異世怪談SIN魅深悔黒~アレストダレスの書~1-2第一章「アバンの場合~Avant Accident~」②節
犠牲が出れば、公は動かざるを得ない
宗教も、政も、失われた命に報いねばならない
掲げた理想は大言壮語
命の価値は権威が決める
・・・両断するは、圧倒せし力
アゲレ「…回収は未だ。ですので、アーノルド坊ちゃまのご遺体も」
リュウレイ「解りました、遺跡より回収しましょう」
その厳かなる口調は、フルフェイスの黒い兜より発せられていた。
どこか中性的で、少年を想起するその声音は、外見とは大きく懸け離れてもいる。
黒く、大きく、太さを感じる黒の外殻。
身の丈2mに届きそうな背丈。
上にも横にも大柄な出で立ちは、和の意匠を取り入れし多国籍めいた西洋甲冑と共に、周囲の者が気圧されそうな威容を誇っていた。
リュウレイ「それで…その後はどうなりましたか?」
アゲレ「……既に噂も聞き及んでしまっておるかと思われますが」
リュウレイ「ええ。ですので、教会として、把握している詳細を
照らし合わせたく思うのです。」
汗を拭うアゲレ司祭。
彼の眼差しが、リュウレイの仮面を苦悩と共に見上げて行く。
アゲレ「ある程度は広まっておりますが…教会としては
伏せておきたい部分もありまして」
リュウレイ「……お察し致します。
ですが、”ご依頼”に応える以上、具な情報も、得ておきたい次第でして」
アゲレ「……聞き込みなどの際には、世俗のものに情報をみだりに開示せぬよう
お願い致しますぞ」
リュウレイ「心得ております」
正した姿勢。
微動だにしない粛々とした座り様より、力強さを感じてしまう。
アゲレ(東国のジョブ…サムライか
堅物では在ってくれる様だが、
外面通り口は堅いと見てよかろうものか…?
世俗の噺が確かであるならば、常に毅然とした
冒険者としては実直過ぎる者とも聞く…)
リュウレイ「……」
アゲレが値踏みする間も、言葉を待つリュウレイは微動だにしない。
生真面目な振る舞い、Sランク冒険者としての名声、どちらを鑑みても、軽率に口の達者な相手などではないのだとも解る。
アゲレ「改めまして、【遠見の水晶球】…を、通し
監視の者がアーノルド様の目を借りていた範囲は、
彼が事切れてから、”元”勇者と
アンスロポウセント家のご息女が逃げ出す所を映し出し」
水晶球が、逃げ出す二人の背中を映しー
アゲレ「ー後を追うアドン…ギルド重鎮でもある、名士ボールディ・T・バランの
甥に当たる彼が…ふらふらと坊ちゃまを跨ぐ様に歩む姿以降
遺体越しの視界には変化も無いままです」
リュウレイ「リッチやドラゴンゾンビが現れると聞き及んでいますが…
それらも?」
ボス部屋に残されたアーノルドの死骸。
その眼球が腐り落ちてしまうまでは、水晶球経由で遺跡内の様子が窺えていた。
リュウレイ「特異な個体…レイスもどきは」
アゲレ「アーノルド様の眼前に突如現れた際と、
背後よりの指先が、目の端を隠しせしめた後は…」
リュウレイ「倒れたまま、通路を眺めるのみ…ですか」
アゲレ「手の空いた者に確認をさせておりますが、一向にソレらしき姿も」
映像が切られ、傍らに立つ補佐の者が、水晶球を受け取る。
アゲレ「そして…翌日には、遺跡を出てすぐの辺りで
様子のおかしくなってしまった
”三名が”
発見されたのです」
時は少々遡る。
アーノルドの死に際し、教会が遺跡へと人を向かわせた際、笑うアドンと赦しを懇願し続けるアデラインを両脇に支え、勇者アバンが牛歩の徒と化しているのが発見された。
救助の者が手を貸すべく近寄り、声をかけるが、飄々としていた勇者は見る影も無く、虚ろな眼差しで屍人が如く進み続けている。
女魔法使いはまるで、いやいやをする赤子の様に藻掻き、蠢くばかり。
対して屈強な戦士は、唐突に暴れ出し、笑い、しゃがみ込み、また顔面を掻き毟っては抑止を振り解く、一種の恐慌状態。
デテイケ。
ハイッテコナイデ。
叫びとか細い呟きは、どちらも痛烈なる慟哭染みていた。
ソレからどうにか、協会関係者と応援のギルドメンバーの手で、回収されていった三名。
Aランク勇者PT【A Ast】が顛末を見てしまえば、当然遺跡内へと調査に向かいたがる者は少ない。
ギルドの名士ボールディも、甥っ子が暴れ出した際の抑止役として、調査には赴けない状況。
コノママでは埒など明かぬーと、孫の仇討ちにも怒りを露わなアブサルティ司教は、ツテを通じて”噂”のSランク侍を呼び寄せたのである。
だが、リュウレイが訪れるまでの間も、街の状況は混迷を孕んでいく。
診断の為に訪れた医者が、病室代わりとされた遺跡側に最も近い宿屋で、状況把握に努めるべく人々との会話に及んでいた瞬間。
アドン「アーッ!!!!」
アドンのドコか哀しげ声が響く。
直後、ドタドタと、宿屋中に轟いてしまう、男女がもつれて争い合う怒号と悲鳴。
オレハオトコダ。
モウイヤ。
聞き取ってしまった、獣が鳴くかの如き声音に、慌てて階段を上っていった一団が、扉を開いた先。
脱がされかけた状態。
虚空を眺める光無き眼。
投げやりな嗤いを細かく刻む、アデライン。
彼女の衣服を掴んだままで、絶叫のままに背後へと、”くの字”に折れたアドン。
医者が確認し、首を小さく横に振ってから、心停止状態であるだと告げれば、レイスの噂を聞き及んでいた人々は、悉く尻込みしてしまう。
「きょっ、教会に!…誰か!」
「レイスが…噂のレイスがナニかしやがったんだ!」
「ソ、ソレじゃあ…この部屋に?!」
「う、うわああああっ!」
パニックを起こし、部屋から、宿屋からも逃げ出してしまう人々。
以降、その宿泊施設には人が寄りつかなくなり、廃業へと追い込まれてしまうのだが、そこに気を止める余裕を有していた者など、街にはまるで居ない。
「ボ、ボールディの旦那!ギルドから応援を寄越してください!」
「た、たいへんだ!アバン様がっ!…アバン様がどこにもっ!!」
意識が混濁しているかに”思われていた”アバン?も、騒動が混迷と共に、夜の街へと消えてイってしまう。
それから、アンスロポウセント子爵が愛娘を迎えに赴き、バラン一族との諍いに発展しつつも、教会の調査団による仲裁を経て、仕切り直しの探索を考え始めたのが三日目。
アデラインは、自室内で死んでいた。
自身の腹を両手で掻き毟り、臓腑を避けて中から異物を取り出そうとする様な。
自死と呼ぶには酷たらしい惨状で、メイドと執事に発見されている。
恐怖に陥った人々の口に、封殺の門は立てられない。
不審死の立て続きに、娘を失ったアンスロポウセント子爵は逆上、四日目にはアバンの手配書が即座に出回り、教会が勧告する抑止もまるで効かない、人を雇って虱潰しな大捜査。
見つかったのは、酒場で浸っていたのかと思われる程、足取りも千鳥に疎かな、裏通りに立つ後ろ姿。
発見した神官騎士が尋問すべく近寄るも、まるで蜚蠊が如き勢いで、予備動作も無く闇へと滑り消える、Aランク以上の素早さはまるで怪異。
路地裏の闇に逃避行。
追いかけた者達が聞いてしまったのは、ダレが発したかも解らない、恐怖という概念すら劈きそうな悲鳴。
怯みかけた探索者達が、どうにか追いつこうとして足下に見つけてしまったのは、鼻のラインで分割されし、勇者だった”肉の袋”。
そうした事件の一連が、リュウレイが訪れるまでの―【アバンタイトル】。
そして、現在。
アブサルティ「教会の面子が為とは言え…」
教会を後にする、デカくて目立つ全身鎧が侍。
その巨体を”蔑むべく”見下ろしながら、孫の仇を余人に任せてしまう事に、未だ納得のいかないアブサルティ司教が、憚り無く不満を露わにする。
アゲレ「仕方有りますまい…ターンアンデッドどころか
ホーリーオーダーすら…
剣一つで霊体を斬り伏せるなど、眉唾では御座いましたが
彼の者が肌身外さず携えていたモノは
確かに異質な気配を感じる品で御座いました」
アブサルティ「武器を携帯したまま、教会に入るのも…度し難い限り
成功如何に関わらず、教会の威信を護る為には…」
言葉を切ったアブサルティ司教に、アゲレが頭を下げた。
アゲレ「承知しておりますれば…異国の技などで
出し抜かれてしまったとあっては
沽券に関わるのも必至。
見張りには、手練れも用意しておりますので…
Sランクといえど」
不穏な会話。
アブサルティは、教壇に立つ際の厳かな顔で、アゲレに掌を掲げる。
アブサルティ「全ては神の意向。御心のままに…
彼の者が携えしモノが
【レガリア】で在るというのなら
代行者たる我々が持つべきでしょうから……ねぇ」
リュウレイ(刀を預けるわけにはいかなかったですが…
心地良い態度ではありませんでしたね)
執拗に引き渡すように求められていた愛刀を、左手で僅かになぞり、摩る指先。
執着や妄執と言われればソレまでかもしれないが、冒険者である前に侍の命でもある以上、愛着以上の大切さで扱っておきたい。
【遠見の水晶球】の様に、この世界で珍重される【レガリア】と同質な品とも、思われてしまっていたのだろうか?
貴重品を狙うような雰囲気を醸していた司祭や、警備の神官達が不服を思い返すに、ますます預けるわけにはいかなかったのだと、己の対応に当然な判断と感じ入るリュウレイ。
リュウレイ「…他所モノに厳しいのは、西方も同じですか。
鎧もこちらに合わせたつもりでしたが
細部の違いに怪訝がられてしまうのも
私の不徳や無知が故…でしょうか」
相手に問題があろうと、自身のつけいられる隙も許し難い。
真面目すぎるきらいが有るとも言われそうだが、文化様式の異なる場所で暮らすなら、この程度の警戒心は常に抱いておくべきなのだろう。
リュウレイと呼ばれた己が、Sランクになってどれ程経つだろうか?
そうした躍進の一つ一つも、携えた業物と己が技量有ってこそなのだから、ドチラが欠けてしまうのも避けておきたい。
リュウレイ「浄霊の太刀…此度も効いてくださるかドウか」
リュウレイの刀は、霊体をも斬り伏せる。
ギルドの冒険者となってすぐ、噺が広まったからこそ、僧侶いらずのアンデッド殺しは、評価を容易に集められていた。
だが当然、立場の維持、発言権の向上を目論む正教会としてみれば、司教達の言葉と同様に、”除霊の代行者”めいた存在は、躍進に枷をかけたい相手。
なればこそ、手段を選んでいられる状況では無い事態は、彼等にとっておもしろくない”サムライ”を、呼び寄せてしまう大きな要因ともなってしまっている。
リュウレイ(懸念していてもどうこうなるでなし…)
腰の鞘を整え直す。
先ずはとりあえず、やるべき事もあるのだ。
リュウレイ「情報収集…でしょうか」
リュウレイは街を歩く。
全身黒い鎧の高身長は、どう足掻いても人目につくだろう。
調査とあらば、隠し立てもできない事態に、教会の代行者としてのプロパガンダも、考えられていたのだろうか?
「正教会の依頼ですかい?」
「Sランク冒険者なんて初めて見ましたよ」
「アレからもうお客がまるで…閑古鳥も甚だしいですよ
あ、お泊まりは決まって……先約、おありでしたか……はは
ぃぇ、申し訳ありません…はぁ」
情報通の店主、街の衛兵、事件現場の主人。
事件の聞き込みに彷徨うも、めぼしい情報は得られない。
街の人々にも噺を聞けば、此度の一見は【フォークロア】にもなりかけていた。
「勇者様の遺体…何日も経っていたみたいだったそうよ?」
「お医者様が言うには、走って逃げるどころか歩ける筈なんて…」
「オイラ見たよ、ずっとふらふらしててさ」
「教会前にも、姿を見せておりましたね…ええ、孤児院の子達と
買い出しから帰って来た時でしたので」
変貌した勇者アバンは、まるで彷徨う死体を思わせる。
斯様な意見が飛び交い、飲み食いをする様子も見られなかったのだから、噂となってしまうのは無理もない。
「お声がけしても…聞こえてないみたいで」
「無視された時にゃあよ、お高くとまりやがってとも思っちまったが…
取り憑かれてたかもしれねえんだろ?掴み掛かりに行かねえで、大正解って奴だぜ…ぅヒック」
貞淑な女性も、飲んだくれの爺も、共通する見解は明らかなる異常。
最も近付いた、好奇心に裏打ちされる子供の興味本位さえ、本能的な危険を悟っていたのか、物陰より恐る恐る覗き見ては、しばらく跡を付けるに留まっている。
「ボクが居るのも気付いてない感じだったかな」
リュウレイ「今後は、気をつけておいてください
ナニかあってからでは、すみませんから」
「……いかついナリの割りには、子供にも丁寧なんだな」
「さすがはSランク様ですか…余裕が感じられますね」
教会の報酬を目当てに、独自に探っていたのだろうか?
他の冒険者達もリュウレイの調査に気付き、その佇まいに感心してしまうばかり。
「すみません…私たちもあまり解って無くて
あの遺跡はゴーストも多く、私の魔力では心許ないですし」
リュウレイ「お気になさらないでください…そういえば、ギルドにはご遺族が居ると伺いましたが」
「ボールディさんですね、受付の方に聞けば、すぐ取り次いで貰えると思います」
街中を一筆書きが如く巡り、調査の終わりに訪れた冒険者ギルド。
近場に有る食事処を有した宿も、教会の計らいで部屋を取れている。
リュウレイ「今日はボールディ氏との面会で一区切りか…
めぼしい情報が得られないようなら……」
空いた右手が鎧の隙間を潜り、懐に有すモノへと届くリュウレイが指先。
ボールディ「おおっ、待たせてすまなかったな
ってかデカいな!アンタ。
俺以上とは恐れ入ったわ、がははは…と、
先ずは座ってくれ……て、小さいな、客用のソファじゃ。
座る場所を入れ換えるとしよう。
窮屈かもしれんが、こっちもお互い様になるんだ
勘弁してくれよ?Sランク様」
体格も声もデカいが、気っぷの良いノリ。
リュウレイに迫る身の丈をしたスキンヘッドの大男が、着席を促しながら左拳を自身の胸に当てる。
ボールディ「ボールディ・T・バランだ。
このギルド内じゃそれなりの範疇を任せてもらっている
うちのギルド長ほどじゃあないが、まあ
前線要員の元締めみたいなもんだ。
ヨロシク頼む」
リュウレイ「こちらこそ…リュウレイと呼ばれています
職業は侍、そして霊媒師も兼ねています」
稀にしか聞かない職歴。
ボールディはおもしろそうに片眉を吊り上げ、握手と共に再度座るべく勧め始めた。
促されて着席するリュウレイ。
ボールディ用のソファは大きいが、やはり全身鎧とより大きな体躯では少々手狭に感じてしまう。
ボールディ「むぅ…うちのもんに普段座らせてる方も
俺にはやっぱ小さいか
予算が通ったらどっちもデカくしたいとこだぜ
なあ?アンタもそう思うだろ?」
リュウレイ「……そうですね、調度品には苦労しています」
ボールディ「お互いデカ過ぎると大変だぜ、がっはっは」
真面目な話の前に、くだけた態度で、会談の潤滑化を狙っているのだろうか?
とはいえ、デカい、デカいと言われる度に、リュウレイは少々むっとしてしまう。
リュウレイ「……ええ
ところで、早々で申し訳ありませんが」
口火を切った態度に、街のおっちゃん的な姿勢が、ギルドの名士らしい在り方へと動いた。
座り直しつつ、真っ直ぐにやや高い目線を見据えてくるボールディに、リュウレイも話を聴くべく身構えるのみ。
ボールディ「ぶっちゃけた話、元凶らしきのを直接見た奴で
生きてるもんはいない。
俺も甥も、”肝いり”勇者様も
子爵様の大事な娘さんだって…既に聞いている通りだ。
遺体の確認なんざはまだだが、遠見の水晶球もここ数日は映像が”溶けかかってる”以上
司教様んトコのボンは、腐敗が進行しているんだろう」
ソコまでは、映像越しに把握した教会の見解も、リュウレイの得た情報においても、大きく違えるところは無い。
ボールディ「んで、だ。【A Ast】の―勇者様御一行が行く前
他のPTの連中だが…
”レイスを見た”っつってた連中も、ここ数日で行方不明と不審死を遂げている。
ギルドとしても箝口令を敷いていてな。
教会にもどう報告したモノかと悩んでいた時に
お前さんの協力が伝えられたってワケだ」
リュウレイ「コノコトは教会には?」
ボールディ「言っても構わねえぜ。
伝令の人員を選ぶのに手間取っちまってた
ソレが理由なんだが…」
狭い来客用ソファを軋ませつつ寄りかかり、堅苦しそうに首を解し始めたボールディ。
ボールディ「機密を任せられる連中はもう
”遺跡を調べちまった”」
後悔の交じる、苦々しい表情。
続くであろう言葉が予測できるだけに、リュウレイも黙って拝聴するしか無い。
ボールディ「アサシンギルドとの兼ね合いもある…
多くは明かせないが、奴らもまあ…”ダメだったんだ”。
功名心に焦る連中も、随分と居たみたいでな。
調査に向かった先で、そいつらが叫ぶのが聞こえたそうだ。
”多分”、最奥に辿り着く前にでも転がっちまってるんだろうが…
覗きに行った奴は帰って来やしねえし、
戻ってきたのも次々にオカシクなっちまったんだ。
首を自分でこう…掻っ捌いたヤツも出た」
リュウレイ「ノロイ…でしょうか」
リュウレイの呟きにボールディが肩を竦めた。
ボールディ「かもしれねえが、レイスの呪いにしちゃ
明らかに過剰だ」
リュウレイ「いえ、そうではなく…ええと、カース。でしたか
教会の示すところの、毒を受けた状態の様な解りやすい感じではなく
【呪詛】…と言う、東方には時折見られる
少々陰湿で、唐突な類いのモノになります。」
ボールディ「ジュソ?んなモンが東にゃあんのか?
おっかねえ噺だぜ。つまりアンタはその、ジュソ専門の力ってヤツで
名を上げてきたってとこかい?」
ボールディの言葉に、リュウレイが鞘を掲げる。
リュウレイ「除霊の斬、浄霊の太刀。相手によって使い分ける場合もありますが
天に送るも、自然の理に還すも、霊力をこの【刀】に籠めて…
こちらのゴーストや、レイスに至るまで
貴方達が主に相対して来たであろうモノとは、毛色の異なる化生の存在を
討伐、調伏せんが為の力…
幸いにして、西方では強力な手立てと成り得ている様子で
”それなり”の成果を上げております」
ボールディ「Sランクが”それなり”たぁ気前が良いな!
するってえとナニか?似たような事件ももう」
リュウレイ「僅かながら」
こいつは頼もしい。
ボールディは言葉と態度で褒め称え、リュウレイに大きな権限を与えるべく、自身の秘書を呼びつけた。
ギルドが保証する立場と、兵站や資材の融通。
教会の依頼とは別に、治安維持を担うギルドとしても、Sランク侍への支援は必須と化す状況下。
ボールディ「さて、と…今日はもう遅い
戻って来た連中を”調べる”にも、時間が要るだろうからな。
朝までには報告を纏めておくから
少し休んでくれ」
リュウレイ「協力に感謝します」
再度の握手と共に、リュウレイは執務室を退室して行く。
夕食は、香草仕立ての豚肉と生野菜。
タマゴを溶かしたムースソースに、少々硬めな保存に優れたパン。
食堂では無く、部屋に持ち込ませて貰った食事を、遺体の損壊具合などを思い出しつつ済ませていく。
食事中に相応しくない、情報の精査も慣れたモノ。
栄養を経て、代謝に上がる体温。
群れた兜がテーブルに置かれ、錬金術のシャワールームで、湯浴みの音を響かせる。
寝床を訪れるモノは居ない。
闇に浮かんだ瞳だけが、真っ暗な天井を眺め、鑑みられた現状。
リュウレイ(噺を聞くだけで…現れる類いでは無さそうだ)
長旅の後、ゆっくり眠れる事には、感謝を禁じ得ない。
翌朝。
「バランさんの使いで参りました」
リュウレイ「ああ、少し待っておいてもらえますか
支度がありますので」
ギルドの受付嬢だろうか?
聞き覚えの有る声に応えつつ、身支度を調えるべくベッドを離れて行く影。
扉越しには鎧を纏う音が聞こえており、物事に当たるカウントダウンかの如く。
リュウレイ「お待たせ致しました」
「すみません、移動しながら簡潔にお話ししても?」
リュウレイ「構いません」
掻い摘まんで話される、昨晩から早朝に掛けて。
新たな犠牲者の状況は、男性の遺体が3つに、おかしくなってしまった女性が2人。
ボールディ「…悪いな、朝っぱらから来させちまって
見ての通りだ。
男衆は全員、もう死んでる。」
ボールディの言うとおり、ここ死体置き場では凄惨な断片が並んでいる。
仮面越しの呻きも、リュウレイが心情の吐露だと解るが、ギルドの担当者としては”説明責任”を続けなければならない。
ボールディ「女達も医者がかかりっきりで…なんつうか
ずっと…許しを請うてやがる。ってトコか
謝るは怯えるわで、まるで手が付けられやしねえ」
大きな溜息を吐きながら、ボールディは頭部を掻き撫でるばかり。
リュウレイ「…アデライン嬢の様には、まだ」
ボールディ「ああ、ソレも有ってか、腹ぁ掻っ捌かない様
女の方はどっちも拘束済だ」
リュウレイの懸念も、医者達はそれなりの対応を済ませてくれていた様だ。
呪われての自死を鑑みれば、施されるのは当然の緊急処置。
ボールディ「つってもよお、自殺を促す呪いなんて
伝え聞く様な魔神様クラスとかなんじゃねえのかよ?
東のレイスもどきたあ、そんなにヤベえのか?」
通常のレイスでは、文字通り毒素が如き変容ばかりである。
皮膚が爛れ、変色し、毛が抜け落ちてしまおうと、解呪すれば大抵は回復を試みられるのだ。
取り返しのつかないレベルや、発狂を通り越しての洗脳を伴い、自死を伴うレベルにはほど遠い。
死体操作も可能という観点なら、ネクロマンサー以上では無いか?
ボールディの怖々とした感想を聞きながらも、リュウレイは一つだけ訂正に及ぶ。
リュウレイ「【怨霊】…著しく不味い相手は、ソウ、呼ばれています
他にも【呪霊】とか【悪霊】とか、系統別に分類はしていましたが
特に強力な力を有す場合は、斯様な呼び名で扱われています」
ボールディ「オンリョウねえ…」
リュウレイ「怨みの霊…我々の文化圏では、ソウいった意味の字で記されている
危険な相手です。」
ボールディ「恨みそのものの象徴ってか、うへえ」
相変わらず、調査班のもう一人も戻ってくる気配が無い。
名を上げたいだけで先走ったPTも、到底無事とは思えないだろう。
ボールディ「教会の加護も、エンチャントも効かない
Aランクの攻撃も効かなきゃ
転移魔法も無しに短距離を避け放題。
ったく、【チートスキル】だらけじゃあねえか」
リュウレイ「……」
天を仰いだボールディの呻き。
ギルドの人員ではリュウレイの支援に回せそうな実力者も無く、加護が効かないのでは重装騎兵にも、防衛が難しい相手。
リュウレイ「今回も…私一人で行くべきでしょうね」
ボールディ「 ーっと、流石にソイツは!」
呆気にとられ、声が出せなくなる以前に、思考すら一瞬止まってしまっていたボールディ。
ギルドの重鎮、名士になるほどのタンク役、長には成れていないまでも、街の平和を人任せにして、貢献すらできないでは男が廃ろうというモノ。
そんな彼に対し、リュウレイが厳かに首を振るえば、鎧の後頭部から垂れ下がり、たゆたう長い房状のクレスト。
リュウレイ「単独行も慣れていますから
気になさらないでください。
ソレに、怨霊への対応が不十分なままでは
同行する方を庇うコトも叶いません」
足手まとい。
言葉を選んで貰ったコトも自覚し、一層に悔しがっては拳を握るボールディ。
ボールディ「すまねぇ…マジですまねぇ…
この礼は必ずさせてもらうからよ、
任せたぜ!旦那ぁ!!!」
絶叫めいた切実。
リュウレイはクレストの毛束の様に、一瞬硬直するも、静かに頷いてはモルグを跡にする。
背後には凄惨、命無き肉の塊。
腐臭漂う部屋を出て、昇る階段の足音。
夕暮れ時。
受付嬢や、Bランク冒険者達にも心配されながら、目指すは遺跡ダンジョン―では、ない。
余人に対し、対抗手段の”アテ”は有る―と、答えて臨んだ荒涼たる草原。
周囲には大きめの岩塊が並び、遠目に見る深緑の木々が間には、人々の気配は無い。
リュウレイ「ココなら…大丈夫でしょうか」
探るのはリュウレイの懐。
指先には、小さな箱状に重なる、赤いミニチュアが纏まり。
傍目に立方体の容積分に収っている様にも見えるソレは、小さな社に用いるのにも極小が過ぎる、デフォルメ縮小済の二連鳥居である。
リュウレイ「【重ね鳥居】よ…路を。」
呟きと共にしゃがみ込み、大地に差したおもちゃの如き鳥居。
到底リュウレイの巨体では潜れぬ隙間、ゆらりと灯る微かで厳かな、【闇】。
ぞわ
風が舞う。
黒いもやが、くねくねと、地の底より出でて踊る。
”ソレ”は流れに乗り、音すらも巻き込み、周囲の静寂を呼んでは光すら裏返す。
反転した色の世界。
一瞬のモノトーン。
異質の影を螺子と捻る様に吸い集め、龍蛇が如く描いた螺旋と共に、世界が異常を取り除かれては、静粛なる元の彩りへと回帰する。
ソウシテ、ソソリタツ。
二本並んだ巨大な鳥居。
示されるのは、コノ先の”禍つ神域”。
リュウレイ「毎度毎度…黄泉路へとの歩みを思わせる」
緊張を解く様に、肩の力を抜いて行くリュウレイ。
鎧に覆われた足が重いのは、慣れた質量が原因などでは断じてない。
ずぷんっ
沼に身を委ねる様な感覚。
西洋然とした世界の、神聖も魔法も通用しない相手。
寄る辺は同質か、ソレ以上ナ怪異カ。
旧き、八百万。
音が聞こえる。
鈴の音。
笛の音。
鼓の音。
祝詞だろうか?
風が経文を唱えるかの様な、低い呻きにも例えられる旋律。
ソコは、異質なる大鳥居に囲まれた、クライモリの中枢。
荒涼と呼ぶには気配に溢れ、なれどヒトガタなぞまるで見えない、渦巻く灰雲の中心地。
リュウレイ「いつ来ても、禍々しい…」
ソコに佇んでいたのは、こじんまりとした和洋折衷。
魔女の家とでも呼ぶべきシルエットを、日本家屋や寺社仏閣の建築様式が、ステンドグラスの如く継ぎ接ぎに形成する異様さ。
背筋にクる寒気。
居るのが味方だと理解はしているが、認めたくはならない。
リュウレイ「居ますね?」
言い終わる頃には、巨大な身体は建物の中。
外見よりは圧倒的に高い天井。
入口を潜る前と後とで、出入り口の大きさも変貌している。
リュウレイ「…イツモノ気配は在る」
ディーネ「ハァイ、リューレー♪」
近い。
あまりにも近過ぎる。
Sランク侍の気配察知を上回る、”いつのまにか”の接触。
おまけに―。
リュウレイ「離れろください……と、いつも言っていますよね
湯浴みは小まめに」
―臭い。
リュウレイはコノ、どうしても嗅ぎ慣れない臭いが我慢ならなかった。
ついつい乱れた口調を戒めつつも、自身の探知能力を容易に掻い潜る相手に、怯んでしまわぬ様視線を合わせる。
先程まで頬に触れそうだった距離を離すべく、身を引く様に足を運んだ旋回。
だが、相手のニヤついた顔はグイと迫り、にんまりと口元を歪めるばかり。
リュウレイ「ディゾルディーネ…さん」
ディーネ「ディーネちゃん」
リュウレイ「…」
ディーネ「ディーネちゃん」
一言の度に、近付いてくる眼差し。
リュウレイと同じ目線の高さ。
思わず背けてしまう度に、負けた気がするのも腹立たしい。
リュウレイ「ディーネ…さん」
ディーネ「ディー姐?」
リュウレイ「勘弁していただけませんか…っ」
ディーネ「だぁめ♡」
ディーネの手が、リュウレイの顔を覆い、強引に振り向かせていた。
逃げる様に彷徨う視線。
確認できるのは、紺に近い青紫と、小豆より淡い赤紫の差し色。
乱れた長めの黒髪に、片目が隠れがちなヘアスタイル。
一目に解る、【魔女】。
リュウレイ「ディーネ、ちゃん…さん」
ディーネ「ん~、きゅーDIEてぇん♪アッハハッハッ」
【カヲスの魔女】。
遙かな昔からソノ名を残す、神出鬼没な伝説の魔女、【ディゾルディーネ=ビェスパリャドク】。
彼女は歴史、伝承、吟遊に寝物語と、都市伝説の類いにも扱われる、超常なる魔導が存在であった。
ソノ長命ぶりは当然ただの人間などではなく、太古の時代に生きたハイエルフとドワーフの希有なるハーフに、コレまた希少な組み合わせとなるダークエルフとオーガのハーフを両親に、永い悠久を過ごしたクォーター。
故に、凄まじき魔術に長けているのみならず、オーガ並の身長と筋肉に、エルフ並みの引き締まった体付きと魔力、ドワーフが如く豊満な部位と技術力すら併せ持つ。
当人曰く、昔は引きこもりでイキオクレの、拗れ乙女であったと言うが、リュウレイと出会う頃にはもう、品位はドブに捨てたと憚らない。
リュウレイ「……”覗いていた”と思いますが」
ディーネ「あらぁ?あらあらあらぁ?イキナリ本題先走っちゃうのぉ?
”純粋”なのにぃ・・・意外とダイターン♪」
リュウレイ「…事は急を要します。
犠牲が増えてからでは
リュウレイの鎧越しに、唇を抑えたかの様な指先。
ディーネ「あの娘たちならぁ・・・ダイジョウブぅ」
更に近付く顔。
口元から薫る、眉を顰める臭い。
リュウレイ「っ…いつもいつも
何を食べたら、ソンナ…」
ディーネ「ナニかなあ?・・・ウフフフフフフフ♡」
自身の両頬を抑えて、ベリーダンスめいた腰の動きで舞う様にふらつきながら、外観よりずっと広大な室内を、遊び戯れる様に小躍りし続けるディゾルディーネ。
彼女の視線はちらちらと上の階を盗み見ており、ソノ度に悪戯っぽくリュウレイを盗み見る仕草が、どうにも侍の心構えに、トゲを穿つ様な刺激となってしまう。
ナニやら、イヤらしい。
リュウレイ「……臭いはともかくとして
貴女がソウ言われるのでしたら、大丈夫なのでしょう。
ですが、【遠見の水晶球】、各地のソレは覗いているのでしょう?」
複数存在する、同一の【レガリア】。
ソレ等は量産品などでは無く、ただ一つの親機を称える子機でしかない。
リュウレイの見据えた先には、ディーネの保有する”本体”。
ディーネ「あらあらぁ?自分の近況を見て貰ってるて言うのぉ~?
自意識過剰かなぁ・・・・・・だが正解!」
ディーネはクルっと廻り、遊ぶ髪を頭頂から左手に抑えつつ、キリッとした顔で右手の人差し指を向けた。
リュウレイは指差された状態で、大きく溜息を吐いては、一歩遅れてうつむく。
相手が事情を全て、盗み見ていたと言うのなら、大いに話が早い。
リュウレイ「でしたら…また、【怨霊】の類いかと。
ですので、”イツモノヤツ”。いただいても構いませんか?」
ディーネ「もろちぃ~ん、アナタにはいっつもいっつも
【アレストダレスの書】
探し回って貰ってるモンねぇ~♪」
リュウレイの仕事に対する、快い協力。
対価としてディゾルディーネが求めているのは、各地に散らばるという太古の魔導書、【アレストダレスの書】が紙片。
Sランク冒険者として各地を廻り、強敵に難儀する度に、カヲスの魔女が力を借り受ける代償は、当て所ない捜索の旅路が理由付けとなっている。
リュウレイ「申し訳ありませんが…此度はまだ、新しい情報もナニも」
ディーネ「イ~おぉぉ、ね?リュ・ウ・レ・イ・ちゃんっ♡
ワタシとぉ、アナタのぉ・・・ナカ、なんダシぃぃ~」
舌足らずで”わざとらしい呼ばれ方”にも、頗る嵩んでしまう苛立ち。
だが返礼をツケにして貰っている様な、ヒモ紛いでの頼り切りなのだ。
後でナニを求められるかも解ったモノではないが、背に腹は代えられない。
斯様な立場では、強く出るコトなど到底叶わないのだろう。
リュウレイ(命を救われた過去が、高くつく遭遇だったとは思いたくはないですが)
出会いの時も、ソレ以降も、ディゾルディーネのおかげで潜り抜けられた死線は、既に指の数だけでは足りないのだ。
カリが多い以上、カヲスの魔女が求める程の禍々しい魔導書だとしても、捜すのも放り出すわけにはイカナイ。
リュウレイ(…律儀と笑われても、侍としての矜持は
私が投げ出す事を赦してくれそうにも無い。
だがもし、ディゾルディーネ殿が、世を乱すつもりならば…)
含みを持つのは己だけでは無いのだろう。
叶わぬ可能性の方が大きな覚悟に、虚しさを禁じ得ずとも、時間は過ぎ去ってしまう。
時計の針が進む様に、階段を上がってイク、ディーネ。
上の階との間には、”目的のモノ”が備蓄サレているのだ。
霊媒師をサブ職とした、侍でも生存確率の低い相手。
確実に依頼を熟すには、一時的なドーピングさえも、忌避してなど居られない。
もわ
鼻っ柱が歪まされてしまう。
収納箇所の戸が、無造作に開かれた様だ。
甘ったるく、饐えた香りが、重力に添って降りてクる。
記憶どころか魂にさえ、こびり”憑く”オゾマシサ。
ディーネ「ハイ♡もーいっぽんイッとくぅ~?」
リュウレイ「…ぃゃ、”一つ”で十分だ」
小瓶に”納められた”、白く濁った液体。
教会から見れば、エクトプラズムとも評せそうな、本能的に嫌悪感が呼び起こされてしまう、無造作な小瓶の中身。
微かに甘く、ほろ苦い、忘れられない喉に絡む物体。
正体を知りたい気持ちと、知りたくない気持ちとが、同時に渦巻いては止められないでいる。
リュウレイ「…すみません
では、行ってきます」
受け取ってしまった後は、沈痛な面持ちとなるばかり。
ディーネ「堅ぁ~いぃ~
アナタはもっと、もぉーっと
柔らかい方がぁ・・・好き、よぉぉ、お゛?」
目を見開いて、急にカクンと傾けた首。
好意的な言葉と相まって、不気味なコト極まりない。
リュウレイ「性分です…ソレと
また……近い」
ディーネ「つぅれぇなぁイィィィィヒヒィッ♪」
接近を拒めば、急な金切り声。
ある意味では、”レイスもどき”さえ、霞んでしまいそうなオカルト。
”逢魔ヶ時のカクリヨ”は、イツまでも慣れそうにない。
リュウレイ「今日も…還って来られました、ね」
・・・1-3へ、続く
ほいブシロード+KADOKAWAに、ボンボンを感じるからこそ突貫工事
未完でイイなら始めちまえと、大勝は遠くもレッツラチャレンジ
考えるな、書いてみろ
気概を持ってどうにかの第二話、一章第二節
いやあ、普段から音を意識してたから、此度のホラーも出会い頭に参加できました(゜∀。)偶然サイッコー
| ˙꒳˙)ノ他所でも活動してるので、名前でググってヨロシク幽鬼




