EP544:伊予の物語「黒鉄の拘泥(くろがねのこうでい)」 その2~伊予、証拠を求める~
だからって・・・・浮気にはならないの??
それとも体を触らせていれば、立派な浮気??!!
兄さまが嘘をついてる可能性もあるし・・・・。
う~~~~ん。
どこからが浮気?
もし一方的に強姦された、なら絶対、浮気じゃない。
でもそういうわけじゃない。
許可してるわけだし。
私は??
影男さんとのアレは・・・浮気?・・・かな?
違う!と胸を張っては言えない。
嫌じゃなかったから。
でも、男の人って女子なら誰でもイケる!んじゃないの?
ムラムラしてそういう気持ちになれば誰でもイイ!んじゃないの?
桜がそう言ってた気がする。
う~~~ん。
検証しようにも調査対象が少なすぎるっ!!
もっと色んな人に聞いてみなくちゃっ!!
ハッ!として
「でも、私には・・・いつも・・・・アレってどうなの?あれは、最後までできてるの?」
兄さまは照れたように頬をポリポリ掻いて
「それは、浄見が判断してくれ。
満足してるかどうか。」
って、はにかむけど、何ソレっっ!!
急に妙に恥ずかしくなってプッ!と頬を膨らませ
「わ、私は別にっ!!兄さまが不能とかっどうでもいいからっ!!
ま、満足??って、他の人を知らないしっ!!
比べようがないでしょっ!!」
兄さまがスッ!と真顔になり、深刻な表情で
「まさか・・・・私より・・・影男が良かったとか?
だからフラれたのか?
乗り換えるつもりか?
まさか・・・・嘘だ・・・・そんなことが・・・・信じられない・・・・やっぱり女子は・・・・・そういう能力が・・・・」
落ち込んだ表情でうつむき、肩を落としてブツブツ呟き続ける兄さまの様子が情けなくて、カッコ悪くて、いつもの自信満々で傲慢な姿とのあまりにもな落差に、思わず胸がキュンと締め付けられた。
手を伸ばして頬に触れ、『兄さまは大丈夫!いつも最高に素敵よ!』と慰めてあげたかったけど、『ここで折れれば元の木阿弥!』と心を鬼にして我慢した。
だって、ホントに『ひとりの女子だけに反応する』男性が存在するのか?を確かめない限りは、兄さまを信じられない!
兄さまが力なく立ち上がり
「わかった。
とりあえず、今日のところはあきらめる。
主殿で寝ることにする。
浄見の気持ちが落ち着いたら、私を許してくれるなら、いつでも知らせてくれ。
ずっと待ってる。」
と呟き、妻戸の方へ歩き始めた。
私も立ち上がりついていくと、またピタッと立ち止まり、顔だけで振り向くので
「何?まだ何か?」
とたずねると、ためらいがちに兄さまが
「多分、私は、こだわりが、人より強いんだろうな。
浄見でなければならないと、ずっと思い込んでいるから、こうなったんだ。」
ボソリと呟いた。
胸が苦しくなった。
今すぐに抱きしめたくなった。
けれど、侮蔑されたときの胸の痛みがあまりにも苦しくて、もう二度とあんな思いをしたくない!と思い直して、表情を引き締め、
「もし、兄さまを許せたら、平気になったら、もう一度会いましょう?」
微笑みを浮かべ、精一杯、余裕のあるフリをして別れた。
兄さまのいなくなった対の屋には、火桶の炭がまだ赤いのに、肌を刺すような、骨にしみいるほどの、寂寞とした冷気が満ちていた。
翌朝、左大臣邸を出て、椛更衣のいる源昇さまのお屋敷へ帰ろうと、支度を整え、東中門廊の沓脱で草履をはいていると、庭掃除の二人の侍女が噂話してるのを耳にした。
後姿から察するに、私の見知らぬ二人で、ヒソヒソと楽しそうに
「ねぇ、私の妹が最近、市をウロウロしてるといい仕事があったって言ってたの!」
「え?何?どんな仕事?」
「一日中小屋にいるだけで、自由にすごすだけで一合の米をもらえるんですって!」
「えっ!何もしなくてももらえるのっ?!スゴイっ!私も行きたいっ!紹介してっ!」
「そうね、今度、妹に聞いてみる。
市でオバサンに声かけられて、ついていったって言ってたわ!
もし妹が場所を知ってたら二人で行ってみる?」
コソコソ話す後姿を、通り過ぎるときにチラッと見ただけだから、よくわからなかったけど、私より一つ二つ下?の十四・五歳に見えた。
『そんないい話なんて世の中にないわよ~~~!
騙されていかがわしいことをさせられるかもっ!!
侍女が危険な目にあうかもって年子様に伝えといたほうがいいかしら?』
と考えながらも、引き返すのが億劫だったので、そのまま東門から出て、左大臣邸を後にした。
今から椛更衣のところへ帰って~~~、内裏へはいつ戻るのかしら?
明日?
明後日?
内裏に戻ったとしても、もう兄さまが雷鳴壺を訪ねてくれることもない。
文を交わすことも、ない。
時平さまにもうこの先ずっと逢えないんだ、と思うと、寂しくて全身から力が抜けたような虚脱感に襲われた。
嫉妬と屈辱に胸が焼けるように痛くなることもない代わりに、期待と興奮に胸が躍ることもないんだ、と思うと、足が重くなった。
平坦な、起伏のない、退屈な日常。
空虚な、今にもポキンと折れてしまいそうな感情。
それを望んだのは自分なのに、どうしようもない無気力にとりつかれた。
トボトボと足を引きずるように歩いてると、後ろから
「姫っ!待ってください!送りますのでっ!」
竹丸のご機嫌な声が聞こえた。
ということは、私と兄さまが別れたことをまだ知らないのね?
(その3へつづく)




