風が薫る五月の日よ。愛を心にね。若きキミたちよ。
「大丈夫?カルラさん。さあ、ここのソファに横たわって。
それとも客室のベッドの方がいいかしら?
やはり日差しがきつかったのかしら…」
母が駆け寄る。
「そうね、こちらへ。ヒデジーニアス、お水とおしぼりを。」
「はい、レイカお嬢様。」
私も客室に案内する。
カルラさんはハンゾー君とザックに両方から支えられて歩いている。
「ありがとうございます、モルドール夫人、レイカさん。少し休めば大丈夫ですから。
ちょっと立ちくらみがしただけです。
せっかく河原まで行ったんですけど…」
と言いつつ、カルラさんは目配せをする。
あら?
とりあえず彼女を客室のベッドに座らせる。
「…なあ、ザック。お姉さんにしばらく付いていてやるんだろ?」
「はい。ハンゾーさん。」
ヒデジーニアスが濡れたおしぼりと水を持ってきた。
それをテーブルに置いて老執事は退出する。
「ここでゆっくりと積もる話をしなよ。
それから、ケイト?カルラさんの背中をおしぼりで拭いて上げてくれるか?
汗でびっしょりなんだ。」
ハンゾー君がケイトちゃんに声をかける。
そうね、拭いてもらうのは…やはり弟よりも女性の方がいいよね。
それにこの中ではカルラさんと1番の顔馴染みだ。
「は、はい。」
「じゃあ、私達は退出しましょう。」
シンゴ君の声でカルラさん姉弟とケイトちゃんを置いて部屋からでる。
ふうっ。
リビングにはいって肩からチカラを抜くハンゾー君だ。
ソファに座り込む。
シンゴ君がニヤリとして隣にすわって話しかける。
ナイショ話のように。
「カルラさんが仮病まで使って、戻ってきたのはザックの為か?」
「ああ。」
「あら、仮病なの?」
母が目を丸くする。父もだ。
「まったく疲れてないことはないでしょうが、汗もかかれてますし。
あまりにザックがしょげてましてね。それでカルラさんが一芝居打った訳です。ザックと帰るためにね。
ヤマシロ以外には気が付かれていませんよ。
何しろ、今日もみんなで体調を心配していたでしょ?」
つまり、それは。
「ザック君は、ケイトちゃんを傷つけてしまったことを悔いているのね?」
ラーラさんがつぶやく。
「ふふ、そうです。あれから心ここに在らず、でね。
……ドンやリッキーもテンション低かったですね。
あの子らもケイトに気があるのでしょう。
そろそろ、エメリン先生のことは憧れだと気がついたのでしょうね。
まだ本気で先生を追いかけてるのはミルドル坊やだけですよ。」
あら、あらら。ハンゾー君、薄笑いを浮かべてるね。
「アイツらの姫なんだものな。今日も本当は一緒に過ごしたかったんだろうよ。」
シンゴ君、その笑いアンちゃんにそっくりなんだけど。
「それに、今日はザックとカルラさんの触れ合いが主なのでしょう。コレで良かったじゃないですか。」
ハンゾー君は伸びをして目を伏せた。
カルラさんと君との交流も計画してたんだけどねえ。
「今頃はザックとケイトも話をしてるでしょ。謝り倒してるのかも知れないけど。」
ハンゾー君の笑みは優しい。
「そうねえ。ケイトちゃんもザック君の言う事はもう少し素直に聞くかしら。カルラさんの前だしね。」
母もにこやかに微笑んでいる。
「さてと。」
ハンゾー君は立ちあがった。
「ヤマシロだけに任せるのもな…行くか。」
「おう、ご苦労様。お子様のおもりを頼むぞ。」
シンゴ君がハンゾー君に声をかけた。
するとその時。
「私っ、帰ります!」
ケイトちゃんが飛び出して来た。
その顔は真っ赤である。怒っているようにも見える。
「あ、あら?どうしたの。バーベキューに参加すればいいのに…」
母がおっとりと声をかける。
「いえ!ごめんなさい。失礼します。」
ケイトちゃんは飛び出して行った。
「ザックが怒らせたのか?仕方ない、送るよ。
その後、河原に行くから。」
ハンゾー君がため息をひとつついて、後ろをついていく。
わあ、大変。
「何ごとかしら。」
「…レイカさん、ま、想像はできますけどね。」
シンゴ君が含み笑いをする。
「…?」
「…ザックがね、思い余ってケイトに告ったんでしょうよ。きっと。」
ええええええええ!
とりあえず声を上げるのを押さえこむ。
「そ、そうかしら。」
母や父を見ると頷いている。みんなそう思うのか。
ああもう。
様子を見に行くのは私しか…いないか。
カルラさんはカレーヌ様から預かった人だしたな。
「…ねえ、カルラさん。今ケイトちゃんが飛び出して行ったんだけど…」
そっとドアをあけた私の目に飛び込んできたのは。
顔を覆って、
「嗚呼、アア、ああああっ!」
色んな字体で、あああーと赤くなってうなっているザックを、
「ヨシヨシ。」
抱きしめて慰めているカルラさんだった。
…うん、思ってた方向とは違ったけど姉弟の触れあいは出来たようだね??
「…つ、つい。口が滑ってしまったんです。あんまりケイトが愚痴愚痴ミルドルのことばっかりいうから。」
「う、うん。」
で?思い余って…告ったのね?
「ふふ、レイカさん。この子ね、ずっとケイトちゃんの事が好きだったんですよ。でも彼女はミルドル君のことばかりでしょ。」
カルラさんは慈母の笑みをたたえていた。
「さっきもキツイ事を言っちゃって、ものすごく後悔してましたの。だから…私も立ちくらみをしちゃった事にして、彼女に謝らせる為に…戻ってきたんです。
ハンゾーさんには悪いことをしました。」
カルラさんはハンゾー君の名前を出した時、心底申し訳ない、と言う顔をした。
「あー、ハンゾー君は気にしてないよ。」
「良かった。実は今日はタオルに刺繍をして持ってきたんです。暑くなってきましたから、使って欲しくて。」
ほっとするカルラさん。この人本当にハンゾー君が好きなんだな。
「この後、彼、バーベキューにも参加するよ、カルラさんも食べて行くでしょ。」
「ええ。」
「…俺は何も口に出来ないかも…」
げっそりとした顔のザック少年。
「ザック君?ケイトちゃんに謝ったのでしょ?」
「一応…。それで『アンタは何もわかってない!』って言われてしまったから、
つい俺も、『オマエだって何もわかってないっ!』って。」
そ、それで告ったわけなのね?
王妃様がお喜びになりそうな流れだわ。
「…『ミルドルより、俺がオマエを幸せにするよ!
ミルドルばっかり見ないでくれ、アイツに負けない立派な騎士になるから…将来結婚してくれ!
姉ちゃんが、証人だ。浮気はしないし、暴力もふるわないから!
食うのに苦労させねえから!』って言っちまったんです…」
そしてケイトちゃんは飛び出していったのか。
嗚呼。
いきなり団子…ではなくいきなりプロポーズかい。
しかし。シンゴ君の言葉でひとりで強くなっていこうとしていたケイトちゃん。
それと真逆の自分が守るから、のザックのプロポーズ。
彼女はどんな道を選ぶのだろうか。
加山雄三さんの「旅人よ」からですね。タイトルネタ。




