EP536:伊予の物語「痴嫉の骨(ちしつのほね)」 その2~伊予、二人旅を夢見る~
兄さまがイジワルそうな、いじめるのを楽しむようなニヤケ顔を浮かべる。
耳に熱い吐息を感じる。
芯を震わせる硬い低い声で
「可愛い・・・これだけで、こんなになって」
クチュクチュ
粘性のある液体が纏いつくような音を立てながら指を動かされる。
そこが痙攣したようになり、腰がピクピク動くのを止められない。
「・・・っダメッ・・・に・・い・・さ・・・まっ・・・っんっ・・ふっんっ・・んっ・・・っやっ・・・」
快感と強張りと無自覚な痙攣が腰を波打たせ、喘ぎ声を押し出す。
兄さまの息がハァハァと荒くなり、腰を掴む指に力が入る。
愛おしむように速さと強さを増す指での愛撫を続けながら、私の喘ぎ声を塞ごうと唇に唇を近づけた。
その時、妻戸の外から
「若殿ぉ~~~っ!
何してるんですかぁ~~~っ?!
早く行かないと約束の時間に遅れてしまいますぅ!
いつも『年配の方に礼儀を欠くな!』って言ってるのは誰ですかぁ?
参議さま方を待たせたりしたら、また朝廷で疎まれますよぉ~~!」
竹丸ののんきな声がした。
「ふぅ~~~~~っっ!」
とあきらめたようにため息をつき、兄さまが動きを止めた。
私の体から手を放す。
体を伸ばし
「わかった。今行く。」
兄さまが外に向かってこたえた。
私を見て上気したような惚けたような、それでも一生懸命真面目な怒った顔を作って
「お説教の続きは帰ってきてから!」
幼子を叱りつけるような、からかうような『怒り顔』で睨み付けた。
頭をクシャッ!と撫で、私を置いて出ていった。
まだ興奮が抜けきれず、ぼんやりとしてそこに立ち尽くしてたけど、ハッ!と我に返った。
昼間からっ??!!
一体何してるのっ?!私っっ!!
恥ずぅぅっっ!!!
一気に血の気が引くほど後悔した。
竹丸のジャマが入らなければ、すぐにどうにかなってそうだった自分にもゾッとした。
私って簡単?
でも、兄さまともっとゆっくり過ごしたいな~~。
いつもちょっとしか一緒にいられないし。
雷鳴壺の私の房に真夜中に来ても、夜が明ける前に帰ってしまう。
左大臣で一の大臣で重責を担う忙しいお方だから仕方ないけど。
朝から晩まで一日中ずっと!一緒にいたいなぁ~~~!
あっそうだ!一緒に旅に出かければいいんじゃない?!
そういえば、以前、一度だけ越前国に旅行したことがあったよね?!
竹丸や綿丸も一緒に!
九頭竜川流域の神社へ、兄さまが帝の命で竜骨を受け取りに行ったのよね!(*作者注1)
私は誘拐されたりして怖かったけど、それまでの道中は楽しかった。
琵琶湖周辺の鯖街道沿いに歩いて宿場で海の幸を食べながらの旅だったし、兄さまと一日中一緒だったし。
あっ!でも、足の豆がつぶれて死にそうなぐらい痛くて憂鬱だったけど。
でも旅先でどんなに辛いことがあっても、過去のことになると笑い話や楽しかった思い出になるのが不思議っ!!
ネタとして面白話にできるし!
今思えば楽しかったなぁ~~!もう一度二人で旅行に行きたいなぁ~~~!
なんて夢想してた。
その晩は兄さまの帰りを、左大臣邸の自分の対の屋でウトウトしつつも朝まで待ってたけど、兄さまは帰ってこなかった。
翌朝、竹丸が来て、
「宮中に戻るんでしょ?
荷物を牛車に積み込みます。
姫も準備して乗ってくださいねぇ~~。」
というので、あまり引っ張り出してなかったけど、綿入り単などの身の回りのものを葛籠に詰めて準備を終え、年子様に立ち去ることを告げる挨拶にいった。
北の対で対面してお世話になったお礼と雷鳴壺に戻ることを告げると、年子さまが眉根を寄せた険しい表情で
「殿は伊予のところにもいないの?
昨夜はお帰りにならなかったのね?」
私がハイと頷き
「昨日の夕方に私をここまで送り届けてくれたあと、参議さま方との会合にお出かけになったまま、お会いしてません。」
年子さまは不思議そうに首を傾げ
「堀河にお帰りになったのかしら?でも変ね?伊予がいればいつもここに帰るのにね?」
私もそう聞いてたので不思議に思ったけど、
「何か会合先で急にお泊りになることが決まったとかでしょうか?
あっ!竹丸っ!殿は昨夜どこにお泊りになったの?」
荷物を積み込み終え、開いたままの妻戸の向こうに姿を現した竹丸に話しかけると、ギョッ!としたように一瞬固まり、ぎこちない笑顔で
「え?ええっとぉ・・・昨夜は・・・堀河邸にお帰りになりました。」
ふぅん。
私を無視して?
ちょっとイラっとしたけど、『何か理由があるのかも?今度会った時に問い詰めようっ!』ぐらいの軽い気持ちで、心は雷鳴壺で椛更衣との再会!へと想像の翼を広げ飛び去ってて、ウキウキワクワクしてた。
内裏へ戻る道中で、もっと詳しく兄さまのことを竹丸に聞こうと思ったけど、私は牛車の中、竹丸は外で歩いてるし、で表情も見えないし、大声で話せば牛飼童に会話を聞かれるかもしれないし、で警戒して何も聞けなかった。
(その3へつづく)
(*作者注1:EP63:清丸の事件簿「太古の九頭龍王(いにしえのくずりゅうおう)」にあります)




