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第45話 『小人族の仕掛け』

「ナサの奴、遅いな」


 小高い丘の上に建つ建物の屋根の上から景色をながめながらネルはナサニエルの帰還を待っていた。

 今、ネルのいる場所からは街の様子が一望出来る。

 その建物は立派なつくりであり、長い年月をても今なおくずれ去ることなく当時の面影おもかげを残していた。

 おそらくこの集落のおさ、あるいは有力者の家だったのだろう。


「どうせなら小人族がたくさん住んでいた頃の街を見たかったぜ」


 ネルはそんなことをつぶやきながらボーッと地下の街並みを見つめる。

 各所にかれた篝火かがりびがぼんやりと街の様子を照らし出しているのだった。


 ☆☆☆☆☆☆


「……ここだ」


 ナサニエルは岩壁の前で立ち止まると、そう言って背後を振り返った。

 そこにはなわしばり上げたレギンを人質に取った山賊さんぞくのアドルフの姿がある。

 レギンは手酷てひどく痛めつけられているため歩くのがやっとであり、口もけない状態だ。

 アドルフはニヤリとしながら手にした六角棒をナサニエルに投げてよこした。

 あわててそれを受け取るナサニエルにアドルフは冷然と告げる。


「それで今すぐ仕掛けとびらを開けろ。棒を差し込むあなの順番を俺に教えながらだ」


 ナサニエルは苦い表情でうなづく。


あなは……全部で6カ所ある。0時、2時、4時、6時、8時、10時だ」


 あなは壁面を時計の時刻に見立てた位置に穿うがたれていた。

 ナサニエルは六角棒をまずは2時のあなに差し入れる。


「まずは2時、次は8時、そして0時……」


 言葉通りの位置にナサニエルは六角棒をあなに差し込んで回す。

 この仕掛けとびらを開くためには6ケ所すべてのあなに1回ずつ六角棒を差し込んで回さなければならない。

 ナサニエルは粛々(しゅくしゅく)と手順を踏み、最後に6時のあなに六角棒を差し込んだ。


 そして六角棒を回し始めると、それまでただの岩壁だったその奥からガラガラと音が鳴り始めたのだ。

 そして上から下へと岩壁がしずみ始め、上方に隙間すきまができる。

 その様子にアドルフは嬉々として目を見開いた。


「お、おお……」


 いた隙間すきまから風が吹き込んでくる。

 さらに向こう側からは男たちのどよめきが聞こえてきた。

 デクスター山賊さんぞく団がそこにひかえているのだ。


 ナサニエルは青ざめ、アドルフはニヤリと笑みを浮かべる。

 だが、そこでナサニエルの手が止まった。

 すると岩壁の動きも止まる。


「あ、あれっ? またか……」


 そこからナサニエルがいくら力を込めても六角棒は回らない。

 アドルフは苛立いらだって声を荒げる。


「おい! 何をやっている! さっさとしろ!」


 レギンに刃を突き付けてそう言うアドルフにナサニエルは必死の表情で言った。


「な、何百年も前からある古い仕掛けだから、動きが悪くなっているんだ。こうなると油を差さないと僕の腕力では無理だよ。油を取りに行ってもいいかい?」


 そう言いながらナサニエルは必死に両手で六角棒を回そうとする。

 それを見たアドルフは舌打ちをしてレギンをその場に放り出した。

 開きかかった岩壁の向こうからはデクスターのそれとおぼしき声が響いてくる。


「おいアドルフ! 止まっちまったぞ! どうなってんだ?」

「兄者! 待っていてくれ! 今開ける!」


 そう言うとアドルフはナサニエルに近寄っていく。


「油だと? そう言って自分だけ逃げるつもりか? どけっ! 非力な雑魚ざこめ」


 そう言ってナサニエルを乱暴に押し退けると、アドルフはあなに差し込まれたままの六角棒をつかんだ。

 アドルフに押し退けられた格好のナサニエルはよろけるように数歩下がると、開きかかった岩壁の真横3メートルほどの岩壁に寄りかかる。

 そしてアドルフが自ら六角棒を回そうと力を込めるのを見ながら、ズボンの後ろポケットから後ろ手に何かを取り出した。


 それは……手のひらに乗る程度のひどく小ぶりな六角棒だった。

 それを手にしたナサニエルは、自分が寄りかかっている岩壁に空いているほんの小さなあなにその小型六角棒を差し込んだ。

 ナサニエルの脳裏のうりに浮かぶのは、まだ少年だった頃に師であるレギンから教わったこの地下道の秘密だった。


 ☆☆☆☆☆☆


「先生。その小さな六角棒は何に使うんですか?」


 13歳になったばかりのナサニエルはレギンにそうたずねた。

 レギンはいつも細いくさりの先端にくくり付けた小型の六角棒を胸に下げていた。

 レギンと知り合って5年ほどになるが、師がその小型六角棒を使っているところを一度も見たことのないナサニエルは、不思議ふしぎに思ってある日そうたずねたのだ。


「これか? これはな、いざという時に使うお守りじゃよ」

「……お守り?」


 首をかしげるナサニエルにレギンはいつものように快活に笑う。


「ハッハッハ。使い方を見せようか? 付いてこい」


 そう言うとレギンはナサニエルを仕掛けとびらのすぐ近くに連れていった。


「ほれ。ここを見てみろ」


 そう言ってレギンが指を差すのは、仕掛けとびらから3メートルほど真横にある岩壁だった。

 そこには仕掛けとびらと同様にあなが開いている。 

 しかしそのあなは仕掛けとびらのそれに対してかなり小さい。

 人の小指も入っていかないほどの小さいあなだ。


「先生。このあなは?」

「我らが祖先が作った、この街に不埒者ふらちものが入り込んできた時に備えたわなじゃよ」

わな?」


 不思議ふしぎそうにそうたずねるナサニエルにレギンはニヤリと笑うと、小型六角棒をクルクルと指で器用に回していく。

 

「ナサニエル。あそこを見るがいい」


 レギンの指差した先は、仕掛けとびらのすぐ前だった。

 そしてレギンが小型六角棒を回し終えてカチャッと音が鳴ると、仕掛けとびらのすぐ上から……それは落ちてきたのだった。

今回もお読みいただきまして、ありがとうございます。

次回、第46話『決死の逃走』は

7月14日(火)21時10分に掲載予定です。

次回もよろしくお願いいたします。

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