EP543:伊予の物語「黒鉄の拘泥(くろがねのこうでい)」 その1~伊予、拒絶する~
【あらすじ:演技だとしても侮蔑され恋敵との親密な様子を見せつけられたことが許せなかった私は、時平さまに距離を置くと宣言した。
私以外の女子には興味がないと言い張るけど、証拠がないので簡単には信じられない。
洛中で横行するいかがわしい売買と黒釉といびつさが特徴の個性的な陶器をつくる陶芸家には何の関係があるの?
私は今日も深い傷から、そう簡単には立ち直れない!】
今回は変則的に公開してみます!
よろしくお付き合いお願いいたしますっ!!
「わかった。」
そう呟いて意を決したように兄さまが立ち上がった。
背を向け、妻戸の方へ歩き出した。
私も立ち上がり後ろについていく。
兄さまが去った後、妻戸に閂をかけようと思った。
突然、兄さまが立ち止まりクルリと振り返る。
ビックリしたけど、ぶつからないようにピタッ!と私も立ち止まった。
スッ!
素早い動きで体を近づけてくるので、私も後ずさりしようと慌てて足を後ろに出す。
後ろに移動しようとすると、足元に溜まってる単衣を踏んでしまい、もう一歩後ろに下がろうとすると、踏んだ衣が動かずに引っかかり、足の支えを失った体重が後ろに投げ出され、くしゃくしゃになった衣の上に尻餅をついてしまった。
「痛っっ!!」
思わず声が出た。
あ~~~っ。
相変わらず鈍くさいっ!って思われてるだろうな~~~~!
最後の最後に転ぶってカッコ悪いっ!
凹みつつ、衣を足の下から引き抜き、すぐに立ち上がろうと顔を上げると、目の前に兄さまの顔があった。
私に覆いかぶさるように四つ這いになって、顔を近づけてる。
薄暗い夜の闇の中で、白磁のように光るすべらかな白皙の肌と、筆で引いたような美しい切れ長な目元は、天賦の才を与えられた芸術家が創った唯一無二の陶器人形のように完璧で、鼻の下にある伸びかけた髭だけが生きた人間である証のように見えた。
ほんのりと赤みを帯び潤んだ唇は薄く、少し開き、その奥の温かい湿った暗がりは神秘的で官能的な誘惑に満ちていた。
ツンと尖った鼻先が私の鼻先に触れそうになる。
近づくにつれ、途切れ途切れに、私の頬、唇に、吐息の湿った熱さを感じ、自然と胸の鼓動が速くなる。
唇がくっつくと同時に肩と頭を抱えられ、引き寄せられ、身動きできなくなった。
口をふさぐように、長い舌が侵入し、熱い激情がなだれ込んだ。
何度も何度も、私の官能を掘り起こそうとするように、舌と唇が激しく動き、頸を支える手の指が頬や耳の後ろに食い込む。
体の奥が熱くなり、潤み、甘い疼きが下腹部から這い上がった。
何度も何度も、舌をむさぼり、唇を吸い尽くし、唾液を飲み込まれ、激しい愛情をぶつけられた。
こんなにも愛されている。
こんなにも求められてる。
感じるたびに、歓びの興奮が頭を痺れさせ、兄さまの与えるひとつひとつの刺激に敏感になる。
官能の興奮が、触れられた部分から全身に広がり、我慢できない痙攣と喘ぎ声と体液が溢れ出る。
どうしようもない愛欲の眩暈に絡めとられそうになった。
兄さまの手が頸筋を撫でるようにして胸元へ這い降りた。
『このままじゃダメ』
頭の片隅で声がする。
突然、突き上げるような切なさに胸が痛くなった。
この人は臺与にもこんなことをした
私に会わない間に臺与とこんなふうに過ごした
そう思うと、官能の興奮が冷め、一刻も早くこの汚らわしい衝動から逃げ出したくなった。
グッ!
力を入れて兄さまの胸を押し、唇を放した。
涙が溢れるのを頬に感じながら
「これ以上、嫌よ。やめて。」
声が震えた。
兄さまはビクッ!と頬を痙攣させ、それでも半分惚けたような瞳で私を見つめ
「なぜ?」
私の涙に気づき、眉根を寄せ苦痛の表情を浮かべた。
「なぜ泣いてる?
そんなに嫌だったのか?
本当に、私のことが・・・・嫌いになったのか。」
そう言いながら手で頬を包み、親指で涙を拭った。
「・・・・すまない。
浄見、傷つけて・・・・・悪かった。」
そう言い、私の体から手を放した。
ブルッ!
ぬくもりを知る前の、孤独な寂寥が寒気となって背筋を這い降りた。
それでも、私は、この人を手放そうと決めた。
愛を疑って。
妻になるには、私は貪欲すぎる。
愛を求める私の中の獣は制御できないぐらい欲深くなっていた。
兄さまは俯き、絞り出すような声で
「浄見・・・・誤解しないでほしい。
私が愛してるのは浄見だけだ。
信じてくれないかもしれないが、浄見に会えない間も、今までも、ずっと、私は、臺与を、抱いていない。」
「・・・・・」
何かを口に出せば、罵りそうで、言葉を飲み込んだ。
兄さまはゴクッ!と息をのみ
「臺与だけじゃない。
浄見とつきあってから、私は他の女子を抱いていない。
その気にならないんだ。」
はぁ??!!
明らかな嘘にムッ!として黙ってられなくなってつい
「だってっ!そんなはずないでしょっ!
廉子さまを抱いたって言ったじゃないっ!」
兄さまはハッ!と顔を上げ
「そのっ、触れられれば、反応はするが、自分からそういう気にはならないというか、誘われても応えられないというか・・・・」
そういえば、『大納言さまが不能になった!』とか有馬さんが泣きわめいてたけど・・・・。(*作者注1)
「じゃ、抱いたっていっても、女子から何かしないと無理だったってこと?
兄さまからは何もしてないって言いたいの?
それで女子が満足するの?」
兄さまはウンと頷き
「だから不思議なんだ。
臺与には『女子を抱けない。不能だ』と言ってある。
男性的能力を求めているなら臺与はとっくに私を見限っているハズだし、現に取引は政治的なものが大半だ。
だが、時々、その、それでもいいと言うから、好きなようにさせてる。
それで、最後まで、いく、のは、その、難しいというか、まれなんだ。」
えぇっっ??!!
そーーーなのっ??!!
(その2へつづく)
(*作者注1:EP124:清丸の事件簿「紫水晶の腕飾り(むらさきすいしょうのうでかざり)」 その4にあります)




