EP532:伊予の物語「内攻の瘡(ないこうのかさ)」 その6~伊予、例の薬を見つける~
東市の中央通りの人混みを歩きながら、兄さまと竹丸はキョロキョロ見回して何かを探してた。
私も螺鈿細工のキレイな櫛とか、白粉とか、手箱とか、文箱とか、布とか、組紐とか、見たこともないような食材とか、薬草とか、陶器とか、磁器とか、目につく興味のある物には何でも反応してた。
中でもある物が目に入ったので
「あっ!兄さまちょっと行ってくる!あれを買いたいのっ!」
私がフラフラと近づいた場所には、
『激安!伯州散!他より半額!』
という幟があり、棚に蓋つきの壺が並べてあるお店。
店主の優しそうなおじさんに
「ええっと、切り傷がミミズ腫れになって、赤くなってるんですけど、どれぐらい必要ですか?」
話しかけると、揉み手して壺の中から黒い粉を匙ですくい薬包紙にのせながら
「そうですね、内服するなら一日一回一包を酒に混ぜて飲んでいただければいいです。
治るまでね、一週間ぐらいですかね。
あと、外用なら紫雲膏に混ぜて塗ってくだされば効きますよ。」
「じゃ七包いただけますか?」
会計を済ませ、受け取った伯州散は、包んだ薬包紙の上をひねってこぼれないようにしてある。
七つ分はかさばる!!
とりあえず袖に全部入れて、
『ちょうどよかった!作った巾着に入れて影男さんに渡そう!』
と思ってた。
兄さまはそれをジッと見てたけど、不審そうに店主に
「なぜ激安なんだ?」
店主は満面の愛想笑いで
「はい、それはもう!営業努力しておりますので。利益度外視なんですよ~~!」
兄さまが
「いつ頃からここで商売してる?自分で薬を作ってるのか?それとも仕入れてるのか?誰から?原材料は何だ?製法は?」
次々と質問して店主を追い詰めてた。
伯州散の店主を質問攻めから解放した兄さまが、離れたところでおしゃべりしてた私と竹丸に合流し、再び歩き始めた。
兄さまに
「調べるのは伯州散を安値で売ってるお店?
薬草店も全部調べるの?
大変そうっっ!!」
兄さまはウンとうなずき
「そう。
検非違使たちと手分けしてるが、時間がかかるからつきあわなくていいよ。
左大臣邸まで送らせる。
竹丸、頼んだぞ」
竹丸は
「は~~~い!」
と間の抜けた返事。
竹丸と馬の背に揺られて帰る途中、
「伴家に寄ってね!影男さんに薬を渡したいから!」
竹丸が不満そうに口をとがらせ
「まさか、影男との生活が気に入ったんですか?若殿を裏切るつもりですかっ!」
ブンブンと首を横に振り
「違うっ!薬を渡すだけだって!早く渡さないと無駄になるでしょっ!」
チッ!と舌打ちしながらも、伴家の方向に馬を向けて歩き始めた。
もうすぐ到着というころまでくると、伴家の門を出たすぐの路に水干姿の男性がたたずんで、時々顔を上げソワソワしてるようだった。
「影男さんっ!竹丸、止めて!降りるから!」
馬から降り、小走りで影男さんに近づき、袖から薬を取り出そうとすると
ギュッ!!
イキナリ肩ごと抱きしめられ、胸に頭を押し付けられ、低いかすれ声でボソッと
「昨夜のことは夢かもしれないと思ってました。
ここを去ると知っていましたが、帰ってくるかもしれないという一縷の望みに賭けたんです。
よかった・・・・帰ってきてくれて」
薬を渡しに来ただけよ!
って言おうとしたけど、影男さんの震える腕と速く打つ胸の鼓動に、軽口をたたける雰囲気じゃなかった。
左大臣邸で年子さまに気を使いながら新婚生活か~~~。
兄さまの帰りは遅いし、会えても夜だけだし。
それより・・・・影男さんといる方が楽しい?
こんなにも必要としてくれるなら、もうすこしここにいてもいいかな?
と思い始めて、影男さんの背中に腕を回し、ギュッ!と抱きしめ返した。
「ね、影男さん?わかったから、ここにもうしばらくいることにするから、放してくれる?」
影男さんが腕の力を緩めると、胸から抜け出して、振り返ってすぐそばにいた竹丸に
「あっ!そのっ、もう少しここにいることにするって、兄さまに伝えてね!
宮中に戻れるようになったら教えてって言ってちょうだいね!」
竹丸が不機嫌マックスな仏頂面でブゥ!と頬を膨らませ私を睨み付け
「やっぱり若殿を捨てるつもりですねっ!
姫は尻軽浮気女だっ!
若殿が失意のあまり自殺したらどうするんですかっ!!」
正論だけどムッ!として
「兄さまだって尻軽浮気男でしょっ!!
臺与の独裁をやめさせて私を宮中に戻れるようにしてくれればいいでしょっ!」
他人頼みのクセにエラソーな物言いだったけど、今は影男さんの方が気になる、ので仕方がない。
ホント流されやすい?
竹丸が私を目で殺さんばかりに睨み付けながら馬に乗って帰ると、影男さんと私は伴家で偽の(?)夫婦生活を再開することになった。
その日は影男さんは宿直で、途中で抜けてきただけだったのですぐに内裏に戻った。
私は一人で夜を過ごしたけど逆にホッとしたところもある。
次の日は朝から、母君から命じられた袴の仕立てがまだ終わってなくて無心で手を動かしてると、影男さんが昼頃に帰ってきた。
ニッコリ微笑んで
「宿直あけなので明日の朝までゆっくりできます!
どこかへ行きますか?」
思わずつられて微笑み返し
「う~~~ん、そうね~~~、郊外のお寺?とか?」
黄や赤の色とりどりの紅葉が残る木々、常緑の杉が立ち並ぶ、枯れ葉が積もった石段の続く風景、枯れ葉の香しい発酵の匂い、ひんやりとした澄んだ空気、を思い出して、
『寒いけど趣があるのよね~~~!』
とワクワクしてると、門の方から騒がしい音が聞こえた。
「お、お待ちください!庭に牛車を入れることはできません!外で降りてください!」
(その7へつづく)




