馬鹿だね、アンタ。ずっと愛してもらえると思ってたなんて。
誤字報告ありがとうございます。
「セピア、夜も遅いしフラフラだな。隣の忍びの集会所の寮に泊まって行けよ。」
「アンディ様…ありがとうございます…」
涙目のセピア君だ。
「ブラッキーの部屋に泊めてもらうか?」
「ああ…ブラッキーさん。お懐かしい…」
顔を覆ってシクシク泣き始めた。何故泣く。
そういえばブラッキー君に懐いていたな。
一緒にホテルで働きませんか、と勧誘していて速攻断られていたっけ。
「シンゴ、ブラッキーを呼べ。」
「はっ。確か厨房の隅で片付けのチェックを。」
シンゴ君が走っていった。
ここはね、レストラン部分だよ。
(遅くなったけど説明)
私とアンちゃんが食器のチェックをしていたら、ショコラさんが帰ってきたのである。
セピア君は壁の蝋燭の火をぼんやりと眺めている。
げっそりとした顔に蝋燭の火が陰影を作っていて、昔ウンナンのコントで見た『命 影郎』というキャラのようだ。
「今にもひーーっ。といって倒れそうよねえ。」
「そうだな、レイカちゃん。」
「ああ、自分が失ったものが、どんなに素晴らしいものだったか…実感しています。」
つつー…。
セピア君の頬をつたう涙。
そんなにこたえたのか。ショコラさんがヨーゼフさんを選んだのが。
「ふん。しっかりしないともうひとつのほうも失うぞ。」
「ブラッキーさん!会いたかったっすよ!アニキぃ。」
「オマエにアニキと呼ばれる筋合いはないっ!」
「ああ、何だろ。叱責が心地よい…」
ブラッキー君に恍惚の表情を浮かべ縋り付くセピア君。
「気色悪いっ!離れろっ!」
……セピア君、大丈夫か?
すっ、とアンちゃんがワインの瓶を差し出す。
「ほらよ、俺からの差し入れだ。ブラッキー悪いな。今晩面倒見てやってくれや。」
「キャッホウ!幻のワイン『ネモ』、ブルーウォーター元年ものじゃ無いですかっ!ブラッキーさん、二人であけましょうや!」
「こんな、高価なものを……!!!
アンディ様、すみません!キッチリこいつをしずめますんで!」
わあ。
気を鎮めさせるのか。泥酔させてベッドに沈めるのか。
それとも。
「ふん。こんなやつ、グラン湖に叩き込んで沈めちまえよ!」
シンゴ君が吐き捨てる。
だよねえ。
「ブラッキーさん、俺らも上がります。」
「お疲れ様です。」
コハク国ツインズが厨房の入り口から声をかけてきた。
「おお、片付け途中で抜けちゃってすまんな。」
「おおお!チルの従兄弟のお二人さんじゃないっすか!
一緒に飲みましょう!特にスピカさあん!」
「えっ、やだ?このひとのめつきがいやらしい!」
身をよじるスピカさん!
「天誅!」
バシイ!
「いたっ、やめてっ。ブラッキーさん。ただの癖ですから…うわああー!いたたっ!
腕輪が締め付けるうっ!」
あー、ロージイの祈りがこもったトパーズがついた腕輪ね。グラッシーこと海竜様製の。
そいつが、孫悟空の輪っかみたいに締め付けてるのか。
セピア君が女性にちょっかい出そうとすると発動するのねえ。なるほど。
「くうっ、やめてええ、いたいっ!ちょっと緩めてええ。
ううう…スピカさんの手を握ろうとしただけなのに!」
「けっ!もっとあちこち触ろうとしたんじゃねえのか!
手つきがやらしいぞ!」
ブラッキー君が睨みつける。
「そりゃそうだろうなア。」
アンちゃんが顔を顰める。
「ロージイの執着とグラッシーの念か。
オマエが他の女にちょっかいを出そうとするのを許す訳ねえや。
その怒りを解けるのはレイカちゃんだけかもね。
二人に好かれてるしさ。」
ええっ。マジで?私にはそんな霊力はなくってよ?
「レイカ姉さん!どうかっ、どうかっー!」
セピア君の顔色が紫になってきた。
仕方ない、ダメもとで。
ポン!ポポポン!
軽くセピア君の腕輪を叩く。
「はらいたまえ!この男の邪心を清めたまえ!お心を鎮めたまえ!」
何か口にしないと締まらない気がしたから、
とりあえず言ってみるわたくし。
シュウウウ。
血圧計の空気が抜けるような音がして、腕輪が緩んだ。
(ように見えた。)
あらあ、きいたの?
「グラッシーに作ってもらった腕輪の加護かもネエ。
レイカちゃんの腕輪、ワタシの腕輪と共鳴してるワ。」
アンちゃんが腕輪を見せる。薄く青色に光っている。
私の腕輪も見る。本当だ。青く光ってるわ。
「これはキューちゃんの加護。なるほどね…」
それでセピア君の腕輪に勝てたのか。何しろ私達の腕輪には、三大神獣の加護が付いているのだ。
「セピア君、女好きもほどほどに。ショコラさんへの未練もほどほどにね。」
いつも私が抑えてあげられるわけじゃないんだから。
「…はい、姉さん。」
そしてセピア君はブラッキー君に引きずられるように退出したのだった。
中島みゆきの「化粧」から。




