EP572:伊予の物語「庚申の色夜(こうしんのいろよ)」 その5~伊予、色の種類の多さに驚く~
元佐さんが周囲をさっと見渡し、オホンッ!と咳払いして立ち上がり
「え~~~では『守庚申』の会を始めたいと思います。
本日、庚申の夜に眠ってしまうと、我々の体から三尸の虫が抜け出し、天に上り天帝に罪悪を告げ、寿命を縮めてしまうので、皆さんは絶対に眠ってはいけませんっ!!
ま、私にはこの世で犯した罪悪はありませんので、眠っても大丈夫ですけど。
ええっと、では、眠らないための催しとして、伊予さんから提案された、『条件付き歌遊び』をしたいと思います。
伊予さん、説明をよろしく。」
みんなの視線が注がれる中、ちょっと緊張しつつ立ち上がり
「ええっと、今夜の歌会では、和歌に『色』を取り入れて詠み、色数が一番多い人が勝ち!ということにしたいです。
もちろん、色を並べただけでは『和歌』と呼べませんので、意味がちゃんと伝わって、上手に詠めたうえで、色数が多い人を勝ちとしたいと思います。(*日本古来からある色名の数を数えることにしました。)
判定は、いいと思った自分以外の和歌に投票する方法で行いたいと思います。」
私が話してる間に、元佐さんがみんなにいきわたるよう筆記用具と紙を配ってくれてた。
忠平さまが私にニッコリとほほ笑み口を開いた。
「いい考えだな!面白そうだ!色を詠むといっても方法はたくさんあるしな!」
茶々がキョトンとした表情で
「そうなんですか?すぐには思いつきませんけど・・・・」
望子さんが初対面の人たちにおじけづいたように、ためらいがちに
「あの、私は普段から和歌なんて詠んだことないんですけど・・・・」
忠平さまが愛想のいい、優しい声で
「気にしなくていいよ。好きなように詠めばいいんだ!
誰も批判したりしない!
型にはまってないからこそいい歌ができることもあるんだ!
自由にね!楽しんで!」
緊張を解きほぐすのがホントに上手っ!
人当たりが良くて、誰にでも気軽に声をかけて、懐に潜り込むのがうまくて、理解があって、どこでも人気者!!なところは、兄さまと全然似てない。
でもこれは表の顔かも??
裏では陰湿なことも平気でする人。
筆記用具を配り終えた元佐さんが隣に座り込みながら
「色数をたくさん入れるという目的があるから、和歌を詠みやすくなりました!
これで私にも、上皇侍従や影男に勝つ機会が訪れましたっ!
見ててくださいよ~~~~!伊予さんっ!」
ぷっくりした頬にえくぼを作って声を弾ませた。
ん?と言葉の意味を考え、
「勝つチャンスって・・・・私が上皇侍従さまや影男さんのほうが元佐さんより好きだと思ってるの?」
元佐さんは一瞬で真っ赤になり
「え?違うんですかっ?!もしかして、その、伊予さんにとって、私のほうが、男として『上』なんですかっ?!」
と汗をかき始めた。
「なぜ元佐さんは二人に負けてると思うの?」
元佐さんは真っ赤な顔で口をパクパクして
「え?だからっそのっ!伊予さんは、さ、左大臣の女子だと、噂で、聞きました。
あんな天下人を恋人に持つ女子なら、その弟君である上皇侍従どのや、内舎人である影男どのならまだしも、まだ学生で鳴かず飛ばずの私になんて、目もくれないだろうし、はなもひっかけないだろうと思いまして・・・」
『恋多き女子』としての第一歩に、元佐さんを選んだので、好きになろう!と心がけて、安心させようとして笑顔で
「そんなことないわ!
元佐さんは勤勉だし、知識が豊富だし、まじめだし、何より誠実だもの!
私の周りには人をだまして平気な人が多いから、元佐さんと一緒にいるとホッとするの!」
え?
兄さまや忠平さまを腹黒だって思ってるって?
もちろんでしょ!
元佐さんはさらに真っ赤になって顔から湯気をだして、口を開けたままポカンとしてた。
私は自分の紙と筆を手に取り、筆のお尻で顎をポリポリ書きながら、和歌をひねり出そうと考え始めた。
う~~~~ん、色をたくさん入れたもん勝ち?
って自分で言い出したのに、な~~んにも考えてこなかった。
トントン!
肩をたたかれて振り向くと、無表情な三白眼の、『世の中で面白いことは何一つない!』という顔つきの、影男さんが私を見つめ
「会いたかったです。」
ボソッと小声で話しかける。
情熱的な?言葉とは裏腹に傀儡のような無味乾燥な表情。
その後ろには、和歌を書く手を止めて、私と影男さんの様子を息をつめてうかがう望子さん。
『普通の男は女性から誘われたら断り切れない』と影男さんが言ってたのを思い出し、婚約者として望子さんがここにきてるなら、すでにそういう、『男女』の関係なのよね?
とチクッと胸が痛みつつ、影男さんに嫌味っぽく
「婚約されたの?おめでとうございます。
お美しい望子さんとたくましい影男さんは美男美女でお似合いですね!」
魂を取り戻した傀儡のように、柔らかく顔をほころばせた影男さんが
「おや?嫉妬ですか?」
魅力的な表情に見とれそうになったけど、フンッ!とそっぽをむき
「さぁ?嫉妬?なんてしてないわ!
する資格は私にはありません!」
フフンッ!と楽しそうに鼻で笑いながら影男さんは和歌を作る作業に戻った。
その向こうで望子さんが、私を目で殺しそうな勢いでにらみつけてた。
しばらくして、みんなの筆が止まったのを見計らって元佐さんがオホンッと咳払いし
「皆さん書けましたか?
誰から発表します?
誰もいないんですか?
じゃ、私からっ!!」
ひとりごとみたいにまくし立てて、続けざまに
「色を和歌の中にできるだけたくさん詠みました。
私の作品はこうです!
え~~~~秋の水辺の風景です!
『紅葉散る 青き水面の 白波に 黄金のひかり 紫の雲』
(鮮やかな紅色の紅葉が散り、青々とした水面の波間には白い泡が立ち、夕日の黄金色の光が、たなびく紫の雲を照らしています。)
どうですかっ??!!」
ドヤ顔で全員を見渡す。
私が
「色の数は、『紅』『青』『白』『黄金』『紫』の五色ですね!」
というと、茶々が
「『水』色もあるから六色じゃないの?」
忠平さまが
「そうだな。六色と数えよう。
ふむ。内容としては、鮮やかに彩られた情景が目に浮かぶいい歌だ。」
そうね!
やや平凡?
秋の夕日と紅葉の風景をそのまま直接的に詠んだって感じ?
茶々が勢いづいたのかハイッ!と手を上げ
「次は私の歌を発表します!
今のこの穏やかな世が永遠に続きますようにとの祈りを込めました。
『茜さす 紫雲たなびき 草潤み 天の鶯 世の常盤なれ』
(茜色に美しく照りはえる空に、高貴な紫の雲がたなびき、草木は瑞々しく潤っている。天高くで鳴く鶯のさえずりとともに、この豊かな彩りに満ちた世界が、どうか永遠に変わることなく続いてほしいものだ。)
色は『茜』、『紫』、『草』、『潤』、『天』、『鶯』、『常盤』の七色よ!」
へぇ~~~~!
それって全部色の名前なのっ?!
(その6へつづく)




