表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/61

第25話 『弓弦』

 ナサニエルが製作した特殊樹脂(じゅし)で作った弓弦ゆんづるを使い、ネルは鉄の矢を谷間の向こう岸まで届かせることが出来た。

 しかしそのねらいはネルの腕をもってしても安定しない。

 強力な弾力性によって飛距離は増したが、その代償として矢のねらいが大きくブレてしまうのだ。

 向こう岸に届いたことでひとまず第一関門は突破したが、ネルの意識は次の段階に向いている。


(後はここからの調整だな)


 先ほどの一射は杭をねらっての射撃だった。

 それにも関わらずねらいは大きく後方に外れた。

 ネルの腕ならば考えられないことだ。

 そんなネルが第一射目を放った後に注目したのは矢の行方ゆくえではなく、弓弦ゆんづるの震え方だった。


(かなり射撃後のブレがひどいな。まるで暴れ馬だ)


 ネルはすぐに第二射目となる矢をつがえるとそばひかえるナサニエルに声をかけた。


「ナサ。次行くぞ。準備しろ」


 ネルの言葉にうなづき、ナサニエルは手袋てぶくろをはめた手でなわの近くにしゃがみ込んでひかえた。

 そこからネルは一射ずつねらいを修正しながら撃つ。

 だが、ナサニエルの作った弓弦ゆんづるは同じように引いても微妙に誤差が出るのだ。

 それが80メートルという長い距離になると大きな差となって表れる。


 矢は杭の近くには到達するものの、10本撃っても杭にかすりもしなかった。

 それでもネルはあせらない。

 ナサニエルがなわを引いて矢を引き戻す間に、指でつるを確かめながら次のねらいを頭の中で想像する。

 そしてそこからさらに5本撃ったところで一度射撃を止めた。


「ネル? 休憩にする?」

「まだそんなに疲れてねえよ。アタシはな。けどこいつは疲れちまったみてえだ」


 そう言うとネルは特殊樹脂(じゅし)つるを弓から取り外し、たるみを調整してもう一度張り直す。

 そしてある懸念けねんを口にした。


「ナサ。このつる、予備はあるのか?」

「あるよ。あと2本くらいかな」

「それだと足りねえかもしれねえ。このつる、弾力はあるが伸びるのが早い。すぐにヘタッちまう。もっと大量に必要かもしれねえ。すぐに作れるのか?」


 ネルの問いにナサニエルは少々顔を曇らせた。


「それは樹脂じゅしを固めるところから作るから製作に数時間必要なんだけど……僕じゃないと作れないから、そうすると僕がこの作業に従事できなくなってしまうよ」

「レギンのじいさんは作れないのか? 作り方を教えればいいんじゃねえか?」

「専門外だしなぁ。先生、あまりやりたがらないと思う。代わりに先生にこの矢を引き寄せる役をやってもらえるか頼んでみようかな」


 そう言うナサニエルにネルは少し考えてから自分の意見を告げた。


「とりあえず予備の2本があれば数十発は撃てると思う。その間に成功しちまえば、じいさんに手間かけさせないで済むな。そのつもりでやるか」


 ネルの言葉にうなづき、ナサニエルは次の矢を彼女に手渡す。

 それを受け取ったネルは再び矢を放ち始めるのだった。


 ☆☆☆☆☆☆ 


「チッ。これもダメか」


 アドルフは部下が持ってきた金属の六角棒を投げ捨てた。

 苛立いらだつその様子に部下の1人がおびえたようにおずおずと告げる。 


「そ、それで最後です」


 洞窟どうくつの中、アドルフが発見した岩壁の仕掛けは、壁に空いたあなの中に、六角棒を差し込むというものだった。

 それが一体何を意味するものなのかは分からないが、明らかに人工物とおぼしき造形に、アドルフはここに何かがあるとにらんでいる。

 そうして部下たちにふもとの村から金属の六角棒を調達させたのだが、どれも微妙に大きさが合わず使えなかった。

 

 しっかり大きさを合わせるとなると、特注品を作るしかない。

 それでは時間がかかり過ぎる。

 明後日あさってには巡回兵団がやって来るので、アドルフらは一度この山から撤退しなければならないのだ。

 巡回兵団が来訪する日程はおそらくナサニエルも把握はあくしているだろう。


 彼らは安全に山から退避できる日を選んで逃げるために、今は身を潜めているのだ。

 ダニアの女を捕らえるために山賊さんぞく団に残された時間は明日だけだった。

 今から金属の六角棒を作っているひまはない。


「仕方ねえ。とにかくここを見張れ。出てきたところを捕らえるんだ」


 アドルフはこの場所を作った者の用意周到さに苛立いらだちながらもギリギリまで執念しゅうねん深くねばるつもりだった。

 だが、彼はそれだけでは終わらない男だ。

 いくつもあみを張って獲物を捕らえる確率を上げるのだ。

 部下たちにその場を任せ、アドルフはさらに洞窟どうくつを奥へと1人足を向けるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ