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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の物語(恋愛・ミステリー)

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533/622

EP533:伊予の物語「内攻の瘡(ないこうのかさ)」 その7~伊予、左大臣の逆鱗に触れる~

(ともの)家の雑色の慌てた声がすると、


「チッ!これだから小さい屋敷は不便なんだ!

若殿(わかとの)、牛車をいったん路に出しますので!ちょっと待っててください!」


って竹丸の声のようだけど?


硬い低い男性の声で


「このままで構わん!後ろから降りるっ!後で路に出しておけっ!」


イラ立ったように言い捨てた。


雑色が慌てて、私たちのいる東の対の廊下で御簾越しに


「あ、あのっっ、さ、左大臣さま?が、お越しになられて、若奥様と面会なされたいと仰られていまして・・・・。

どうすればいいんでしょうか?

ほ、本物でしょうか?」


焦り散らかしてる。


影男さんが探るように私をチラッと見るので


「何も知らない!今日来るとは聞いてないけど!」


影男さんが雑色に


「とりあえずここにお通しして。」


命じると、寝所にしてた畳を北側の屏風の前に移動させ、文机を衝立の後ろに隠し、脇息を持ってきて畳の上に置き、高貴な方を迎えるときの礼儀?なのか御座(おまし)を整えた。


雑色が兄さまを案内し、御簾を押して母屋に通すと、影男さんが手で御座(おまし)を示しながら


「こちらへどうぞ」


兄さまはいつもの身軽な筒袖や水干ではなく、白地に竜の体が黒、鱗が銀、瞳が金、で刺繍された豪華な物々しい狩衣姿で、丈の長い立て烏帽子をかぶってる『ザ・左大臣時平』という格好。


袴は高級な紫根(しこん)染め、扇にも金箔が施してあり、財力?で他人を圧倒するような、下品な公卿って感じ。


そういえば、派手な衣装を身に着ける人のことは、衣装は覚えてても顔は覚えてないよね?


私と影男さんに腹を立てて、ぎゃふんとやり込めたいんだろうけど、あからさますぎる。


影男さんに身分の差や財力の差、権力の差を見せつけたいのか、無言で御座(おまし)に座ると、横柄な態度で体を傾けて脇息に肘を置き、扇を広げて自分を扇ぎながら


「伊予が世話になったな。

私の妻がいつまでも他の男の世話になるのはいただけない。

ちゃんと連れて帰るから安心してくれ。」


影男さんと私は、兄さまに対面して並んで座ってる。


影男さんが静かに


「この結婚は右大臣の命令です。

右大臣の許可が無ければ離縁できません。」


兄さまは忌々(いまいま)しそうにフンッ!と鼻をならし


「最後まで話を聞いてくれ。

どこへ行くかの最終判断は伊予本人に任せよう。」


と私を見つめるので、え?私が何か言う番?


「ええっと、そうですね。

お話って何ですか?」


御簾の向こうの廊下に複数の人影がゴソゴソ動いて、私たちの様子をうかがい聞き耳を立てる野次馬が詰めかけてる気配がした。


あとで絶対噂になるっ!!


ってゆーか、兄さまは(ともの)家のご両親や使用人に向けて示威行動(パフォーマンス)したかったのね?


私は威厳や権力になびかないって知ってるはずだし。


兄さまが扇をたたみ、顎に押し当て、ボソッと話し始めた。


「伊予が昨日購入した『伯州散(はくしゅうさん)』は偽物だった。

偽薬を作ったのは臺与(とよ)とその手先だった。」


ビックリして


「え?じゃ影男さんっ!昨日渡したアレ、飲むのをやめてね!?塗るのもっ!」


影男さんは深刻な顔で頷く。


兄さまは苛立(いらだ)ったようにチッ!と舌打ちし


臺与(とよ)尚侍(ないしのかみ)の職につくと、賄賂(わいろ)や俸給で潤った(ふところ)を元手に、市で蟹料理屋を開業し繁盛して人気店になった。

もっと収入を得ようと考え、蟹料理屋で大量に出る廃棄物のカニの殻を有効活用しようとして、偽の『伯州散(はくしゅうさん)』を作った。

本物の材料であるマムシや鹿の角を申し訳程度に使い、ほぼ大半を廃棄物のカニの殻を利用し、雑な蒸し焼きにして砕き『伯州散(はくしゅうさん)』として売ったが、効果があり、安価で質のいい化膿止めの薬として世間に広まってしまった。(*作者注1)

だが偽の薬であることには変わりない。

偽薬を販売した罪で検非違使庁に訴えると脅すと、臺与(とよ)は取引を申し出たので、『尚侍(ないしのかみ)を辞職すること』を要求した。」


「へぇっ!!

臺与(とよ)は了承したの?」


兄さまは不機嫌な表情のまま


「渋っていたが、彼女の恋人・与四郎(よしろう)が絡んでいた事実を突き付け、また獄につなぐぞと脅すとアッサリ『尚侍(ないしのかみ)を辞職する』と言った。」


「あっ!

あの人って臺与(とよ)の恋人だったのね!

確か、兄さまを襲って検非違使に捕まった人ね?!(*作者注2)

もう釈放されたのね?!」


へぇっ!!まだ臺与(とよ)と続いてたんだ~~~!


意外に純愛?


木くずの中に蟹を入れて荷車で料理屋まで運んだり、偽『伯州散(はくしゅうさん)』を蒸し焼きにして作ったり、結構な重労働?!を真面目にしてて偉いっっ!!


ガラが悪いなんて言ってゴメンナサイっ!


兄さまが続ける


「そもそも与四郎(よしろう)を獄から出したのも以前の取引の一部だ。

臺与(とよ)尚侍(ないしのかみ)を自らの希望で辞職することになったと、右大臣に伝え、


(もみじ)更衣が濡れ衣を着せられないように伊予は(かば)っただけで、影男と結婚するつもりはなかった。

影男が雷鳴壺で捕まったのは臺与(とよ)の企みだから、影男との結婚をなかったことにして、伊予をすぐ宮中に呼び戻してほしい』


と頼んだ。」


じゃ!雷鳴壺に帰れるの?!!


テンションが上がり目を輝かせて


「で、菅公は何と(おっしゃ)ったの!」

(その8へつづく)



(*作者注1:https://www.glycoforum.gr.jp/article/23A6J.htmlより引用『2. キチン・キトサンが創傷治癒に及ぼす影響

創傷治癒の過程には、大きく炎症期、増殖期およびリモデリング期が存在する。キチン・キトサンは、それぞれの過程に影響を及ぼすことが明らかとなっている。具体的には、創部への白血球の誘導を促進する、多型白血球の誘導を促進し組織での異物貪食を促す、肉芽組織の形成を促し増殖期への誘導を行う、速やかな上皮化を行うといったことが知られている。また、創傷治癒に重要なプロスタグランジンなどの生理活性物質を放出させる。また、キチン・キトサンは血小板凝集能を強化し、血小板由来成長因子の放出を促進する。このような各種成長因子・生理活性物質は、血管内皮細胞・線維芽細胞などを創部に誘導する。』そうです!)

(*作者注2: EP439:伊予の物語「春雷の馬芹(しゅんらいのうまぜり)」 その3にあります)

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