EP564:伊予の物語「砂上の雲母(さじょうのきらら)」 その5~伊予、調査を完了する~
途中にあった嫌なことと言えば、すっかり酔っぱらって調子にのり、甘えようとした岩木が私に口づけしようと口をとがらせ頬に近づけてきたのを寸前で体ごと後ろに引いて避けると、岩木の手に持った杯から酒がこぼれて袿を濡らしたこと。
その他にも、胸に埋めようと顔をツッコんできたのをヒョイと横に交わすと、取り残された袿の裾に岩木の顔を埋めるハメになり、脂ぎった顔をこすりつけたりするので、気持ち悪くてゾッとしたこと。
膳に並ぶ食器も酒瓶も空になり、お客をもてなす食事会もお開きというころあいになった。
藤原商才が吾妻丈夫に近づき手を揉みながら
「では、そろそろ・・・・お会計の方を・・・・お願いしたいのですが・・・・」
臺与の膝枕で眠ってた吾妻丈夫は眠そうな目を無理やり開けてムニャムニャ口を動かしたあと、起き上がって水干の胸元をガサガサ探り、手のひらに乗るぐらいの小さい巾着を取り出した。
「ん、これでどうだ?
十分だろ?
それで臺与の薬もつけてやってくれ」
藤原商才は巾着を開いて中をのぞき、手のひらに乗せて重さを味わうように上下させてから、満面の笑みを浮かべ
「はい~~~~!
十分でございます!
毎度ありがとうございます。
これからもどうぞよろしくお願いします!」
と指をついて頭を下げた。
これで吾妻丈夫の資金源について、私の予想は確信に変わった。
よしっ!!
任務完了っっ!!
兄さまに報告できるっ!!
あっ!でもっ!『荒くれ者』たちの身元については不明のまま。
推測しようにも言葉に訛りもないし、あったとしても地方の言葉を知らないので判定できない。
強いて言えば発音が京とは違うので東国かな?というくらい。
でも、彼らの『資金源』と『それを得る場所と方法』については自信があるっ!!
早く兄さまに会って報告したいっ!!
あとは牛車に乗って帰るだけっ!!
とソワソワしてその場から『荒くれ者』たちが立ち去るのを待ってた。
吾妻丈夫がヨロヨロ立ち上がるのを臺与が支え、肩に腕を回したまま二人で立ち去ろうとするので、
『え?二人でどこかへ行くの?私はどうすればいいの?』
と焦ったけど、藤原商才にこの屋敷の住所を聞けば、都内だし歩いてでも帰れる!と落ち着きを取り戻した。
私も立ち上がりニコニコしながら岩木と若間津を見送ろうとする。
私たちの前方を歩いてた臺与と吾妻丈夫は藤原商才に何かを話しかけ、途中で引き返し、奥の対の屋の方へ歩き始めたので焦って岩木と若間津を見ると、岩木が小走りで吾妻丈夫に近づき
「兄貴っ!オレたちはどうすればいいんですか?」
吾妻丈夫が真っ赤な顔で不機嫌そうに呂律の回らない言葉で
「知るかっ!好きなように時間を潰してろっ!
出発は明日になるかもしれんっ!
オレと臺与が二人でゆっくりする間、お前らは絶対ジャマするんじゃねぇぞっ!
したら承知しねぇからなっ!」
怖い顔で睨み付けられて震えあがった岩木は私をチラ見したあと、勇気を振り絞った声で
「じゃ、じゃあ、オレは伊予と遊んでもいいですか?
その銭を・・・兄貴にお願いしてもいいですか?」
は??
え??
私と遊ぶっ??!!!
って、また遊戯して??・・・・って意味じゃないわよね?多分??!!
呆気に取られてると、吾妻丈夫が藤原商才に
「おいっ!
さっきの支払いで伊予と遊ぶ分もいいか?」
藤原商才は困ったように手をすり合わせ
「え?ええっと~~~それは、その・・・・本人に聞いてみないと・・・・あっ臺与、お前の連れだろ?どうなんだい?」
なぜ私に聞かないっ??!!
絶っっっっ対っ嫌っっ!!!
断るわっっ!!
死んでも岩木と『遊び』たくなんてないっっ!!
どーーーしよーーーーっっ!!!
今すぐ逃げるっ!?
走ればいい!?
でもここはどこっ??!!
逃げてから考えるっ??!!道なんて誰かに聞けばいいし・・・・・
迷ってないで早く逃げ出すべきっ!!??
ブルブル震え、顔面蒼白な私の様子に臺与が気づいて岩木に
「残念だけど、この子はそういうことをしないのよ。
よかったら後ほど私がお相手するわ!
それでいい?」
妖艶な仕草で岩木にゆったりと微笑むと、岩木は目を見開き、感動したように目を潤ませて
「えっ!いいんですかっ??!!姉貴とっ?!!ありがたいっすっ!」
吾妻丈夫が不愉快そうに顔をゆがませたのを私は見逃さなかった!!
って、臺与っっ!!
ありがとうっっ!!!
助けてくれてっ!!!
私の身代わりになってくれてっ!!
臺与にはなんてお返しすればいいか分からないっ!!
感動に浸りつつ、臺与と吾妻丈夫が屋敷の奥に消えていくのを見守った。
窮地を脱してホッと安心!して
「じゃ、私はこれで・・・帰りますねっ!」
というと藤原商才が
「臺与の牛車を使うといい。牛飼童も雑色も待たせてるから。」
と言ってくれ、雑色に牛車を中門廊につけるように命じて立ち去った。
中門廊の車寄せで牛車を付けてくれるのを待ってると
グイッ!!
突然、口を手でふさがれて後ろに引っ張られた。
そのまま体を抱きかかえられて、引きずられて、侍所の奥に引っ張り込まれ、バタン!と妻戸を絞められた。
侍所の格子は締め切られてて、壁代が掛かっているので外から中の様子が見えない。
え??ヤバッ!!
焦ってると、目の前に若間津が立ってて
「バカだなぁ岩木は。
兄貴に黙ってやっちゃえばタダで済むんだよ!」
(その6へつづく)




