表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/61

第37話 『奮闘』

 あまりにも巨大な大トカゲに追われながら、ネルはナサニエルを先に走らせて自分はオオトカゲを食い止めるために立ち止まった。


「来いよ! コイツでズタズタにしてやるぜ!」


 そう言うとネルは向かってくるオオトカゲをじっと見据みすえる。 

 オオトカゲは3メートル、2メートルと一気に距離を詰め迫ってきた。

 正面衝突するかと思われたその瞬間、ネルは持ち前の跳躍ちょうやく力で高く飛ぶ。

 そして空中で身をひるがえしてオオトカゲの背中に乗ると、なたをその頭に思い切り振り下ろした。


 なたはオオトカゲの片方の眼球に食い込んでつぶす。

 オオトカゲは目から血を噴き出して暴れ狂った。

 ネルは素早くオオトカゲの上から降りると、なたの刃に付いた血とオオトカゲの体液を振り払う。


「来いよ! デカブツ!」


 そう叫ぶとネルはオオトカゲを挑発するようになたを振り上げた。

 するとオオトカゲはその鈍重どんじゅうそうな見た目とは裏腹に素早い動きを見せる。

 クルッと体を反転させると、その太い尾でネルを叩きにきたのだ。


「おっと!」


 ネルは飛び上がって尾をかわした。

 太い尾の鋭い一撃は、まともに浴びれば肋骨ろっこつくらいは簡単にへし折られそうな勢いだ。

 ネルは頭上から振り注ぐ光に照らされたオオトカゲの体を観察する。

 頭から尾にかけて体の背中側は、外敵からの攻撃に備えて黒くかたうろこおおわれている。

 その辺りをなたで攻撃しても致命傷ちめいしょうは与えられないだろう。


(攻撃するならもう片方の目か、あるいは腹側か)


 黒いうろこおおわれた背中側とは違い、地面に近い腹側は攻撃される恐れが少ないためか、白い柔らかめの皮でおおわれている。

 しかしオオトカゲをひっくり返さない限り、腹側を攻撃するのは難しい。

 ネルは周囲に目を配る。

 先ほどまでいた岩場と違い、辺りは平らな地面が延々と続いている。

 あの巨体をひっくり返すために利用できそうな段差はどこにもない。


「それなら両目をつぶしてやるぜ!」


 そう思って残されたもう片方のオオトカゲの目をねらうネルだが、片目をつぶされた痛みが徐々にオオトカゲをむしばみ始めたのだろう。

 オオトカゲは怒り狂ってバタバタと暴れ始める。

 その巨体がクルクルと回転するため、尾が旋回せんかいしながらネルに何度も向かってくる。

 ネルはたくみにそれを避けたが、暴れ狂うオオトカゲに近付くことも難しい。


「チッ。こうなりゃこいつが体力を減らしてバテるのを待つか……」


 ネルは数歩下がりながらチラリと視線をナサニエルが逃げて行った方角に向ける。

 ナサニエルはすでにつなのある場所に到達しており、今まさにつなを必死に上ろうとしていた。

 だが 少し上ったかと思うと、つなからズルズルと下に落ちている。

 その様子にネルはあきれて顔をしかめた。


「何やってんだアイツ。さっさと上れ」


 ネルは苛立いらだちながらナサニエルに向かって早く上がれと手で合図するが、ナサニエルは情けない顔で首を横に振った。

 どうやら両腕の筋肉疲労がまだ回復しきっていないらしく、つなを上る腕力が残っていないのだろう。

 ネルは思わず悪態をつく。


「くそっ! ひ弱なお坊ちゃんめ!」


 そうしてネルが気をらした瞬間だった。

 オオトカゲはネルに向かってくるのではなく、ナサニエルのいる方向へ猛然と走り出したのだ。

 ネルはあわててそれを追いかける。


「待ちやがれ! おまえの相手はアタシだぞ!」


 そう言ってオオトカゲを追うネルだが、オオトカゲはネルには目もくれず一心不乱にナサニエルに突進していく。

 その距離50メートルほどだ。

 手強てごわいネルよりも簡単に食べられそうなナサニエルを標的にしたのだろう。


 そう思ったネルは全力で走り、オオトカゲに襲いかかる。

 その走りを止めるべくなたで脚を攻撃した。

 だが脚もかたうろこで守られており、なおかつ高速で動いているためなたはじかれてしまう。

 ネルは苛立いらだちまぎれに前方のナサニエルに向けて声を張り上げた。


「くそっ! ナサァァァァ! さっさと上れ! 根性見せろ! コイツに食われるぞ!」


 ナサニエルは自分に迫ってくるオオトカゲの姿を見ると顔面蒼白となり、必死につなを上る。

 だが数メートルほど上ったところでそれ以上、上れずに止まってしまった。

 腕力がもう限界なのだろう。


 落ちないようにつなにしがみついているのが精一杯な様子だ。

 オオトカゲはそんなナサニエルを食おうと下から首を伸ばす。

 ナサニエルが悲鳴を上げた。


「ひぃぃぃぃっ! ネル! 助けてネル!」

「うるせえ! ひいひいわめいてねえで、死ぬ気でつなつかまってろ!」


 ネルはナサニエルの情けない様子に憤然ふんぜんと声を荒げ、オオトカゲの背後から側面に回り込もうとする。

 オオトカゲはナサニエルを食おうとして上半身を上げているので、腹側が見えるのだ。

 攻撃の好機だった。

 しかしオオトカゲは首を伸ばしてナサニエルをねらいながらも、尾を左右に振ってネルを近付けさせないようにしていた。

 さらにオオトカゲはナサニエルがつかまっているつなを口でくわえると、それをブンブンと振るってナサニエルを振り落とそうとする。


「うおああああっ! や、やめっ……やめてぇえぇぇえ!」


 ナサニエルはほとんど泣き叫びながら死に物狂いでつなを握ってこれに耐えた。

 

「チッ。このトカゲ。なかなか賢いじゃねえか!」


 ネルはそう吐き捨てると、思い切り跳躍ちょうやくしてオオトカゲの尾をかわし、そのまま巨体の背に乗った。

 そしてそこを足場にオオトカゲの頭をねらまして再びなたを振り下ろす。


「食らいやがれ!」


 オオトカゲの残っているもう片方の目をねらったその一撃は見事に命中し、右目に続いて左目をもつぶした。

 血と体液が飛び散り、オオトカゲが苦しみながら暴れ始めた。

 その勢いでネルは空中へ投げ出される。


「うおっ!」


 ネルは空中で咄嗟とっさに体勢を整え、何とか着地する。

 しかしそんなネルの頭上に黒い影が落ちた。

 両目をつぶされたオオトカゲが怒りにうなり声を上げてネルにのしかかろうとしてくる。


「上等だ! この野郎!」


 ネルは頭上からおおいかぶさってくるオオトカゲの首を目掛けて渾身こんしんの力でなたを一閃させる。 

 しかしオオトカゲが前脚をひるがえしたことで、運の悪いことになたはオオトカゲのつめはじかれて遠くへ飛ばされてしまった。

 

「し、しまっ……」


 両目をつぶされたオオトカゲだが、嗅覚きゅうかくで正確にネルの位置を把握はあくしているようだ。

 なたを失ったネルは手持ちの武器の中で最後の一振りとなる小刀を取り出そうとしたが、それよりも先にオオトカゲに押し倒されてしまう。

 生臭なまぐささが鼻を突いた。

 オオトカゲはネルの腹を前脚で押さえて固定すると、彼女の首を目掛けて牙をくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ