EP547:伊予の物語「黒鉄の拘泥(くろがねのこうでい)」 その5~伊予、調査を進める~
私はイタズラ気分なのでニコニコしながら
「へへっ!驚いた?
別に大した用じゃないんだけど、聞きたいことがあったの。」
忠平さまが私の目の前にストン!と座り込み、マジマジと見つめる。
ホントに実在の私かを確認してるみたい。
時平さまにそっくりな切れ長な美しい目で見つめられると、自然と鼓動が速くなる。
日焼けした浅黒い肌が、ほんのりと紅く染まり、瞳が黒目がちになって光り、興奮が顔に出てる。
素直な好意を示してくれる様子に、くすぐったいような、誇らしいような、ウキウキとした気分になって、心地いい。
思わず声が弾みそうになるのを抑えて
「あの、ね、その、つかぬ事を聞きたいんですけど、その、男の人って、好きな女子じゃなくても、誘惑されれば、その、そういう、親密な行為?ってできるものなの?」
忠平さまはギョッ!としたように眉を上げ、むず痒そうに鼻を掻くと困惑した表情で
「ええっと・・・・それは・・・・一概には言えないな。
人それぞれだろうし・・・・」
「じゃ、あなたはどうなの?
恋人がいても他の女子に誘われたら誘いにのる?」
私が真剣な目で見つめるのにたじろいだように背を反らし、
「はぁ?!
私・・・?の場合は、そうだな、よっぽど好きな相手じゃない限り、貞操を誓ったりしないな。
ただ・・・心から愛する人が恋人だった場合、他の女子に目をやる余裕が無ければ、誘惑されても応えないだろうな。
その女子だけに夢中で、全身全霊で愛してるなら、もし、そんな機会があれば、絶対に浮気して傷つけたりしないと誓う。」
私を見つめ返し、鋭い突き刺すような眼差しで射止めながら、ため息のようなかすれ声で続ける。
「もし、誰かさんが恋人になってくれれば、誓ってもいい。
試しに恋人になってみれば?」
軽口のハズなのに、忠平さまの声には張りつめた響きがあった。
胸の奥がジリッと焦げたように熱くなり、痛みのような疼きが広がった。
ドクンッと胸が高鳴った。
兄さまに似ているようでいて、少し彫りの深い目元。
目尻の切れ長なところが美しいのは同じだけど、顎が幅広くて、頬の線も兄さまほど繊細さはなく、ガッシリ・ゴツゴツしてる。
黒くて艶やかな毛並みの、狡猾で素早く襲いかかる獰猛な肉食獣のような気迫がある。
そっくりな仕草で、薄い唇を歪めて笑い
「ん?どうした?今日は拒絶の返事が遅いな?」
ハッ!として焦って
「べ、別にっ!
ふ、普通の男性はどうなのかなって思っただけよっ!
深い意味はないのっ!」
忠平さまは本心を見透かそうとするように目を細め
「兄上のことか?心配してるのは?
そうだな、兄上なら他の女子に目もくれないことはあるだろうな。」
「え?
じゃ、反応?しないことってある?」
眉をひそめ
「う~~~ん。それは、どうかな。
想像するだけで反応することもあるから、逆に想像できなければ反応しないともいえる。
男性機能に問題があれば反応しないこともある。
兄上・・・・となると、有り得るかもな。
表の傲慢な態度に比べて中身は繊細だから。
どうした?まさか伊予にまで兄上が役に立たなくなったのか?」
はぁっ??!!
急に恥ずかしくなって顔に血が上り真っ赤になってブンブンと首を横に振り
「違うっっ!!そんなことじゃなくてっ!!」
時平さまの不名誉な?噂になることだけは避けなくちゃっ!!
「一般論よっ!!あくまでっ!
時平さまは関係ないからっ!誤解しないでよねっ!
じゃ、話はそれだけだからっ!帰るわねっ!ありがとっ!」
そそくさと立ち上がると
「伊予っ!待ってっ!コレをやるっ!」
さっきの天目さんから買った黒い碗を差し出した。
手に取ってみると、その鉄釉陶器は黒に近い茶色の、両手にすっぽり収まる大きさの碗で、ところどころブツブツした小さい泡のようなふくらみと、真黒の斑点がある、個性的な作品。
艶のある黒い部分と茶色い部分がむらになっていて変化が不規則だし、ツブツブや斑点の位置や大きさにも味わいがあって見ていて飽きない。
流石一流のこだわり!一流の腕!
簡単に再現するのは無理そうっ!!
長年かけて培った『こだわり』の技術があるのねっ!!
スゴイっ!!
感心しつつ眺めてたけど、やっぱりこんなに貴重なものは受け取れないので、
「あの、受け取れません!こんな高価なもの、使い道に困るし、壊したら大変だし。」
忠平さまは思ったよりアッサリ引き下がり、碗を引っ込め、ため息をつき
「そうだよな。
いつもいつも高価な贈り物するだけなんてありきたりだし一辺倒だよな。
もう少し変化を加え、工夫を考えださないとな。」
独り言をつぶやいた。
拍子抜け?したけど、私には高価なものの価値が分からないので無意味だからよかったとホッとして、枇杷屋敷を立ち去ることにした。
『これから源昇さまのお屋敷に帰る』と話すと、忠平さまが当然のように馬で送ってくれた。
その道中、私は無言で(しゃべると舌を噛むから)忠平さまの背中の狩衣を握りしめてた。
強張った背中の筋肉に忠平さまの意識が集中してるような感触が手に伝わった。
お屋敷に到着して、馬の背から自力で降りようとしてると、後ろから腰を支えてくれた。
無事に降りると
「やっぱりホンモノの伊予だったんだな。
夢じゃなかったんだ。」
忠平さまはポツリと呟いた。
は?私って幻の獣?珍獣?なの?!
(その6へつづく)




