第54話 『暗躍』
「オラッ! さっさと開けろ!」
デクスターは苛立ちながら鉄の扉を蹴りつける。
ナサニエルが籠城している地下室を前に山賊たちは苛立っていた。
ナサニエルはいくら脅しても宥めすかしても一向に扉を開けようとはしない。
いくら周囲を取り囲んでいるとはいえ、これでは埒が明かなかった。
無為に時間ばかりが過ぎ去っていく。
大柄なデクスターだが、さすがに鉄の扉は蹴破れない。
彼は背後に控える部下たちに怒声を浴びせた。
「おい! ボサッと見てねえで扉を破るのに何か持ってこい! デカくて硬いモンだ!」
「ヘ、ヘい!」
山賊たちは慌てて周囲の家屋に何か役に立つものが無いか探しにいくのだった。
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「くそっ……あの貴族野郎。さっさと出てこねえから、俺らがお頭に八つ当たりされちまうじゃねえか」
山賊の男は1人ブツブツと不満を口にしながら薄暗い家屋の中を探し回る。
頭目のデクスターから命じられ、鉄の扉を破るのに使う破城槌の代わりになるような物を見つけなければならない。
地下世界のため闇に包まれており、通りこそ篝火が焚かれていて明るいが、一歩建物の中に入ると暗く、松明や角灯が手放せなかった。
片手に明かりを持ちながら、限られた視界の中をもう一方の手で探し物をして回るのは骨の折れる作業だ。
山賊は思わずため息交じりに言う。
「まったく……お頭も人使いが荒いよな」
「苦労してるんだな」
突然のその声に山賊は驚いて松明を手に振り返る。
誰もいないはずのそこには……赤毛の女が立っていた。
そして山賊は声を出す間もなく、その女に首を刃物で突き刺されて死んだ。
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「こんな穴倉で一晩過ごすのか? 手持ちの食糧だけじゃ足りねえだろ」
「文句言うなよ。お頭やアドルフの兄貴に殺されるぞ」
山賊たちは薄暗い家屋の中で角灯を手にあれこれと探し物をしているが、これといったものは見つからない。
木箱などは置かれているが、どれもこれも腐食していて脆く、とても鉄の扉を破るのには使えそうもなかった。
それでも何かを見つけて戻らなければデクスターにどやされ殴られるだろう。
山賊らはその理不尽さに不満を抱きつつ、それでもそれぞれ手分けをして探し物を続けた。
「おい。何かあったか?」
そう言って山賊が振り返ると、つい今しがたまでそこで探し物をしていた仲間が首から血を流して倒れていた。
山賊は驚いて目を剥く。
「お、おい! どうし……」
そう言った山賊の首に真後ろから何者かの腕が巻き付く。
そして強烈な力で締め上げられた。
山賊は息が出来なくなり、その苦しさに暴れようとする。
しかしその腕力は信じられないほど強く、喉が押しつぶされた。
急速に意識が遠くなる中で、山賊は女の声を聞いた。
「こんな場所まで踏み込んできたのが、てめえらの運の尽きだ」
山賊がその生涯で最後に聞いたのは、自分の首の骨がへし折れる無残な音だった。
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「お頭! 見つけやしたぜ! こんなもんでどうですか」
そう言って部下たちが数人がかりで抱えてきたのは、1本の鉄柱だった。
すっかり錆び付いて赤黒くなっているものの、その太さは直径30センチほどあり、長さも3メートル近くはあるものだった。
「どうも門の支柱に使われているみたいでしたが、根本が錆び付いてへし折れたみてえで、地面に転がっていやした」
「よし。いいぞ。そいつで扉をぶち破れ」
デクスターの命令に従い、山賊たちは数人がかりで鉄柱を抱えて鉄の扉に勢いよく突撃していく。
その様子を見ながらデクスターはふと後ろを振り返り、それから眉をひそめて側近の男に尋ねる。
「おい。他の連中はやけに戻りが遅いな」
「確かに……呼び戻しに行きますか?」
「まあいい。念のためこの周囲の包囲は怠るなよ。どこか抜け道があって、そこから逃げ出すかもしれん」
側近にそう命じると、デクスターは部下たちが轟然と鉄柱を鉄の扉に打ち付ける様子を見守るのだった。
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「あ~あ。アドルフの兄貴は今頃あの赤毛女で楽しんでんのかな。まったくうらやましいぜ」
「まったくだ。俺たちにも回してほしいぜ」
ナサニエルの籠城している倉庫はかなり大型の建物であり、そこをグルリと囲むように見張っている山賊は総勢15名。
そのうち一番裏手にいる2人は飽き飽きした顔で見張りを続けている。
ナサニエルが中から出て来る気配はない。
そもそもこの倉庫には裏口の出口などはないのだ。
出てくるはずもない。
見張りなどど言っても、ただ突っ立っているだけの退屈な任務だ。
「この任務が終わったら街に女でも買いに行くか。なあ?」
そう言って仲間の顔を見た山賊は絶句した。
仲間の頭には矢が突き立っており、その仲間は目を見開いたまま倒れて動かなくなる。
「ひっ……」
そしてその山賊も悲鳴を上げることは出来なかった。
声を発する前に喉を矢で貫かれ、息も出来ずに絶命したからだ。
一定間隔で倉庫を取り囲んでいる山賊たちは、すでにその大半が矢に貫かれて物言わぬ骸と化していたのだった。
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「武器になりそうなものは……これくらいか」
ナサニエルが地下室の中でやっと見つけたのは、パン生地をこねるためのめん棒だった。
他にあるのは布や紙の製品ばかりであり、とても武器になりそうな物は見つけられなかったのだ。
まったく頼りないが何もないよりはマシだ。
そう思ってナサニエルがめん棒を手にレギンの元に戻ろうとしたその時だった。
今まで聞いたことがないほどのけたたましい音が地下室内に響き渡った。
それは閂をかけた鉄の扉に何か巨大な物質をぶつけている音だとすぐに気付き、ナサニエルは青ざめて駆け出した。
そしてレギンのいる場所に戻ると、鉄の扉の真ん中が大きく凹んでいるのが見える。
外からは山賊たちの声が響いてきた。
「せぇぇの!」
その掛け声に合わせてドンドンと衝撃が扉を襲うたびに、扉の凹みが大きくなっていく。
ナサニエルは思わず恐慌状態に陥った。
それでも彼は震える手でめん棒を握りしめ、レギンを守るように立つ。
そんなナサニエルの足首をレギンは軽く掴んだ。
ナサニエルは驚いて振り返る。
レギンはすでに意識が遠くなっているようで、目を閉じて浅い息を繰り返していた。
それでもレギンは弱々しい力でナサニエルの足首を掴んでいるのだ。
まるで最後まで共にいるというように。
「先生……」
ナサニエルは思わず涙が込み上げてくるのを懸命に堪える。
その時だった。
ドォンとひときわ強い衝撃が鉄の扉に加わり、鉄の閂がひしゃげて外れ、乾いた音を立てて床に落ちた。
そして……鉄の扉がゆっくりと内側に倒れる。
その向こう側から、その顔に薄笑みを浮かべたデクスターが姿を現した。
「よう。ナサニエル。会いたかったぜ。俺のかわい子ちゃんになる覚悟は出来たか?」
そう言うとデクスターはその目に卑しい光を湛えて、ナサニエルをじっと見つめるのだった。




