素直に音を立てればいいから。それを食べて。
六月の末。隠れ家レストラン。
「オホホホ。これよ、これこれ!美味しいわ。」
目の前でざるそばを食べて微笑んでらっしゃるのは王妃様である。
「ねえ、暑くなってきたからざるそばが食べたいのよ。」
二日程前にご連絡があった。
「喜んでいただけて何よりです。」
何しろここのレストランは元々王妃様の専用だったからね。
「わたしたちがうったそばを、ごしょうみいただいてこうえいでございます。」
コハク国ツインズのスピカさんが緊張で固くなって頭を下げる。
「か、かんしゃのきわみ…」
アルク君もカタコトである。
「オホホホ!デ○ラー総統の名台詞みたいね!」
あー、そうなのですか?
「ねえ。レイカ。」
「アッハイ?」
「つい王妃としての誇りというか…品格でね?蕎麦を無音で食べちゃうのよ。」
「はい。」
「でもね?ズルズル!と音を立ててすすりたい!たぐりたい!」
「前世日本人として誠に正しきお考え。」
「貴女も一緒にね?二人でやれば怖くないわ!」
「はい。お相伴いたします。」
二人あわせて
ズルズルズル!
音を立てて食べる。
「え、それは。」
アンちゃんが目を丸くする。
「オホホホ!アンディ!
噺家はね?上手く蕎麦を啜る音を出せるようになって一人前なのよ!」
「はあ。」
困惑顔のアンちゃんだ。噺家の話はわからないよね…。
ショコラさんも口に手を当てて目を見開いている。
しかし誰も王妃様に、
「それ、はしたないって。」
とは言えないのである。
「ううう。」
おや?コハク国ツインズが半泣きでうなずく。
「そうそう、そうでございます。」
「うちのくにでも、うまくすすれるひとがすくなくなっておりましたのに!」
パチパチパチ。
拍手をする二人。喜んでもらえて何よりだわ。
アンちゃんが天井を見上げる。
「なるほど…それが正しいのですね。勉強になりました。」
知らない人には受け入れがたい音かもねえ。
「うん、このミニ親子丼も美味しい!」
「ありがとうございます。」
本日はざるそばとミニ丼セットのリクエストだったのだ。
相変わらずの健啖家であらせられる。
「良く食べてたの。ざるそばとミニ丼のセット。前世でね。」
「そうですか。」
「私は蕎麦が麺類で1番好きなの。レイカは?」
「私はラーメンでしたけど…外出先で食べるのはうどんが多かったです。」
「あー、わかるわ。外れがないものね。」
「ええ。」
うどんの方がどこのフードコートでも大体美味しい。
「蕎麦だとねえ。小麦粉が多すぎるとなんか残念だものね。」
「その通りです。」
ん?シンゴ君が何か奥で包んでいるのが見えるわ?
「お、ラーラに持っていくのか?」
「ええ、アンディ義父さん。親子丼は産後の身体に優しいと思いまして。」
「そう言えばシンゴ。お子が生まれたそうじゃな。」
「はっ。」
王妃様の問いかけに前にきて平伏するシンゴ君。
「良かったではないか。おめでとう。」
「ははっ。有り難きお言葉。」
「名前は…ええと?キタローだったかの?」
「は、いえ。」
シンゴ君が戸惑う。
「王妃様。コタロー君ですよ。それだとゲゲゲになってしまいます。」
「やだわ、レイカ。間違えちゃった。」
良かったわー、あらかじめつけといて。
この流れだと王妃様が
「キタローなんか良いんじゃない?」
と言ってつけたかもしれないものね。
「私が名付け親なんです。伝説の忍びっぽくていいかと。」
「あら、そう。キリガクレとかサイゾーもいいわよね。」
「サイゾーだとハンゾー君と被りますよ。」
「あら、おほほほ。」
和やかである。
そこに、
「ははうええええー!ブルーウォーターにいらしてたのですかー!」
輝く美貌のマザコン王子様が現れた。
どこで嗅ぎつけてくるんだ。
「あら、リード。少し落ち着きなさいな。
貴方ももう五児の父ではないの。」
「ふふ、褒めて下さってるのですね?照れるなあ。」
どこに褒められてる要素が?
「レイカさん。私にも蕎麦をいただけるかな。」
「はい、ただいま。」
「いい?リード。蕎麦を食べる作法を教えるわよ。」
「母上?」
ズルズルズル!!
「ええっー?」
リード様。目が落っこちそうですよ。
「そ、それは?いささかはしたないかと??」
困り顔で恐る恐る声をかける美貌の王子様。
「黙らっしゃい!貴方の子はコハク国に嫁ぐかもしれないのでしょう?
貴方もこれから彼の国に行くことがあるはず。
コハク国に行ったら、この正式なズルズルで食べて見せるのよ?
さあ!リピートアフターミー!」
「えええええ。」
混乱するリード様。
「あ、そうだ、レイカさん。」
強引に話題を変えたな。
「ヴィーと海竜様の所に行くのだろう?来週あたりどうかな?」
「アッハイ!了解致しました!」
ウフフ、楽しみ。私の心は夏模様なんである。
「愛をとめないで」からですね。オフコースの。




