女好きはそいつの悪い癖。でも今度は遊びなんかじゃないよね。
「けっ。セピアの野郎、何を言ってるんだ。」
シンゴ君が苦虫を噛み潰したような顔で言う。
「ふふふうん?」
アンちゃんは薄笑いをして腕組みだ。
「もちろん、ヨーゼフが締めたんだろ?」
ニヤリとして付け加える。
「ええ、それは。」
「とにかくあのセピアは興奮して色々口走ってましてね。
支配人が『お静かにお願いしますよ。』と言ったら、
『支配人!酷いじゃないか、この席はいつも予約席で俺が何度も使いたいと言ってもダメで!』っていきなり支配人にもくってかかって。」
えっ、問題はそこ?
「くくっ。混乱してやがったんだな。」
「ええ。どうもそこは特別席だったらしいのですよ。確かに外からは見上げると目につく目立った場所ですが、内側からは奥の個室なんです。テーブルも絨毯も椅子も特製で良いものでした。」
はあん。VIP席か。
「それで『特別な常連様だけがお使いいただけます。』って支配人にばっさり言われたセピアが、『えええ。俺も常連でしょ。』って食い下がったのですが、
『はい、いつも違う御方を連れてますよね。まあここ一年は?同じ御方ですが。あの赤い髪のねえ?』ってばっさり切り返しをされてましたよ。ふふふ。」
わあ。ショコラさんが口を開かずに笑ってる。
含み笑いだ。目も笑ってない。
「アイツ。下手うったな。グローリー家ゆかりの店とは知らなかったのか。ふははは。」
シンゴ君も含み笑いだ。
「ホントそうです。『こちらのお二人は、龍太郎様とメリイ様のご紹介でしてな。うちはサード様が、オーナーなんですよ。』と支配人から言われてやっと気がついたんですよ、あの馬鹿は。影なのに情報にうといんだから。」
ショコラさんは今度は顔をしかめている。
「そして『本当なら赤い髪の御方は出禁なんです。』って。『それで最近席がイマイチだったのか…トイレの近くで…』って!アイツ頭抱えちゃって!」
「くっくくく!そうか!ロージイ連れでいったらな、まあ、そうなるな。」
アンちゃん爆笑だ。
ふうん。私は冷え性だし、子連れだからトイレの近くでも構わないけどねえ。
「流石にヨーゼフさんが、
『おい、セピア。オマエもう帰れよ。ショコラさんはな、俺とデート中なんだぞ!』
とセピアを押し出そうとしたんです。
で、私も
『本当よ。やっとメリイさんやカレーヌ様の口利きで憧れの店にきてるのに。それにヨーゼフさんとの楽しいデートなのに。邪魔しないでよ!』
って言ったらアイツ、
『そ、そんな…』って情けない顔して座り込みましたよ。」
あらあら。
「アイツ、馬鹿だな。」
シンゴ君が吐き出す。
「まあなア。セピアはショコラに姉のような家族なような情と甘えがあるんだろうさ。」
アンちゃんは優しいな。
「で。『ショコラさあん!ラブラブパフェが食べたかったら言ってくれれば!』って半泣きでこっちを見上げてきましたから、『いやあよ、アンタなんかと。』といってやりましたよ!ふん!」
あらら。
「そしたら、『くそう!こんなパフェ、俺が食い尽くしてやる!』って私が使ってたスプーンを使って食べようとしましたからね、速攻で手をはらって叩き落としてやりましたわ!」
ふむ。伊達にクノイチな訳ではないのね。
「で、流れるようにヨーゼフさんが押さえつけました。
いい阿吽の呼吸でしたわ。」
にっこりうっとりとショコラさんが微笑む。
「その間に支配人が新しいスプーンを用意してくれて。
小さい容器にパフェを取り分けてくれたんです。
『セピア様。こちらにパフェを取り分けてミニパフェにいたしましたよ。さあ、どうぞ。』って。プロですわね。
『うううっ。』ってセピアは半泣きで完食いたしました。」
「あはははははははっ!」
声をあげて笑ったのはアンちゃんだ。
「それでアイツは素直に帰ったのか?」
「いいえ。『美味しい…おかわり。』って。
すると支配人がちゃっちゃか盛り付けて『はい、どうぞ。』…
それを三回繰り返してましたね。」
「ぶわっはっはっは!」
アンちゃん、稀に見る大笑いだ。
「ああ、苦しい。笑わせるぜ、アイツ。」
「それでコトリと一万ギン硬貨をおいて、
『釣りは要らねえよ。悪かったね、ショコラさん。支配人、今度はもう少しいい席で頼むよ…1人で来るからさ。』って。
フラフラと出て行きました。」
「ふうん。筋は通したんだな、アイツ。」
シンゴ君も苦笑した。
「ま、そのあと食い尽くされたパフェをリメイクしてもらって美味しく食べて帰りましたよ。」
ショコラさんは微笑んだ。
「…そうか。じゃもう休め。お疲れ様。」
「はい、今日はお休みをいただき、ありがとうございました。」
アンちゃんの言葉に退出していくショコラさん。
「…セピア、出てこいよ。いるんだろ?」
ええ?
「…アンディさまあ。」
フラリと壁際からセピア君が現れた。
「うわっ、ホントにいやがった!」
飛び上がるシンゴ君。
「何と言う生気の無さだ。俺、マジで気がつかなかったわ…」
ゆらり。
本当、幽鬼のよう。
「…セピア、さっきのショコラの話に相違は無いな。」
「ハイ…アンディ様。ただ、あのあとヨーゼフの野郎が追いかけてきましてね、『もう、いいだろ?ショコラさんのことは。オレにまかせろよ。オマエにはロージイがいるんだろ?
真面目に付き合ってるんだろう?』と釘をさしに来ました。」
「ほう。アイツらしいな。真面目に正論で攻めてきたな。」
「ええ…その通りです。」
「おまえ、ロージイとはうまくいってるんだろう?」
「はい、まあ。それは。」
「じゃ、もう未練がましくするな。」
「……ええ。あの…」
そこでセピア君は言い淀んだ。
「…ハンゾーだと思ったんです。」
「うん?」
「ショコラさんの新しい相手。」
「ああ。」
「…それなら、納得してました。でもまさか。騎士の野郎にとられるとは…」
「…おい、セピア。」
「いや、ロンドことヨーゼフが、善人なのは間違いありません。ただ、俺が気にくわないだけなんですよ。
シンゴの仲良しだし?」
おや、シンゴ君に飛び火だ。
「おい、セピア!何言ってんだよ!オマエみたいにあちこちフラフラする奴より、アイツの方が立派だぞ!」
「…わかってるよ。ただ、ハンゾーが不憫で。」
シンゴ君はそれを聞いて気まずそうにする。
「ははは。セピア。オマエは人間的にズルいヤツだな。考え方もひねくれてる。
だけどオレは嫌いじゃないぜ。」
アンちゃんが皮肉屋の笑みを浮かべた。
「アンディさまあっ!」
泣き顔になるセピア君。
「アンディ様はコイツを甘やかし過ぎです!」
眉間にシワを寄せるシンゴ君。
「セピア。オマエにはロージイとその家族と言う居場所があるじゃないか。それでいいだろう。
もうすぐ結婚するんだろう?あんなに本気になった女は
いないんだろう?」
「はい、その通りです。」
「いつまでも選ばなかった方に執着するな。何しろショコラはヨーゼフに夢中だ。オマエのことはもちろん、ハンゾーのことも全然興味がないんだからな!」
ニヤリと笑って言い切った。
「そ、そんなあ。」
うーん、アンちゃんが1番、酷いかも知れないなあ。
タイトルネタは長渕剛さん。「俺らの家まで」




