君は今大きな舞台に立つ。信じる愛に背を向けないで。
確かに今更と言う気がするレプトンさんの告白だ。
何だかいたたまれない私だよ。
アンちゃんは肘をついて顎をのせ、横目でじっと見ている。
その表情は険しい。
「昔から貴方達兄弟が私にお熱だったのはバレバレだったじゃないの。」
カレーヌ様はコーヒーをすする。
とても落ち着いているようだ。
「そ、そうですか。」
肩透かしにあって、頭を掻くレプトンさん。普通の顔色に戻ってきたよ。
「貴方のことは、そうね。長い付き合いだし。私が素を出しても引かない良い人柄だとは思ってるわよ。」
微笑むカレーヌ様。
「えっとそれは。」
嬉しそうなレプトンさんだ。
――ああ、そうか。
カレーヌ様はアキ姫さまとのことを知らないのだものな。
知ってたらバシ!と突き放すだろうけど。
余計な事を言う訳にはいかないしな。
私はここに居ないつもりになろう。うん、私は置き物。
無の心境でいよう。
「わ、私は毒舌なカレーヌ様も気に入ってます!
人の心を抉る様な事を言っても底意地は悪くない。
むしろ痛快です。」
うわ。
「……褒めてるよのね?それ。」
おでこに手をやって目を閉じるカレーヌ様だ。
頭痛を耐える人みたいである。
「はい!お仕事に熱心で手を抜かないところも。
スタッフにも厳しく丁寧で。理不尽なことはしない。」
「働かないと食べて行けないしねえ。」
「子煩悩ですし、親孝行だ。今日だってお母様を趣味の観劇に送り出してるのでしょう。」
「母は随分と苦労したの。贔屓の役者が出るときぐらいはね。」
それに、とカレーヌ様は顔を上げてじっとレプトンさんを見る。
「ビレイーヌは私の命だわ。レプトンさん、貴方はあの子をないがしろや邪魔もの扱いをしないわよね。
それは認めてるわ。」
あら。これは?
そっとアンちゃんを見る。
物凄く無表情になってガン見している。
さっきまで苦虫を噛み締めたような顔をしていたのだが。
「まあ、うちに出入りする中では安心安全よね。
リード様の御用で良く来るじゃない。」
「貴女に会いに来てるのです、カレーヌ様。」
「あらあら。」
肩をすくめるカレーヌ様。
チラリと私とアンちゃんを見る。相変わらず無表情だ。私も能面の様に無表情を作る。上手く出来たかな。
さて、勝負に出るのか。レプトンさん。
「私ではダメでしょうか。貴女をこれからも支えてチカラになりたいのです。一生、側で。
つまり、その、
……結婚してもらえませんか!!
私との将来を考えて見てもらえませんか。」
アンちゃんは目を閉じている。
その表情は読めない。うん?手をギュッと握り締めているぞ。
リード様の指令で見届けるので無ければ、何かしでかしたかもしれん。
「きいっ、ウチの子はアンタなんかにやらなくってよ!」
とか言って首根っこを掴むとか、
「アキ姫さまはどうするんじゃ、ワレえ!」
とか言って手を突っ込んで奥歯ガタガタさせそうである。
「……本気なの?」
半眼でレプトンさんを見るカレーヌ様。
「ええ!お仕事が大変なら私が手伝います!
お菓子作りは、まだ、出来ないけど……頑張って覚えます!」
うわあ。クラ○ス降臨である。
「だって、リード様のお仕事は?」
目を丸くするカレーヌ様。
「辞めても構いません!」
何だとおっ!王子様の側近No.1の座を投げ打つってか?
「貴方、何言ってるのかわかってるの?」
カレーヌ様も真顔だ。眉をひそめている。
レプトンさんはまっすぐな人だ。きっとカレーヌ様の為なら仕事も辞めるだろう。
サードさんとは大違いだ。
レプトンさんは真剣な、そして泣きそうな顔をしている。
「貴女が好きなんです。それだけなんです!
ずっと側にいたいんです。ずっと、ずっと。
貴女の為なら、貴女の心が手に入るのなら、何でも捨てます!
貴女のチカラになりたい、貴女を支えていきたいんです!」
絶叫するレプトンさんだ。
どうしよう。感動して来ちゃった。
胸がジーンとする。
初恋か。若い頃好きだった人はずっと好きだと言うよね。
「初めて会った日のことは忘れません。
スミレ色のドレスに金髪が映えて。花の妖精のようでした。」
「あのドレスお気に入りだったの。今は亡きお婆様の見立てだったのよ。
それは私が七つになるバースデーパーティね。」
「はい。ウチは兄妹で呼ばれていて。私は五つでした。カレーヌ様はリード様のお隣にいて、とても楽しそうで。一緒に初等科に通ってらっしゃったんですよね。」
「学年は違うけどね。」
「そのうち、リード様がカレーヌ様の兄君とお話されるのに少し離れた隙に、」
「ポポロか。あの伯爵令息ね。悪ガキね。」
「ええ、その子がカレーヌ様の手を握って連れて行こうとして。」
「手がしっとりしててキモかったの。アイツ六歳だったかな。ヨダレだか何だか知らないけどさ。」
手汗では。緊張してたんじゃ。
「振りはらって逃げようとしたら、私のドレスを掴んでひっぱったの。よれて汚れたわ。繊細なレースもほころびちゃってさ!」
「その瞬間、ポポロ少年はぶっ飛びましたね。黒いつむじ風みたいなのがやってきて。」
「それね、アンディの仕業よ。」
アンちゃんは薄く笑った。
「ああ、あのワガママボディの少年ですね。急に体調不良になってお帰りになった。くくく。
ま、庭園にはイタズラな風が吹くものですよ。」
うわあ。転ばせてそのまま返したのか。
「ドレスにチョコのシミがべっとりとついていて、もう最悪。
ステキなドレスが汚れてワンワン泣いたの。
さっき握られた私の手にも良くみたらチョコが付いてて!もうサイテー!」
それは、チョコをカレーヌ様にプレゼントしようとして持っていて体温で溶けたのでは。悲喜劇である。
「ええ、その時『このバカやろう!何してくれたんや?ああん?カス野郎!死んでワビんか!クソッタレ!』と泣きながら、あのポポロに暴言をはかれたのです!しかも蹴りもくらわせて!届かなくてエアーな攻撃でしたけど!ああ!シビレました!」
「…レプトンさん、貴方変わり者って言われない?」
それにはコメントしづらいが、カレーヌ様昔からキツめの言葉を使って締めていたんですね!
「罵詈雑言はアンディのマネよ。」
「えっ。」
自分に飛び火してアンちゃんもびっくりだ!
「それにしても良く覚えてるわねえ。」
「はい、貴女の泣き顔は可愛いですが、笑顔はもっと可愛い。」
アニメデビ○マンで、初めてミキを見た時のアキラの感想のようである。
シレーヌに頭の中を覗かれた時ね、多分。
「それからも、ずっとです。
サード兄をキツく振ったときも。
倒れたレイカさんを心配されてた時も。
お店でいらっしゃいませ、と微笑んでくれた時も。
私は貴女に首ったけなんです。」
「最後のは営業スマイルでしょ。」
微苦笑をするカレーヌ様。
「すべてが好きなんです!」
物凄い情熱が伝わってくるよ。
カレーヌ様は初恋泥棒だったと聞く。
きっと他にも彼女のことを忘れない人もいるのだろう。
サードさんもそうではないか。
しかし、ここまで純真な気持ちでカレーヌ様を好きな人は居ないのではないか。
まずあの毒舌を受け入れてるのだ。彼女は口悪いが根は悪くない。
そこをちゃんとわかってる。
(わかっていて、罵られるのが好きだったような?
まあ、人には嗜好というか、性癖があるからね。)
「ええっと、どうしよう。そこまで真剣に私にぶつかってくる人はいなかったわ。」
赤くなるカレーヌ様だ。
「レイカあ。」
「はい。」
涙目になって私に抱きついてくるカレーヌ様だ。
「ちょっと混乱してきちゃったの。」
背中を撫でてやる。
アンちゃんが物言いたげな顔で私を見る。
多分アキ姫さまの話をしないのか、と言いたいのだろう?
うん、ここでアキ姫さまのことを言えばカレーヌ様は心を閉ざすだろう。
それで話はお終いだ。
そしてレプトンさんは傷心のあまり、流れるように結婚するだろう。
それでもきっと、彼はそこそこしあわせになるとは思う。
だけども、カレーヌ様をここまで理解してくれる人はレプトンさん以外いないだろう。
ここまで彼女に惚れ込んで、すべてを捨てても良いと言ってくれる人は、もう現れないかも知れない。
小さい頃からのまっすぐな、恋心のままに。
それにカレーヌ様に心を閉ざして欲しくない。
「カレーヌ様。私はね、貴女がどんな選択をされても受け入れますよ。ずっとお友達でいますから。」
それしか言えないなあ。
「レイカあああっ。」
完璧な貴族の仮面を被れるのに、実は激情家で泣き虫。これがカレーヌ様の魅力でもあるんだ。
レプトンさんが私を見る。物言いたげだ。
アンちゃんもだ。
ふん。私は何も言わないよ。
カレーヌ様のしあわせが一番さ。
「……考えて見るわ。」
「え?」
「だからっ!貴方の事を考えて見るって言ったのよ!
レプトンさん。
相変わらずニブイ人ねっ!」
私の胸に顔を埋めながらのシャウトだ。
そこでレプトンさんに向きなおる。
「貴方みたいなお人好しはもうこの先現れ無いかもしれないじゃない、逃したらいけないとは私にもわかってるのよ!」
カレーヌ様の顔は真っ赤だった。
長渕剛さんの「乾杯」からですね。
いい歌です。結婚式の定番ソングでしたね。




