EP538:伊予の物語「痴嫉の骨(ちしつのほね)」 その4~竹丸、会合の内容を話す~
私は話しかけられた垣祢さんに
「あの~~~、芳子さまが殿にご挨拶のお目通りをお願いしたいとおっしゃるんですけど、ご都合をうかがっていただけます?」
垣祢さんがニコニコしながら立ち上がってすぐに主殿に向かってくれた。
私は竹丸をチラチラ見て、話しかけようとすると、あっちは『話しかけられまいっ!』として気まずそうに視線を逸らす。
垣祢さんが帰ってきて
「殿は今、参議の方々とご子息である若君たち、左大臣さま、宮中の女房さまと会合なされているから、しばらく自室で待っているようにとのことです。」
はぁ??!!
じゃ兄さまもここにいるのっ?!
参議さま方と会合?!
って何のっ?!
ますます聞きたいことが爆増!!して、どーーーーしても竹丸と話がしたかったので、私の気がそれたすきにソロリソロリと庭に降りようとしてた竹丸に向かって
「ちょっとっ!竹丸さんっ!お待ちくださいっ!!お聞きしたいことがあるのっ!」
ビクッ!と全身を震わせ、硬直して、ゆっくり振りむき、ぎこちなく微笑みながら竹丸が
「に、庭で話をしましょうか?い、伊予さん?」
というので、私たちは東中門を通って、遣水を引いた立派な池のある庭へ向かった。
庭にいると北側に見える主殿で会合が行われてるらしいけど、途中には梅や桜の木があるし主殿には御簾と壁代が降りてるので中の様子は見えない。
私たちは池の縁周辺にいるので、主殿までは声が届く距離じゃない。
立ち止まって池の中島方向を眺めながら竹丸に、ムクムクと湧いて今にもはち切れそうな疑問と不満をぶちまける。
「ねぇ?!なぜ十日も兄さまは私を無視するのっ??!!
影男さんのことで怒ってるの?
何か知ってるなら教えてっ!!」
焦りのあまりツバをとばして迫った。
竹丸が『どうしようかな~~?』と悩んでる様子で頭を掻きつつ重い口を開いた。
「え~~~では、全部話しますね。
これから話す事は、姫が影男んちから左大臣邸に移った日に、若殿が参加した会合での出来事です。
あの日は参議・源湛さまの屋敷で会合があったんです。
でそこには同じく参議である他の方々、源希、在原友于、藤原有実、源直、藤原有穂さまがたがいらしたんです。
彼らのご子息たちも三・四人同席になってました。
若殿は参議さま方を味方につけようと、以前から身銭を切って酒宴や真面目な政策会合を催して、親睦を深めようと頑張ってたんですけど、その一環ですね。
で、その日もその会合が終わり、参議の方々はご年配の方が多いので早々にお帰りになったんですが、歳の近いご子息たちと若殿は一杯飲もうという話になって酒宴になったんですね。
で、そのご子息たちというのが酒癖が悪いのか何なのか、酔っぱらって若殿に絡み始めたんですよぉ~~!」
えっ?!ビックリして
「身分もアレな馬の骨の若造が天下の左大臣にウザ絡みしたのっ??!!
親のしつけはどーーなってるのっ??!」
竹丸も呆れたように肩をすくめ
「そうですよ全くっ!
よくて六位蔵人ふぜいが、太政官の職務を統べる議政官の首座として朝議を主催する二位の左大臣に対してあの態度っ!!
ひとりの子息が若殿に近づき、もたれかかるようにして肩に手を置き、呂律の回らない舌で
『ねぇっ?!
アンタ、臺与の何なの?
オレァ、あの女子に心の底から惚れてんですよぉっ!』
若殿が冷ややかな目でその源希さまの子息の号という六位蔵人を睨み付けると、そいつが嘲るようなおどけた調子で
『は?知らないんっすか?それともばっくれてんすか?
臺与ですよっ!臺・与っ!!
なんとか更衣のお付きの女房のっ!
いつもアンタにくっついてる女子っ!
彼女がねぇ、アンタのことを「立派な殿方だ!」とか「理想の男子だ!」とかいうたびに、なんか・・・こう・・・ムシャクシャしてねぇ・・・・っ!!
胸糞が悪いってゆーーーかぁ・・・・いつかタイマンで勝負してぇ!って、ずっと思ってたんっすよっ!
どうっすか?!』
と絡むと、さすがに他の若造たちが源号を若殿から引き離して
『あぁっ!お許しくださいっ!!コイツは酒を飲むと気が大きくなるんですっ!!
普段は左大臣さまを尊敬して崇め奉ってるんですよっ!!
どうかっ!お気を悪くなさらないでくださいっ!
痴れ者の若気の至りとして、お許しください!!
酔いが醒めたら必ず謝罪させますのでっ!』
と源寄という源湛さまの子息が言うので、若殿もそれほど気にした素振りもなく冷たい一瞥をくれ
『出世したいのなら今後一生酒を断つ覚悟をしろ、と伝えろ』
と言い放ちました。」
ひぇ~~~~~っっ!!
怖っっ!!
事実上『今度やったら出世させない』宣言?
「でもそんなにひどい酒癖ならそのせいで出世を棒に振る、は現実的にありそうっ!!」
竹丸もウンウン頷き
「でもそいつらのことを『本当に質が悪い奴らだ!』と思ったのはヒソヒソ内緒話してるときに、こんな会話してるのを聞いた時です。
奴らはニヤニヤしながら楽しそうに
『男を知らない乙女を祭りの後で、男衆の間で輪姦するだって?
なんだよそれっ!野蛮な風習だなっ!』
『おうよっ!だが上品ぶるなよっ!お前だってその場にいりゃあその祭りに参加するだろ?』
『まぁな。断る理由はないよな。』
『そうそう。みんなでやるんだから誰に責められるわけでもないし。犯罪じゃないんだろ?』
『へぇ~~~~!!いいよな~~~~!興奮するだろうな~~~!全員でひとりの生娘をっ?!っかぁ~~~~~!想像するだけでたまんねぇなっ!!』
『そうだっ!今度試しにやってみるか?!』
って話してたんです!」
(その5へつづく)




