EP540:伊予の物語「痴嫉の骨(ちしつのほね)」 その6~伊予、『偏つぎ』という遊戯をする~
兄さまは無表情に私を見て、
「臺与、じゃあ若君たちを伊予どのに紹介してあげて、遊戯の説明と準備もしてくれ。」
臺与が頷いて優雅に兄さまに微笑みかけ
「はい。では東から源号さま、源寄さま、西が藤原保家さまで、皆さん公卿さま方の若君でいらっしゃいます。」
え?ってあの『全女子の敵!』であるボンクラ若君たち!?が今日もいるのね!
臺与が鈴の音のような声でしっとりと続ける。
「今日の遊戯は『偏つぎ』という遊びを基に少し改良したものです。
遊び方は、まず出題者にはお題に当てはまる言葉を思い浮かべていただきます。
その言葉の漢字の一部だけを紙に書いていただき、それを謎として提示します。
解答者はその言葉が何かを当てるために、一つだけ質問できます。
解答は一人一回までで当てた方に点数が入り、最後に最も点数を得た人が勝ちとします。
出題者と解答者は一人ずつとします。
出題者が解答者を指名し、解答者は次の出題者とします。
謎がなくなり次第そのお題は終わりとなります。
解答者は重複しないように選んでください。」
流暢に説明し終わると、臺与が立ち上がり、母屋の隅に置いてある筆と紙を持ってきて、ひとりずつに手渡し始めた。
私も数枚の紙と筆を受け取ると、その後、墨の入った硯も持ってきてくれた。
全ての人に筆記用具がいきわたると、オホンッ!と兄さまが咳払いし、
「では、始めよう。最初のお題は『好きなもの』だ。
それぞれ好きなものを思い浮かべ、その言葉の漢字の一部だけを書いてくれ。
最初の出題者は、臺与、よろしく。
解答者を指名してくれ。」
とろけるような笑顔で臺与に微笑みかける。
・・・・は???!!!
既に怒りで頭が沸きそうなのに、これ以上どう興奮しろってゆーーーのっっ??!!
臺与はウフンッ!!って感じで喉を整え、鈴の音のような澄んだ高い声で
「では、解答者には左大臣さまを指名いたします。よろしいですわね?」
妖艶な笑みで微笑みかける。
兄さまは優しく微笑みウンと頷く。
・・・・どーーーーー見ても恋人同士が公衆の面前で甘~~~い会話をしてるようにしか見えないっ!!
ギラギラと憤怒に滾った目で兄さまと臺与を交互に睨み付ける。
あっ!でもお題も考えなくちゃっ!!
我に返り、落ち着いて『好きなもの』を考える。
よしっ!あれにしよっ!!
サラサラと紙に書き付けた。
みんなの筆が止まったのを見計らって臺与が
「では、私の好きなものを発表します。これですわ!」
と言いながら手に持った紙の面をみんなに見えるように少し持ち上げ、ゆっくりと一人ずつが見える角度に動かした。
そこには
上半分に『雨』、下半分に『ム』、真ん中に『丙』と三文字が縦書きに書いてあった。
それぞれが漢字の一部分ね?
最初の文字は明らかに上に『雨』って、雨かんむりね?『雲』とか『雷』とか『霧』とか?
で二文字目が下に『ム』って何?『去』とか『雲』もそうね?
三文字目が真ん中に『丙』・・・・?右にあるなら木へんをつけて『柄』にできるけど、真ん中??
う~~~~ん、と私が悩んでも答えるのは兄さま。
兄さまが顎に指を添え考え込んだあと、まずは一つ質問する。
「臺与の好きなもの、のそれは、鳥や動物?花?それとも地名?人の名前?歴史上の偉人とか?」
分類を質問してもいいのっ??!!
心の中でツッコむけど、いい考えねっ!範囲が狭まるし!!と感心。
臺与が
「まぁ!さすが左大臣さま!
ええっと、おっしゃる通り歴史上の偉人で、有能で若くして将軍の地位に上り詰めた、傲慢なところのある高貴な御血筋の漢の武人です!」
有能・若くして上り詰める・傲慢・高貴な血筋!?
そう聞くと兄さまにもピッタリ当てはまる。
でも誰っ??!!
歴史上の偉人、漢の武者って??
私の知識には無いかもっ!!
兄さまが閃いた時の嬉しそうな表情でニヤッ!と笑い
「わかったぞ!霍去病(*作者注1)だ!」
あれ?でも霍去病って若くして病死したんじゃない?(24歳らしいです。)
臺与がホホホッ!と楽しそうに笑いパチパチと拍手し
「正解ですわっ!
左大臣さまには何でもお見通しですわね!」
満面の笑みで二人が見つめ合う。
はぁ~~~??!!!マジで何見せられてるのっ??!!
あーーーっっブチ切れそうっ!!
イライラがつのり、私は今、眉間にしわが寄り、こめかみを痙攣させた自分史上一番ヒドイ顔をしてると思う。
でも私だけじゃなく、源号もイライラしたように手に持った扇を握りしめブルブル震わせ、ギリギリと歯ぎしりの音が聞こえそうなぐらい歯を食いしばり噛みしめてる。
兄さまがみんなを見渡し、ご機嫌な声で
「では私が出題する。解答者は、伊予どの。よろしく頼む」
ウンと無言でうなずくと、兄さまが紙をみんなに見せたあと、私に対してはピタリと止めて見せてくれた。
そこには、真ん中に『車』、左側に『金』、真ん中に『早』と書いてある。
(その7へつづく)
(*作者注1:前漢の武帝時代の武将である。騎射に優れており、18歳で衛青に従って匈奴征伐に赴いている。その後も何度も匈奴征伐に功績を挙げ、3万の首を上げ、紀元前121年に史上初の驃騎将軍に、さらに紀元前119年には匈奴の本拠地を撃破し、衛青と並んで大司馬とされた。出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』『霍去病』)




