二つの自然が躍動的に響きあって見事よ!」
忠平さまが当然!みたいな自信満々な顔で
「お褒めいただいてありがとう。
だが、それだけじゃない。
色数はさらに百ある。
『百色』といっただろ?
だから色数は合計百五色で、数の勝負なら私の勝ちだ!」
誇らしげな静かな笑みをたたえた。
「はぁーーー??!!
百色っ??ってズルじゃないっ??
そんなのアリなのっ??!!」
思わず大声で叫ぶと、忠平さまが悪びれず肩をすくめ
「規則にはのっとっていると思うが?
結果は投票で決めるんだから、みんなの判断はそれではっきりするだろう。」
というわけで、どの和歌が一番良かったか?を自分以外の人に手を上げて投票することにした。
元佐さんが0票、茶々は私の一票、望子さんも0票、影男さんも0、と来て私の番。
「伊予殿が一番良かったと思う人、手を上げてください!」
元佐さんが言うと、影男さん、元佐さんが手を上げた。
「じゃ上皇侍従どのが一番だと思う人」
茶々と望子さんが手を上げた。
二対二で並んだ?と思ったけど、忠平さまが誰にも投票してない。
みんなが忠平さまを見つめると、困惑したように頭を掻いて
「自分のに投票できないなら、それ以上の和歌がないと思うので、棄権するしかない。」
まったくっ!
今までは人格者の振る舞いだったのに、結局、富裕貴族のおぼっちゃまらしいワガママでダダこねる!とかありえないっ!
元佐さんがちょっと悩んですぐ結論を出し
「では伊予どのと上皇侍従どのを同率一位とします!」
高らかに宣言した。
うん。それが真っ当よね!
それにしても、潤色とか常盤色とか、聞いたこともない色がたくさんあった。
色が多いことは悪いことじゃないかも。
『好色』『色好み』『色事』『色気』とか性的な魅力を表すのに『色』を使うけど、その『色』が多いことも悪いことじゃないのかも。
兄さまなら、どんな和歌を詠んだかな?
詠んでって頼んだら
「私は歌が得意じゃないから!」
って不機嫌になりそう。
眉をひそめ、目元に濃い翳をつくり、白皙の頬に、薄い唇をグッと引き結んだ、顎の線が鋭い美男子。
寂しそうで、守ってあげたくなって、胸が苦しくなるほど愛おしい、時平さまの顔を思い出した。
今すぐ逢いたいな~~~~。
でも、『恋多き女子』になると宣言した手前、一つの目的も果たさずには終われない!ので、隣で座る元佐さんの腕に手を置き、もう片方の手で袖をクイクイ引きながら小首を傾げ
「次は何をするの?
まだ夜は明けてないでしょ?」
かわいらしく問いかけると、ビクッ!と体を震わせ、真っ赤になった元佐さんがブルッ!と武者震い?した。
意を決したように腕に置いた私の手に手を重ね、
「安心してください!
『怪談』を用意してます!」
言い聞かせるようにつぶやくと、サッと立ち上がりみんなに向かって大声で
「オホンッ!
え~~~皆さんっ!
今から怪談を話しますが、その中にはひとつの謎があります。
その謎を一番早く解決した人には、褒賞として、私の大切な、司馬遷の『史記』の一部を書き写した『写本』を贈ります!!」
といった後、拍手と歓声が起こると思ったのか、片耳を前に出し耳をすませる仕草。
だけど、シ~~~~ンと静まり返り、茶々がボソッと
「漢文の写本でしょ?私は要らない」
聞こえるか聞こえないかぐらいの声で呟いた。
シュンとうなだれた元佐さんを庇おうとして
「私は欲しいっ!史記の写本っ!!頑張って謎を解くから、お話を聞かせてっっ!」
元佐さんが上機嫌にもどって笑顔を浮かべ、ストン!と座り込み、
「では、怪談を始めます。
つたないところお聞き苦しいも多々あるかと思いますが、お許しいただきたい。」
と前口上を述べて、次のような話を始めた。
(その8へつづく)




