EP550:伊予の物語「黒鉄の拘泥(くろがねのこうでい)」 その8~伊予、すぐバレる嘘にあきれる~
は??
やっぱりそうなの???!!!
がっくり落ち込んだ。
ウソだったんだ・・・・。
臺与を抱いてない、なんて、嘘!
影男さんの言うように、男なんてみんな性欲にすぐ負けるんだ!
凹みきったし、真実も明らかになったので、臺与の房から立ち去ろうと、モタモタと立ち上がる。
ちょうどそのとき、宣耀殿の妻戸の方から低い、硬い、男性の声で
「臺与どのに取り次いでもらいたい。」
ドキッ!
と心が震えた。
臺与もビックリしたように眉を上げ、蒼白になってる私を見てニヤニヤして
「あら噂をすれば影ね?今行きますわ~~~!」
区切る几帳をずらして房を出ると妻戸へ近づく。
私は焦って、南の母屋側の金ぴか鶴模様の屏風をずらし宣耀殿の母屋に移動し待機するハメになった。
でもこれは絶好の機会っ!!
時平さまと臺与の行動を盗み見るチャンスは二度とない!
ドキドキと鼓動が速く打ち、息が苦しくなった。
ふぅ~~~~と細く息を吐いて落ち着く。
屏風をずらして、わずかな隙間を作り、盗み見できるようにした。
サヤサヤという二人分の衣擦れの音のあと、時平さまの声で
「三日後の参議たちとの会合の件だが、藤原有実殿は三国志の特に曹操を好むそうだから、『求賢令(唯才是挙)』あたりを抑えればいいだろう。
あと、源号には足を使う仕事を与えてやれ。
何か調査すべき問題はあるか?」
声は聞こえるけど、見えるのは臺与の単の後ろ姿とその向こうに重なった時平さまの直衣の膝ぐらい。
臺与が考える間があり、鈴の音のような高い弾んだ声(私の時とは大違いの!)で、
「市でいかがわしい取引が行われてるそうですわ!
十歳前後の少女が、いかがわしい取引に関わっているそうです。」
時平さまの関心の薄い乾いた声で
「また小児性愛者が少女を買春してるのか?
検非違使に捕縛させよう。
場所は?」
臺与が鼻から抜けたような声で
「いいえ!違うんです!
不浄の少女たちが、小屋で一日中過ごし、その小屋の家主の中年女がその月の穢れを集め、少女たちに銭や米を支払うそうです。」
恥ずかしそうに、ためらいがちに呟く。
でも、絶対、『猫かぶってる』わよね!
臺与がそんなことで恥じらうとは思えない!
時平さまが考え込む間があり、こちらは平然と
「経血・・・・を?何に使う?
生薬か?」
臺与がハッ!と閃いたように
「避妊にも使えるそうですわ!その辺の薬の取引実態を市で調査しましょうか?」
「いや、それよりその家主の中年女の身元を調べてくれ。
使い道を知りたい。」
「はい。では手配いたします。」
ん?
ということは、数日前、左大臣邸の侍女たちが話してた
『妹が一日中小屋にいるだけで、自由にすごすだけで一合の米をもらえた』
という会話は、『少女の経血売買』のこと?
ん~~~~~???!!!
何かが頭に引っかかる!!!
臺与が知り合いからもらったという鉄釉の陶器と、枇杷屋敷で見たそれを作った陶芸家・天目。
その陶芸家・天目は十歳前後の幼な妻と結婚するほどの『少女好き』。
その趣味嗜好が今だ変わらず、こだわりのある陶器づくりに活かしてるとすれば?
ハッ!
と一つの考えが私の頭の中に浮かんだ。
でも確かめるには臺与にあることを聞いてみないと!
今すぐに?!それとも後にする?どうしよう?
悩んでるうちに、
ガサゴソッ!
と時平さまが立ち上がる気配がし、臺与の頭の向こうに立ち姿の半分が見えた。
「うむ。よろしく頼む。では直廬に戻る。」
「あっ!お待ちください!いいお酒がありますのよ!」
臺与の焦った声。
「いや、結構だ。今夜は早く休みたい。」
上ずったなまめかしい声で
「今夜は冷え込みますわ!
ここで、温まっていらして!人肌で温めて差し上げたいのです。」
臺与が袖にしがみつき、後姿の時平さまが立ち止まる。
呆れたようにため息をつき
「何度も言ってるだろう?
私は女子に不能だと。
試してみたが無駄だったじゃないか!」
はぁっ???!!!
じゃ、やっぱり・・・・!!!
胸のドキドキが大きくなり音が向こうまで聞こえないかな!?と心配になった。
臺与が泣き出しそうな甘え声で
「いいえっ!心配なさらないで!もう一度試してみましょう?!
そこへ横になってくださいな。
それにもし今回もダメでもわたくしはあなたを、軽んじたり、侮ったり、決してしません!
誓いますわっ!さ、どうぞ横になってちょうだいっ!
わたくしを信じて、もう一度試してみましょう?!
ね、安心なさってください!
どんなあなたでも、もし、そうでも、臺与はあなたを愛しております。
この先も、お慕いし続けます。
誰かと違って、決して見捨てたりしません。
あなたを男性として立派な殿方として尊敬しておりますわ!」
悲劇のヒロインみたいに半分悲鳴のような声で切々と訴える。
けど、内容から察するに、兄さまの言う通り、『臺与を抱いてない』のは確かなのね?!
疑ってごめんなさい!
それに臺与ったら『私なんてモチロン最後まで済ませたわ!』なんてすぐにバレる嘘をなぜつくの??!!
だけど、どうするの??
もう一度?試すの??!!
ドキドキがとまらず、息をのんで目の前の光景に釘付けになる。
(その9へつづく)




