EP573:伊予の物語「庚申の色夜(こうしんのいろよ)」 その6~伊予、色とりどりの和歌を楽しむ~
私はすっかり感心して
「草色は草の色で緑色系統なのはわかるけど、天色って青色?空の色?」
茶々がニヤッ!と得意満面で
「そうよ、青が強い空の色ね!
潤色は灰色っぽい深い青色ね!
常盤色は松や杉などの常緑樹の葉のような、茶みを含んだ深みのある濃い緑色よ!」
エヘン!と威張る。
影男さんが首を傾げ
「色数は多いですが、意味はどうでしょう?色の名前を並べただけのようですね。」
忠平さまが首を横に振り
「そうじゃない!
色を並べただけじゃなく工夫が凝らされてるんだ!
『紫雲』『天の鶯』『常盤』と吉兆を示し、喜びと祝福を表す、寿ぎの言葉が並んでるだろ!
全体を通してこの世の安寧と太平を祝う歌になってるんだ!」
茶々も褒められてくすぐったそうにモジモジして頬を紅潮させ、満足そうに頷いた。
なるほど~~~!
忠平さまの的確な解説に納得!
かつ七色もあるなら、茶々の勝ち確定っ??!!
私のは変じゃない?大丈夫かな?とドキドキしてきた。
望子さんが恐る恐るハイッ!と手を上げ
「私はお二人のようにたくさんの色を入れることができませんでした。
だけど、冬から春への移り変わりの美しい景色を詠みました。
発表してもいいですか?」
誰にともなく問いかけるので、みんなウンウンとうなずくと、望子さんはスゥッと息を吸い込み
「では発表します。
『紅に 萌黄かさねて 白妙の 雪に映ゆるは いとをかしけれ』
(赤や緑の装束を重ね着て、真っ白な雪に映えるその美しさを見るのは、この上なく心躍る楽しみです。)
色は紅、萌黄(黄緑)、白です。」
望子さんは影男さんの表情を伺い、無反応なのを見てがっかりしたようにため息をついた。
すかさず忠平さまが
「襲の色目『萌黄の匂』を詠んだんだね!
純白の雪の上に美しい女房装束の女性がたたずんでいる景色が目に浮かぶよ!
女房装束の衣の色を詠むだけで、宮中という『場所』と、勤める若い女房という『人物像』を思い浮かべることができるところがいいね!」
と庇う。
望子さんは目を輝かせてウットリと忠平さまを見つめ、ウンと小さくうなずいた。
今日で忠平さまの崇拝者が一人増えたのは確実っ!!
次は・・・と影男さんが私をチラ見し、決心したように手を上げて
「私が発表します。
冬の雪の夜を詠みました。
『漆夜に 雪のふりしく ねずの庭は 千歳緑の 椿ぞ燃ゆる』
(漆を塗ったような真っ暗な夜に、雪がしんしんと降り敷いている。寝静まることもなく雪を受け止め続ける庭園には、千年の時を経ても変わらぬ深い緑の葉を湛えた椿の花が、まるで火が灯ったかのように赤々と燃え咲いていることだ。)
色は漆、雪は白、千歳緑、椿を赤としました。
これで四色ですが・・・・・」
元佐さんが何かに気付いたようにあっ!と声を上げ
「もしかして、寝ずの庭の『ねず』は鼠色ですか?」
影男さんがゆっくりうなずき
「そうです。掛詞にして五色にしました。どうでしょう?」
私が
「白と黒、緑と赤、って確か縁起のいい色だし、対照的な色よね?それも計算したの?すごいっ!」
と感心すると、影男さんが照れ臭そうにうなずいた。
忠平さまがさっきとは打って変わって口をとがらせ
「鼠色を掛詞として使った、という以外は平凡だな!」
とあたりが強い。
最後は私と忠平さまの発表を残すのみとなった。
私は一応、二首作って、どっちを出すか迷ってる。
一つは、堅苦しい僧侶?が荘厳な仏教世界のことを詠んでるのを想像して作ったこんな歌。
『菖蒲澄み 蓮華におはす 仏の座 瑠璃の浄土に 白鵠の声』
(菖蒲の深い紫が静かに澄みわたり、仏様は蓮の花の上、すなわち仏の座にいらっしゃる。瑠璃色に輝く清らかな浄土には、真っ白な白鵠の清々しい鳴き声が響き渡っていることだ。)
色は、菖蒲色、瑠璃色、白の三色しかないように見えるけど、『しょうぶ すみ れ んげに・・・』のところで『菫色』を含んで実は四色にしてる!(*蓮華色はありませんでした。)
白鵠は極楽浄土にいる白い鳥のこと。
瑠璃は仏教界で大切にされる宝の七宝の一つ。
で、さらに別の意味も含んでる。
『勝負済み』は『勝負が終わって』という意味もこめたし、『れんげにおわす』の部分は『蓮華にいらっしゃる』という意味と『蓮華の香りが匂い立つ』という意味を掛けた。
『瑠璃』のように透き通った青い水辺に、菖蒲や菫や蓮華が咲き、白鳥がいるのを見て浄土を連想して詠んだという体裁。
菖蒲、菫、蓮華という植物を三つつづけたあとさらに『ホトケノザ』という植物もつなげてみた。
なんとなく統一感が出た?
でも意味がブツブツ切れてるし、和歌としては美しくない。
だからいまいちの出来なんだけど、もう一首も似たような欠点があるので迷う。
でもエイヤッ!と覚悟して手を上げ
「私の歌を発表します!」
元佐さんがパチパチと手をたたき
「よっ!名人の伊予どのっ!待ってましたっ!」
とヤジる。
コホンッと喉をととのえ
「ええっと、年老いて落ち着いた年齢の女性が、夏に若者たちがはしゃぐのを見て詠んだと思ってくださいね!
『花の色 すぎて若苗 緑なり 夏虫さわぐ 群青の空』
(桜の花の盛りは過ぎ去って、田には若々しい苗が青々と茂り、夏を告げる虫たちが賑やかに鳴き騒いでいる。その上には、どこまでも深く澄み渡った群青色の空が広がっていることだ。)
色の数は、花(実は強い青色のこと)、若苗、緑、夏虫、群青、空の六色です!
夏虫色は明るい灰みの黄緑色の色で、脱皮したての虫の羽の色のことです。」
元佐さんが弾んだ声で
「色数も六色と多いし、夏の田で、虫たちが群がって飛んでる情景や、深い青の空が高く突き抜けてる感じが伝わります!
暑くてイライラして『飛んで火にいる夏の虫』が騒いでるような不穏な感じもありますし。」
茶々も感心したように
「そのままの情景のほかにも、年取った女性が若いころを思い出して、若者たちが向こう見ずな危なっかしさで騒いでる様子を夏虫に重ねてまぶしそうに眺めてる様子も伝わるわ!」
影男さんが
「夏虫が『群れる』ところを『群』青を使って連想させてるんですね?小技が効いてますね。」
褒められてうれしくなった私が
「そうです!伝わってよかった!
『群青』の漢語的な響きや『夏虫』の不穏な感じがさわやかな風景とは合わないかなとも思ったんだけど。」
と浮かれてると、忠平さまが口の端をゆがめてニヤッと
「じゃ、私と伊予の一騎打ちだな?」
不敵に笑った。
(その7へつづく)




