恋はアメ作りのように。
カリカリしているカレーヌ様にレプトンさんは及び腰だ。
「じゃ、行きましょうレイカ。ハミルトン、待たせたわね。」
「はーい〜もう御用は済んだのですか〜」
停めてあった場所の御者席からハミルトンさんがのっそりと顔を出した。
「ええ、ハミルトン。」
「待ってください、カレーヌ様。今日明日、どこかでお時間をいただけませんか。少しだけでも。
…出来ればお食事とかご一緒に。」
はーん、そこで告るのか。
「はああっ。」
カレーヌ様がため息をつく。
「レプトンさん、貴方今日お仕事は?」
「リード様にお休みをもらっております。」
なるほどなあ。リード様公認か。
早く告れと。
そして、散れと。
……切ねえ。
「あ!そうだ。何かお手伝い出来ることがあれば。
例えば粉をふるうとか。砂糖を運ぶとか!」
必死だなあ。
「そうねえ。手伝ってもらえば仕事も早く終わって、貴方とお話する時間も、取れるかもねえ。」
「カレーヌ様。レプトンさんは字が上手だ。レタリングをしてもらったらどうですか?
ほら、このレイカさんが書いた異国の字。」
アンちゃんがさっき私が書いたメモを指す。
そこには「千歳飴」と書いてある。
「さっきの話だと飴が出来たら、この字が書かれた長い袋に入れるのでしょう?
今からじゃ印刷は間に合わない。
じゃア、袋を作ってレプトンさんに手書きしてもらいましょうや。」
アンちゃんが助け船を出した。
そうすればカレーヌ様の役に立てる、側にいられるよ!レプトンさん!
「そうですよ、カレーヌ様。日本語を書いた袋に入れたら、王妃様に受けますよ。」
私も援護射撃をしておく。
「……仕方ないわね。じゃあレプトンさん、手伝って貰おうかしら。」
「はい!」
さっきレプトンさんが乗って来た馬車と、二台連なってカレーヌ様のお店に急ぐ。
「お帰りなさいませ。お嬢様。
そして、レイカ様、アンディ様、レプトン様。ようこそおいで下さいました。」
ぺー爺さんに迎えられて中にはいる。
「あ!レイカおばさま!」
「あら、ビレイーヌちゃん。お久しぶり。」
「ランちゃんとアスカちゃんは?」
「ごめんね、ビレイーヌ。レイカおばさまはママとお仕事なのよ。」
「ふーん。じゃあ、レプトンお兄ちゃんは?
ねえ、今日はお花はないの?」
「ごめんねえ、ビレイーヌちゃん。今日は急いでたからお花はないんだ。
お兄ちゃんもお仕事で遊べないの。」
「なあんだ。つまんない。」
へえ。ビレイーヌちゃん、レプトンさんに懐いてるじゃない。
「しっかりしてるワね。うちの子とあまり変わらないンでショ。」
アンちゃんも感心してる。
「ふふふ。あの子はね、私が男性から貰った花をチュパ子ちゃんにあげるのが好きなのよ。」
なんてこと。
チュパカブラの餌になっていたのかい。
顔が引き攣るレプトンさんだ。
「でも顔を出すだけ嫌われてませんよ。」
リンさんがフォローする。
「そう。他の男の人が来たら隠れてますから。」
ルイさんも微笑む。
カレーヌ様の事務所に案内された。画材が置いてある。
「ではお仕事するわよ。レプトンさん、この紙を使って。インクはこれ。出来たら袋状に折って下さいな。」
「わかりました。」
カレーヌ様の役に立てて嬉しそうなレプトンさんだ。
「試作品ができたら見せてね?」
「はい!」
「字のまわりを二重線で囲むといいですよ。本当はツルとか描くんですけど。」
「うーん、花を縁取りにつけますか。」
私が言ったツルは鶴だが、レプトンさんは植物の蔓と思ったか。
まあ、鶴わからないよね。
「リン、ベルナを呼んで。ルイは砂糖と水飴と食紅を用意して。」
「はい、カレーヌ様。」
私達は、奥の作業場にはいる。
「レイカ、この子がベルナ。ウチの飴細工担当なの。」
「宜しくお願いします。」
ほう、綿菓子のような銀髪の娘さんだ。
ここでも絵を描いて渡す。
「飴を棒状にしてもらえますか。15センチくらいの長さの紅白の飴で。断面は1・5センチくらいです。
出来上がりをパラフィン紙で包んで下さい。」
「なるほど。飴を細く引っ張るわけですね。
味付けはどうしますか?」
「無しでも良いのですが、イチゴ味とミルク味もいいかも?」
「イチゴジャムを入れて見ますか。あとはスキムミルクかな。」
「ねえ、レイカ、ベルナ。味付きと味無しで食紅で色だけつけたもの。
両方作って試食しましょう。」
「了解。」
ああ、あたりに甘い匂いが満ちる。
溶けた砂糖と水飴をバットの中に入れて、素早く作業していくベルナさん。
うん、匠の技だ。火傷に注意してね。
「ね、レプトンさんが一枚書いたみたいよ。」
アンちゃんが呼びにきて、二人で見にいった。
おお、素晴らしい出来栄えだ。
印刷された活字のようである。ゴシック体よりも明朝体って感じだ。
等間隔に配置してあり、見た目も宜しい。
「袋状にしてみました。」
「へええ。レプトンさん、貴方なかなか器用なのねえ。字も綺麗だし。」
「一応事務方ですからね。」
褒められて満更でもなさそうだ。
「ここに薄く色を塗りましょうか。」
「うーん、この字を四角の枠ごと切り取って色のついた紙に貼る方がいいですよ。」
二人で話が進んでいく。なかなか気があってるようだ。
「とりあえず五枚?あればいいですか?
王妃様、王子様達。リード様ご夫妻。」
「そうね、予備が欲しいわ。更に五枚。」
「カレーヌ様。飴は一応バラでも持っていって、ピーターさんとかにも配ると喜ばれますよ。縁起物ですから。」
「飴ができたみたいですよ。」
リンさんが呼びに来た。
「とりあえず少量作りました。冷えたから試食してみて下さい。」
「うん、イメージ通りです。ほんのりイチゴ味。ほんのりミルク味で美味しい。
味がないシンプルなものも、これはこれで。」
「良かったわ。」
胸を撫で下ろすカレーヌ様だ。
「ねえ。ひと息つきましょう。」
カレーヌ様の言葉に、ルイさんがお茶とお菓子を持ってきて、カフェのテーブルに置く。
(もちろん今日は臨時休業である。)
私とアンちゃんとレプトンさんとでテーブルを囲む。
「レプトンさんのおかげで袋も出来たし。飴も大丈夫そうね。明日もあるし。」
「ええ、カレーヌ様。この後私とリンもヘルプには入りますわ。全部で30セットくらい作ればいいですかね。袋入り10セット。バラで20セット。」
ルイさんの言葉に、
「そうね。」
頷くカレーヌ様。
「目星もついてホッとしたわ。レプトンさん。お疲れ様。さてお話って何かしら。」
カレーヌ様がレプトンさんに微笑む。
「私達は席を外しましょう。」
アンちゃんが目配せをする。
「そうね、もう飴も出来たし。ここで失礼します。」
「えええ、何でえ!」
「いえ、どうか同席して下さい。きっとリード様にご報告されるのでしょう?」
アンちゃんがため息をつく。
多分自分だけ戻ってきて潜むつもりだったのか。
「じゃア、テーブルだけ別にするワ。」
少し離れたところにあるテーブル席に座る。
お茶とお菓子を持って移動だよ。
「あのカレーヌ様。本当は洒落たレストランとかでお話したかったのですが。」
視線を下にやりモジモジするレプトンさんだ。
「仕事忙しかったもの。時間読めなかったでしょ。
で、何?デートの申し込みだったのかしら?」
「……あの、ええと。その。」
赤くなるレプトンさん(20歳)。
「何よ。」
「わっ、私はずっと貴女が好きだったんですっ!!」
目をつぶって言い切るレプトンさん。
その顔は更に真っ赤だ。血管が切れるんじゃ無いだろうか。
およそ人類の赤面史上、MAXに赤いのではないか。
「ええ、知ってるけど?」
キョトンとするカレーヌ様だ。
恋は雨上がりのように。
映画見に行きました。小松菜奈さんと大泉洋さんがハマってました。




