EP567:伊予の物語「砂上の雲母(さじょうのきらら)」 その8~伊予、雲母を金と見紛う~
そうやって仲良くなればいいのか~~~!
勉強になるな~~~!
それに引き換え私は、廉子さまと仲良くなろうとする努力もせず、忠平さまにも恩返しも出来ず、臺与のように自分を犠牲にしてまで目的を達成しようともせず、な~~~~んにもできない、ダメダメ人間だな~~~~!
一つぐらい頑張って何かを達成したいっ!!
今の私にできることって何?
目の前の忠平さまに恩返しすること??
それはできること・・・・かもっ!!
そうだっ!!
アレをすればいいんだっ!!
あることをひらめいて、ウキウキと楽しくなった。
忠平さまの両腕を、私もガシッ!と掴み、ジッと目を見つめ
「あのね、今まであなたの好意に甘えっぱなしで、ずっと恩返しできなくて不甲斐なくてごめんなさい!」
忠平さまは脱力したようにキョトンとして
「え?何のこと?」
私はさらに掴んだ腕をギュッと握りしめ
「だから、せめて恩返ししたいの!
私が出来ることならなんでも、どうしても、自分を犠牲にしても、恩返ししたいのっ!!」
忠平さまは急に焦ったように蒼白な顔になり、そのあと血がのぼって真っ赤になった。
「え?自分を犠牲にして?って、つ、つまり、どういうこと?
・・・・つ、つまり・・・・・?」
モゴモゴしながら上目遣いでチラチラ私を見る。
「頑張るからっ!
寝る間も惜しんで、使える時間は全部使うからっ!
眠いとかめんどくさいとかだるいとか、文句言わず、全力で打ち込むからっ!!
書を何十冊でも写本して、書いて書いて書きまくって!人に売って、銭を稼いで、それでちゃんと今までの恩を返すからっ!!
それまで待っててねっ!!」
キッパリと言いきると、忠平さまは
「は?写本?」
と一瞬、硬直したあと、ガックリと肩を落とし、俯いてブツブツと
「・・・・そうだよな。
期待した私がバカだった。」
畳みかけるように私が
「だって、今までもらった贈物って高額なものばかりだったでしょ?
だから無理して働かないと絶っっ対っ返せないから、死ぬ気で頑張るって決心したの!
遅ればせながらだけど。」
バッ!
と忠平さまが顔を上げたと思ったら、素早く
ギュウッッ!!
と胸に抱きしめられた。
硬い低い声で、耳元で
「もっと早く、一回で返せる方法を教えようか?」
囁くので、ワケの分からないゾクゾクが耳から広がり、胸が高鳴った。
ドキドキがとまらず、焦って胸を押して放そうとしてもピクリとも動かない。
抱きしめられた腕から、嫌悪とも快感とも区別のつかない興奮が引き起こされ、鼻から漏れるような声で
「・・・んっ・・・ダメッ、放してっっ!」
その声に何かを察した忠平さまが抱きしめる腕にさらに力をこめ、片方の手は背中を愛おしむように這いまわった。
途切れ途切れの、掠れた、囁き声で
「・・・伊予こそ・・・・変だ・・・・いつもと、違う・・・・もしかして・・」
ドキッ!として焦りで心臓がバクバクして息が上手く出来なくなり、喘ぎながら
「違うっ・・・・誤解よっ!」
って何が?
って自分にツッコむけど、たしかに、変!
以前のように、冷静に、冷めきった態度でピシャリとつき放せない。
忠平さまの香や汗の匂いや、締め付けられる力や、体の熱が、そんなに嫌じゃない。
というか、ウットリと身を任せそうになるほど、官能的な刺激に、敏感になってる。
背中を動き回る、手のひらや指の感触に、反応しそうになる。
違うっ!この人は兄さまじゃないっ!
偽物よっ!
大嫌いだった人っ!!
嘘つきで、人を騙しても平気な、信用できない人!
何度も騙されたし、利用された!
兄さまを貶めた!
こんな人に反応しちゃダメッ!!
・・・・・・・でも・・・・
何度も最高の贈り物をくれた。
何度も女子なら誰でもときめくような素敵な和歌を送ってくれた。
何度も危ないところを助けてくれた。
さっきだって、隠れてずっと見守ってくれてた。
いつも、困ったときに頼ると、一緒に答えを考えてくれた。
うっとりするような美しい言葉で、愛情のこもった眼差しで、とろけるような優しい態度で、いつも女性としての自尊心を満たしてくれた。
そばにいるだけで、愛されてると実感して、満たされる。
今はもう
嫌いじゃない
忠平さまのことを。
でも、私には、絶対裏切れない、愛する人がいる
兄さまを裏切れない。
どうすればいいの?
私はこの先、どうなるの?
本物の砂金と見紛う水中の雲母のように、薄く軽やかに、ヒラヒラと舞う、この浮気心は、
本物の金のように美しく、キラキラと眩しく輝き
真実の愛情と見分けがつかなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
砂金採取の副産物はその川の上流にある鉱山の組成によるので、阿武隈川で確実にそうとは言い切れませんが、雲母と黄鉄鉱が一般的に多そうだったので採用しました!




