EP565:伊予の物語「砂上の雲母(さじょうのきらら)」 その6~伊予、窮地への耐性に自嘲する~
後ろから私の口を塞いでた岩木も手を放して、私の顔を覗き込み
「だよな~~~!
いいよな?伊予?」
優しい口調で呼びかけるけど、じょーーーだんじゃないっっ!!!
怒りを爆発させ、キレきった大声で
「私はそういう女子じゃないっっ!!
銭を受け取ろうがタダだろうが、嫌なもんは嫌っっ!!!
絶っっっ対っっ!死んでもっ!お断りっっ!!
・・・もごっ」
最後は汚い布切れを口に突っ込まれたから。
「・・・・んっ!んんーーーーーっっ!!!」
(放せっ!このっ!!ケダモノっ!強姦魔っっ!!)
暴れても二人がかりで押さえつけられ、仰向けに寝転がされ手首を縛られ動きを封じられた。
足を曲げて、近づいてきた岩木を蹴り飛ばしては、上にのしかかられないようにする。
はじめは的確に岩木を蹴ることができたのに、両足を掴まれ、開かれてその間に体を入れられると、どうにもできなくなった。
頭の上の縛られた両手首は、若間津が抑えつけてるので、どうすることもできない。
こんな状況を何度も体験してるとはいえ、二人がかりは初めてなので、どうすればいいのっ??!!どマジで焦る。
知らない間に涙が出てるみたいで、すきま風があたると濡れた頬が冷たい。
私の広げた両足の間で、岩木が自分の袴の紐をほどき始めた。
絶望で目の前が真っ暗になり、頭から血の気が引いてクラクラして気を失いそうになった。
失神してしまえば気持ち悪くないかも?
気を失えば、眠ってる間に終わるかも?
必死で前向きに我慢する方法を考えてるけど、兄さまのことや、茶々や、椛更衣や、影男さん・・・・私によしてくれる人の顔が思い浮かんだ。
私を好いてくれる人たちが、無理やりこんなことをされた私をどう思う?
そのあとも普通に接してくれる?
同情して腫れ物にさわるような扱いになる?
兄さまは?
「だから言っただろ!」って怒る?
それとも呆れる?
考えの浅い私を軽蔑する?
軽蔑して、私を見捨てる?
今度こそ、ホントに妻にしてくれなくなる?
唯一の救いは、初めてじゃないこと。
どんなことをされるか、大体の予想はつくので、我慢のしどころ?がわかってること。
先に兄さまと済ませててよかった!
とはいえ、岩木とのことを想像するだけで気持ち悪くて吐き気がするっ!!
舌を噛んで自殺する人の気持ちがよくわかるっ!!
目の前には下半身を露出した岩木が、私の袴の紐をほどく作業に取り掛かりつつあった。
足を一生懸命動かして、膝で岩木の腕や横腹を蹴ろうとするけど、ぶつかっても岩木は煩わしそうにはねつけるだけ。
「んんーーーーっっ!んーーーっっ(やめろっ!クズッ!下衆野郎っ!!)」
抵抗をやめれば終わり!なので涙を流しながら暴れ続ける。
ゴンッ!
頭の上から鈍い音がして、そっちをみると、若間津が白目をむいて横に倒れ込むところだった。
岩木が私の足の間で、袴の腰紐を解く手を止めて顔を上げると、また
ゴンッ!!
甕で頭を殴られたときの鈍い音がして、殴られたのと逆側に岩木が横向きに倒れ込んだ。
殴った甕から液体がポタポタとこぼれ落ちてる。
岩木の後ろから甕を持った、雑色姿の男性が現れた。
筒袖に萎烏帽子姿の青ざめた忠平さまが押し殺した声で
「大丈夫か?」
と呼びかけ、すぐに両手首の紐を解いてくれた。
殴られて横たわる岩木と若間津はピクリとも動かず、頭が陥没した?かと思うぐらい力いっぱい酒甕で殴られてたので、少し生死が心配になったけど、『自業自得!』だし、ほっといてもいいよね?!
体を起こして、縛られた手首を撫でながら私が
「ありがとう!助かったわ!」
そういうと、忠平さまの視線が腰に下がった。
え?
あっ!!と気づいて慌てて袴の腰紐をしっかり結んだ。
ついでに乱れた単を袴にきちんと入れて、衿元を整え、袿をしっかりはおり直し、最後に髪の毛を後ろで束ねて結び直して整えた。
付け毛は取れたのを袂に突っ込んだ。
その後、へたしたら殺人?を疑われる現場をすぐに離れるため、忠平さまと馬に乗って枇杷屋敷に帰った。
忠平さまいわく
「伊予のことが心配で、食事会をずっと隠れて庭から見守ってた。
侍所に伊予が連れ込まれたのに気づいて急いでのりこんだ。」
らしいけど、それにしては遅くない?
枇杷屋敷につくと、主殿でお茶と蜜柑を頂きながら『安全地帯』に帰ってきたことを実感してた。
日暮れ前に、雲の間から夕焼けが広がり、赤く染まった畳や床、屏風や目の前に座る忠平さまを見ながらホッとしつつお茶を飲んでると、さっきの不愉快な出来事の記憶がよみがえった。
岩木が私の足の間で、袴をずり下ろして下半身を露出させたところや、杯からこぼした酒の匂いが袿にまだ残っているのや、裾に顔をこすりつけられたのを思い出して、まだ岩木の痕跡がわたしのそばにあることに嫌悪をおぼえ、気持ち悪すぎて
ブルッ!
と身震いした。
衣に染みついたあの屋敷の香の匂いまで不愉快に感じて、耐えきれなくなって
「ねぇ!私の水干と袴ってここにある?
今すぐ着替えたいのっ!
さっきの宴会の匂いがまだのこってて、気持ち悪いから!」
忠平さまが深刻そうに頷き
「もちろん!塗籠の葛籠にあるよ!」
というので探し出して、ついでに塗籠で着替え終わって出てくると、忠平さまは脇息にもたれ扇を顎にあて、ジッと考え込んでた。
私に気づいてニッコリ微笑み立ち上がり、鏡台のそばにある、櫛と水瓶ぐらいの大きさの蓋のある壺を持ってきて私の側に来て
「座って!
男装したんだから、髷を結ってやろう!
葛水を使って」
私がいわれるまま座り込むと、後ろに膝立ちになり、忠平さまが私の髪に触れ、束ねた髪をほどいた。
櫛で念入りにゆっくり、痛くないように気を付けて梳いてくれる。
あまりにも優しく、ゆっくり、引っかかりがあっても髪を引っ張らないよう上で押さえてほぐしながら、丁寧に梳いてくれるので、その気遣いが嬉しくて、愛されてる実感に満たされ、優しい気持ちになった。
手を動かしながら優しい声で
「で、今日の調査はどうだった?
荒くれ者の資金源は?身元は?
どんな奴らだった?
隠れてた場所からは声が聞こえなかったんだ。」
早く報告したくてウズウズしてたので、待ってました!と得意になって
「彼らの資金源はね、ズバリ『砂金』よ!
しかも阿武隈川で採取したのよっ!!
なぜわかったかというと、砂金採取の副産物の『雲母』が大量に採れるっていう言葉と、支払いの時、吾妻丈夫が巾着で渡してたからよ!
『松川』という言葉も出てたので、その川で実際採取してるのかも!」
忠平さまに言っても別に問題は無いわよね?
兄さまを介して動くのは朝廷、忠平さまを介して動くのは上皇というだけだものね?
(その7へつづく)




