EP549:伊予の物語「黒鉄の拘泥(くろがねのこうでい)」 その7~伊予、核心に迫る~
影男さんはビクッと肩を震わせ、胸から私を放して目を合わせ
「そうですね。それが普通ですね。
男の方がもともと性欲が強いですから、それが高まればおのずと女性の体を欲するものです。
そんなときに誘われれば断り切れないのが普通だと思います。
まぁ、無理に自制して恋人に操をたてるという男もいることはいるでしょうが、少数でしょう。
反応というのは、無意識にしてしまうものですから、制御するのは難しいと思います。」
「ふ~~~ん。そっか。やっぱり。
ひとりの女子だけに反応するなんて、嘘なのね?」
影男さんが怪訝な顔をし
「左大臣がそう言ったんですか?
それは、嘘でしょうね。
あなたを騙すための。
ヤツの過去の女性遍歴をみてもひとりの女子で我慢できるなんて信じられません。
精力の強い、ありあまるほどの『男』でしょう。
現に今も臺与はヤツに夢中でしょう?
あの臺与が精力の弱い、そんなひ弱な『もやし男』に満足できるはずがないでしょう?」
そう言われると説得力がある!!
う~~~~ん。
やっぱり、最後は直接確かめるしかないのよねっ!!
よしっ!会って確かめるしかないっ!!
最大かつ最高の恋敵、臺与に!
それはそれとして、影男さんは意外とマッチョイズム(精神的・肉体的な強さや競争での勝利を至上とする)の信奉者なの?
『男はこうあるべし!』的な思想を感じる。
男の精力は強ければ強い程エライ!的な?
内情を知ってる私としては、兄さまはそうじゃなさそう、だけど?
その夜は無事、影男さんを拒むことができて、椛更衣の対の屋に戻ることができた。
翌日、椛更衣とともに、内裏に戻るとすぐ、決定的な機会がおとずれた。
萄子更衣のお住まいになる宣耀殿の自室に、臺与が宿直する日を梢に探ってもらうと、二日後であると分かった。
二日後、日が暮れ、更衣さま方が寝静まったころを見計らって、宣耀殿を訪れた。
宣耀殿は内裏中央の北端にあり、貞観殿を挟んで登華殿と対になる東側の、南北に長い殿舎で、母屋の北側を几帳や屏風で区切って女房の房にして使っていた。
格子と壁代がおろされて妻戸が閉まってる。
母屋の北側にある妻戸の前の廊下に座り、中へ向かって静かだけど、伝わるように声をひそめて
「あの・・・・雷鳴壺の伊予と申します。臺与さんにお会いしたいんですが!」
無言で、誰の返事もない。
もう一度、少し声を大きくして
「あのぉっっ!!伊予です!臺与さんに会えますかっっ??!!」
サヤサヤと衣擦れの音がして妻戸の向こうに誰かがやってきた気配があった。
閂を外してくれてる時間を待ち、妻戸がゆっくりと開くと、臺与がそこに立っていた。
私を見てイラだったように頬を痙攣させ、
「何の用なの?!他の女房たちに迷惑でしょっ!昼間じゃダメなのっ??!!」
言葉の端々に怒りが滲んでる。
負けないように強気な態度で私も
「折り入ってお話があるの。長くなりそうだから、忙しい昼間は避けたの。
あなたの房に入れてくださる?」
フンッ!と鼻で同意して歩いていくので立ち上がって後ろについていった。
一番東側の臺与の房に案内されると、灯台の灯りがまだ点っていて、文机の上には読みかけの?書が開いて置いてあったのでまだ就寝前だったみたい。
三枚の畳が敷いてある、私のより広い空間の房に、
「適当に座って」
と言われ、入ってすぐの場所の畳に座り込んだ。
調度品の鏡台や装飾品の棚、文箱や手箱はすべて金箔で唐花模様を描いた黒漆塗で、すべての図柄を合わせてるので統一感が半端ない。
金ピカ!かつ、黒光り!の豪華絢爛な空間に圧倒された。
南側の母屋との区切りになってる屏風も黒が基調で金箔で松と二羽の鶴が描いてある、『ザ・富裕貴族』が好みそう?な感じ。
素敵というか、豪華すぎて目がチカチカしそうな周囲が物珍しくてキョロキョロしてると、光沢のある青磁の水瓶のそばに、不釣り合いな黒い、表面がツブツブの茶碗がひとつ置いてあった。
知ってるものがあったのがうれしくて思わず指さし
「あっ!それっ!有名な天目さんの作品でしょ?
上皇侍従さまが購入してたわ!」
臺与がチラ見して、
「ああ、これね。昔の知り合いがくれたのよ。
今、洛中で流行ってて希少でなかなか手に入らないらしいわね?
フン!
でもどうでもいいのよ。
値の張る贈り物なんて次から次へと色んな人が持ってくるんだから。
で、話って何なの?
私だって暇じゃないんだから、サッサと済ませてちょうだいね。」
ギロっと睨み付けられた。
焦ってつい、包み隠さず直球の質問が口をつく
「あの、あのね、単刀直入に聞くけど、左大臣さまと二人きりの時って何してる?」
私のアケスケな問いに、さすがの臺与もギョッ!としたように目を丸くして
「は?何って?
そ、それは、仕事の話とか、取引の話とか、会合の打ち合わせとか、色々よね。」
私はドギマギして、うつむきながら、小声で
「そのぉ・・・・男女の?営み?的なヤツは、どんな感じ?
ええっと、最後までちゃんとする・・・・感じ?」
臺与が意味が分からないという怪訝な表情で
「何が言いたいの?
時平さまと?
男女の行為をするかですって?
何よっ!そういうあなたはどうなのよっ!まず自分から白状しなさいよっ!」
えっ??
そうね・・・・そう言われれば。
モジモジしつつ
「まぁ、普通だと思うけど、うん、一応ね。」
臺与が何かに気づいたように楽しそうに笑い
「ははぁ・・・!なるほど。そういう事?
あなたって子ども扱いされて『まだ』なんでしょ?」
「は?えっ??!!
いやっ!違うけどっ!」
真っ赤になってブンブン首を横に振る。
でも・・・・・確信はない。
だって、他の人のをじっくり見たことないし!!
臺与が腕を組んで、満面の笑みを浮かべ
「あなたが幼稚だから時平さまは妙にお堅いんでしょうね。
私なんてモチロン最後まで済ませたわ!」
得意げに鼻で笑う。
(その8へつづく)




