EP569:伊予の物語「庚申の色夜(こうしんのいろよ)」 その2~伊予、けんか腰になる~
私はビックリして飛び出すくらい大きく目を見開き唾を飛ばして
「はぁっっ??!!
そんなわけないでしょっっ!!
嫌いじゃないからっていきなり好きになるわけないでしょっ!!
あっ?!
じゃなくて違う意味で!!?
ならそうよね、人として、以前よりは尊敬できて、そういう意味では『好き』よ!」
兄さまは呆れたように
「は~~~~~~っ」
と長いため息をつき、
「浄見もやっぱり私に満足してないんだな?
だから影男や四郎とそういうことをしたくなるんだな?
私が物足りないから、ほかの男とそうなりたいんだな?」
うつむいて拗ねるようにブツブツ呟く。
えっ??
廉子さまが男性機能向上の生薬を欲しがってたって話したのがマズかったのっ??!!
傷ついてたのっ???!!!
私だけ(?)に見せてくれる、兄さまの、傷つきやすい、柔らかい内面に、キュンと胸の奥から愛おしさが込み上げた。
近づいて兄さまの腕に触れ、袖をクイクイと引っ張り、
「そんなことないわっ!
そうじゃなくて、兄さまのせいじゃなくて、私が、気の多い浮気者なだけよっ!」
充分満足してるっ!!
とかは、恥ずかしすぎて口に出せなかった。
兄さまはすがるような目でジッと私を見つめ
「じゃ、これからは?どうする?奴らとまだつきあう?」
息をつめて私の答えを待つ。
え?何?浮気しないっ!二人と会わないっ!と誓えばいいのっ??!!
でも、そもそも不可抗力だし、私から誘ったわけでもないし、この先も絶対ないっ!とは言い切れないし・・・・・
私が煮え切らない態度で断言しないことに業を煮やしたのか、ムスッ!とふくれっ面で兄さまが
「これからも、ヤツらとイチャつくってこと?
私が不愉快になっても気にしないってこと?」
口をとがらせる。
何と言っていいのかわからず
「えぇっ??!!
そ、そんなことないけど・・・・っ!
でも、兄さまだって『自分は若いころ多くの女性と浮名を流したのに、浄見がほかの男性と付き合えないのは不公平だ』とか、『いろんな男性と付き合ったうえで最後に選んでくれればいい』的なこと言ってなかった?
私が男友達と普通に会話するだけでもダメなの?」
兄さまは激しい痛みに襲われたように苦痛の表情を浮かべ、私から目をそらし
「わかった。
じゃ、満足するまで好きなだけ男と遊べばいい。
遊び飽きたら屋敷に入って妻になってくれればいい。
私が自分で蒔いた種だ。
若いころのツケを今払ってるんだ。
浄見にだけ理不尽な要求をできる立場じゃない。
じゃ、今日はもう帰る。
浄見は四郎とここで寝ればいい。」
怒ったような、泣き出しそうな顔で、眉根を寄せ、グッと唇をかみしめ、私を忌まわしいもののように無視して立ち去ろうとした。
好きなだけ男と遊べっ!!???
なんて『尻軽好色浮気女』の標識を張られた気がして、一瞬で怒りが頂点に達し
「ええそうねっ!
兄さまがそう言うなら、そうさせてもらいますっっ!!
私はどうせ『尻軽好色浮気女』ですからっ!!
忠平さまや影男さんや、そうね、元佐さんや、狭野方さんや、ほかにも大勢の殿方と一夜限りの恋でもして、兄さまに負けないぐらい浮名を流して目一杯、若い女子であることを楽しみますっ!!
男漁りに飽きてヨボヨボのおばあさんになったら、兄さまの屋敷に入って妻になってあげますからねっ!!」
べぇっっ!!
と舌を出し、憎らしく見えるような変顔で兄さまに喧嘩を売った。
兄さまはカッ!と血が上ったように怒りで顔を真っ赤にしたと思ったらすぐに血の気が引いた真っ青な顔になり、ふぅっ!と小さく息を吐き
「そうだな。思い出したよ。
昔から浄見はわがままだった。
私を顎で使ったうえに死にそうになるくらい心配をかけ、泣いたと思ったら翌日にはケロッと平気な顔だったな。
今まで振り回されっぱなしなのに、なぜ耐える必要があったんだ?
・・・・・・この先のことを考え直すいい機会かもしれない。
私の中の浄見という存在を見つめなおすいい機会をくれてありがとう。
じゃ行くよ。さよなら。」
冷たく言い捨てて、私に背を向けて、さっさと立ち去ってしまった。
はぁっ??!!
ってどーゆー意味っ??!!
浄見という存在を見つめなおすって、見つめなおしてどーーーーするのっ??!!
子供のころのわがままは許せたけど、大人になった今は許せなくなったってこと?!
それとも子供のころから積もりに積もったわがままに耐えられなくなったってこと?
だからってどーーするつもり??
別れるのっ??!!
子供のころですって?
顎で使った覚えはないし、心配をかけた覚えもないっ!!
勝手にそうしてたんでしょっ!
振り回した覚えは一切ないのにっ!!
まったくの濡れ衣よっ!
でも・・・・・・・
兄さまの怒りは最後通牒を突き付けるぐらい大きくなったのね?
ふんっ!
こっちだって三行半よっっ!!
兄さまじゃなくたって、私を好きって言ってくれる殿方はたくさんいるんだからっ!!
いーーーーーっぱいっ!!心ゆくまでっ!!恋愛するんだからっっ!!
兄さまとは・・・・離縁?
という言葉を思い浮かべると、石を飲み込んだように胃のあたりに違和感があった。
筋力を失ったように体が怠く重くなった。
引き裂かれたように胸の奥がズキンと痛くなった。
兄さまを失う、と想像しただけで、涙がこみ上げそうだった。
しっかりしてっ!!私っ!!
こんなことで楽しい独身生活を満喫できる??!!
さーーーーあっ!!男漁りに精を出すわよっ!!
ギュっと固くこぶしを握り締めた。
さっそく今夜、兄さまへの当てつけで忠平さまと一緒に夜を過ごしてやるっ!!
と考えたけど、誘うのが面倒だし、一緒に寝る?のを想像するだけでも疲れるしで結局、何もせず、そのままひとりで東の対で眠ることにした。
(その3へつづく)




