5−1: 大探査1−1
転移窓が設置されていない星系に行くには、これまでどおりの余剰次元窓かFTLを使うしかない。
私とエズラは、目標星系に「α」の名称を着け、転移の準備に入った。
これまでに名前が着いていない星系には、この1000時間あまりで次々に名前が着けられていた。ヴェールコール人と私たちが高共振性結晶による転移窓の技術を、その最後の技術を公開してからは多くの種族が次々と転移窓を設置していた。一つの窓はその励起の状態により、複数窓のいずれかと接続する。そして、凖励起状態においてもそれは同じだった。だが凖励起状態では、通過できるのは物理の基本的な力のみだった。それでも電磁波は通過できる。窓の近くにはルータが設置され、受け取ったパケットを次の送信先へと転送するようになった。古い、だが結局は今も鉄とケイ素の文明圏で使われている技術をそのまま使ったものだ。
星系の名前については、どの種族も頓着していない。文字や数字を着けていた。正式な名前は後から着ければいいのだから。
私たちが転移の準備をしている間にも、いくつかの星系に名前が着き、そしていくつかの星系が赤く示された。そこにはモニュメントはなかったということだ。
「これより転移を行なう」
共有感覚空間とサイバースペースで繋がった私とエズラは同時に指示を出した。それにいくらか遅れてヴェールコール人のローガも指示を出した。
共有感覚空間を覗き見るのとは違う、奇妙な感覚だった。ラバルという私とエズラという彼がいるのではなく、ラバル=エズラ、あるいはエズラ=ラバルという一人がいるような感覚だった。ヴェールコール人は、それはまだ接続部分に調整が必要だからだと言っていた。だが、私とエズラはこの感覚も悪くないと思っている。結局、共有感覚空間とサイバースペースからは離れることができるのだ。ヴェールコール人は個人が個人でなくなる危険性を訴えていたが、彼らの文明と私たちの文明は違う。私たち結局個人であることを重要と思い、彼らのように常に接続しているわけではないのだから。それに、ある意味ではテランもエランもそれはもう経験している。それゆえに常に接続はしないという方向を選んでいるのだから。調整が必要だとしても、多少の時間が必要なだけにすぎない。
転移の間、私とエズラの接続は切れた。
だが、αの北に到着するとすぐに接続が回復し、双方が無事であることが確認できた。ローガからも無事であるという連絡が入った。
「モニュメントと結晶の反応を探査しよう」
「転移窓の設置を」
私とエズラが、どちらがどちらというわけでもなく二つの提案を出した。
星系の見取り図を作るのと並行してできる作業だ。転移窓の設置には少し時間がかかる。3つの隊が方角を割当て、探査を行なう。内惑星、岩石主体の惑星の見取り図は数分で作成できた。それと照し合わせると、ハビタブル・ソーンいある惑星から結晶の反応があった。その惑星をα-1と名付けた。
転移窓の設置を行なう班を残し、α-1へと進む。
降下船のスクリーンに、船の下の大地に緑から青の、おそらく植物が繁茂しているのが見えた。海も充分に広い。
「ロムス、ここなら凖知性体くらいはいそうだな」
隣のコラスが言った。
「いない理由ってのがわからないな。結晶の反応もあったんだし」
そう答えた時、降下を始めるという提案が共有感覚空間から入った。降下船はジリジリと排出口に進み、粘液に包まれる。
「思うんだが、ひり出される糞ってのはこんな気分なのかね?」
「古いジョークだな、コラス」
降下船の後では他の班員が笑っていた。
テランの船は、母船の外に降下船を接舷させている。そこに人が乗り組み、母船から切り離す。エランにもそういう船がないわけではないが、船の体内に降下船を収容しておく場合が多い。一つには降下船などを保護するためでもある。もう一つの理由は、降下船などは卵から生まれる、母船の子供だからだ。母船は体内で卵を孵化させる。卵生ではあるが、母船には胎盤もあり、収容時には降下船などは胎盤に繋がり機能の維持をしている。テランの船の、母船の外に降下船などを着けておくという奇妙さが身近になったことで、古いジョークが息を吹き返していた。
「ほら、行くぞ」
私はコラスにそう言い、降下船の内側の膝の上に張り出した棚に手を当て、降下船と共有感覚空間で繋がった。
私たちは示された座標に向かった。




