表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/61

第48話 『赤い稲妻』

「死ぬなよ。ナサ。じいさん」


 ナサニエルが立ち去って行くのを見送るとネルはそうつぶやいて立ち上がる。

 体に力がき上がってくるのを感じた。

 あの2人がそばにいたのでは戦いの足枷あしかせにしかならない。

 1人で身軽に戦うほうがネルの性根に合っているのだ。


 ネルは矢筒の中を見て残り本数を確かめる。

 木の矢が23本、鉄の矢は14本だ。

 敵の数に対しては足りないだろう。


 だがそんなことは問題にもならなかった。

 ネルは鉄の矢を全て自分の矢筒に移し替えると、弓を肩当ての固定金具に固定する。

 抜き放つのはなただ。

 ネルはそのなたの刃をじっと見つめる。


「どうせ山賊さんぞくどもはアタシをとっ捕まえて全員で順番に楽しもうとか考えてるんだろうさ。クズどもめ。思い知らせてやるぜ。狩る側にいるのはこのアタシだってな」


 そう言うネルの目が明らかに変わった。

 鋭い殺意を帯びた戦士の目に。

 ネルは屋根から屋根へと駆け抜けると、山賊さんぞくが隠れているであろう家屋の裏の路地に平然と降り立った。

 そこには2人の山賊さんぞくが身を隠している。

 突然現れたネルに山賊さんぞくたちは仰天して目をいた。


「なっ…‥」

「こ、この女!」

「コソコソ隠れてねえで向かってこいや」


 そう言うとネルはなたを横一閃し、1人の山賊さんぞくの首を切り裂いた。


「ぎゃあっ!」


 もう1人の山賊さんぞくあわてて手斧ておのを振り上げるが、ネルは足を高く上げる上段蹴りで山賊さんぞくの手首をりつけた。


「あうっ!」


 山賊さんぞくの手から手斧ておのが吹っ飛び、真上に舞った。

 ネルは持ち前の身軽さで跳躍ちょうやくしてその手斧ておのつかみ取ると、そのままそれを山賊さんぞくの脳天に叩きつける。

 手斧ておの山賊さんぞくの頭に深々と突き刺さり、山賊さんぞくは白眼をいて大の字に倒れた。

 ネルは倒れた2人の山賊さんぞくの遺体を見下ろし冷たく言い放つ。


「大したことねえ連中だぜ。遊びにもならねえ」


 そんなネルの後方十数メートルのところでは3人ほどの山賊さんぞくがネルを発見して声を上げる。


「いたぞ! 女はこっちだ!」


 ネルは目にも留まらぬ速度で弓に矢をつがえるとそれを放った。

 矢は高速で飛び、声を上げて仲間を呼んだ山賊さんぞくの右目から後頭部を貫く。

 もちろん即死だ。

 それを見た他の2人はあわてて転がるように物陰に身を隠す。

 ネルは再び弓を肩当てに固定するとなたを抜き放ち、ゆっくりと前方へ歩いた。


「隠れんぼか? 童心に返って遊びたい年頃なのか。おまえら。いいぜ。遊んでやるよ」


 そう言うとネルはなたを手に悠然ゆうぜんと街路を進んでいく。


「もう~いいか~い。まあだだよ~」


 おどけたようにそう言うネルに路地の物陰ものかげから飛び出してきた山賊さんぞくが襲い掛かった。

 山賊さんぞくは恐怖に顔を引きつらせながら、短槍でネルに突きかかる。


「うわあああああっ!」

「見~つけた」


 ネルはヒラリと短槍をかわし、そのままなた山賊さんぞくの首を斬りつける。

 首から血を噴き出しながらくずれ落ちた山賊さんぞくの体を踏み越えて、ネルはさらに前に進む。

 

「もう~いいか~い」


 やはり物陰ものかげに隠れていたもう1人の山賊さんぞくは恐怖に耐え切れず、路地に飛び出すと背を向けて逃げ出した。


「ひいいっ!」

「もういいよ!」


 そう言うとネルは弓に矢をつがえて放つ。

 矢は寸分(たが)わず男の首を後ろから貫いた。

 男は前のめりに倒れて絶命する。

 ネルは弓を肩当てに固定すると、山賊さんぞくの1人が持っていた短槍を拾い上げた。

 そしてかつて槍を得意としていた友がいたことを思い返す。

 

「久々に使ってみるか。あいつほど上手くはねえがな」


 そう言うネルの前方から5~6人の山賊さんぞくが押し寄せてきた。

 すでに息絶えた山賊さんぞくが先ほど呼び寄せた者たちだ。

 それを見るとネルは大きく息を吸い込み、短槍を構えた。


「本気で行くぜ」


 ネルは猛然と敵に突っ込む。

 数人の山賊さんぞくたちは剣や槍を突き出すが、ネルは直前でほとんど地面に胸を着けるほど身を低くしてそれらを避けると、下から敵を短槍で突き上げた。

 あごの下から後頭部までを貫かれて山賊さんぞくは悲鳴を上げる。


「あぎゃあっ!」


 そこからネルは右に左に飛んで敵を翻弄ほんろうしながら次々と血で染まった短槍の穂先を突き出し、ぎ払った。 

 縦横無尽に動き回るネルの動きを目で追い切れずに山賊さんぞくらは右往左往する。

 彼らの目に映るのは赤毛の残像だけだ。

 それはまるで赤い稲妻のようだった。


 返り血を浴びながらネルは次々と容赦ようしゃなく敵を殺し続ける。

 うわさ程度でしか知らなかったダニアの女戦士。

 どうせ物珍ものめずらしい女の戦士を大げさに持ち上げた、尾ひれの付いたうわさだろうと思っていた彼らは知った。

 ダニアの女戦士の真の恐ろしさを。

 そしてそれを思い知った時には、彼らは例外なく命を絶たれてむくろと化すのだ。


「くはっ……」


 6人目の山賊さんぞくが討ち取られ、すでに周囲には生きている者はいなかった。

 ネルは短槍をその場に放り捨てると、家屋の外壁近くに置かれた木箱を踏み台に再び屋根の上に上った。

 そして周囲に目をらす。

 高い場所から見ると、まだ街の篝火かがりびの中にうごめく人影が見えた。


「まだだ。まだ全然狩り足りねえぜ」


 そう言うとネルは次の獲物を求めて屋根から屋根へと素早く飛び移っていくのだった。


 ☆☆☆☆☆☆


「おかしら! 3人やられた!」

「6人も倒された!」


 数人の部下からそうした報告を受けたデクスターは苛立いらだって声を荒げた。


「くそっ! もう10人以上は殺されてるぞ! どうなってやがる! 何で女1人にこうまで手こずらされるんだ! ナサニエルはどこに消えた!」

「兄者……こいつらじゃ何人でかかっても役に立たねえ。無駄むだに死体を増やすだけだ。女には俺が直接当たる。女を見つけたら下手に手を出さず、誘導してくれ。俺が仕留める」

 

 弟の言葉にうなづくとデクスターは部下たちにそのむねを命じ、憎々しげに吐き捨てるのだった。


「女め……調子に乗っていられるのも今のうちだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ