情けは人の為ならずっていつも思うけどホントだよ。良いことしたらかえってくるんだよね。
五月も中旬。
「こんにちは、レイカ。」
「カレーヌ様。ネコカフェにスイーツの納品に来たのですか?」
レストランの掃除をしていた私とアンちゃんの前にカレーヌ様がひょいっと顔を出した。
金色の巻き髪が揺れて、サファイアみたいな瞳がイタズラっぽく笑っている。
いつまでも妖精の様な美貌だ。
…中身は毒舌女だが。そして何故、いつも顔を半分だけ出すんだ。
アンタは猫か。
「ウフフ。今回は沢山の猫ちゃんクッキーのご注文ありがとう。
大儲けで嬉しいわあ。」
「キューちゃんが沢山食べましたしね。補充も必要ですし。」
アンちゃんが微笑む。
ここは隠れ家レストランなのだが、カレーヌ様とエリーフラワー様は顔パスだ。
「しかし、身重のカレーヌ様がわざわざ届けに?ハミルトンはどうしてるのですか?」
アンちゃんが顔を顰める。
「一緒に来てるわよ。ハミルトンとカルラと。
二人は今、カフェに品物を並べてるわ。新製品のキャンディも置いてるから。宜しくね。ふふふ。」
ニヤリと商人の笑みを浮かべるカレーヌ様。
勝手に新製品を棚に並べたのか。ちゃっかりしてるな。
(自社ビールの新製品を、売り場の良い所におくのはバイヤー同士の攻防があったよな。前世のテレビで見た知識だが。カレーヌ様はナチュラルにそれをやる。)
カルラさんかあ。
彼女はザック君のお姉さんだったわね。ふうん。元気でやってるの。それは何より。
「それとね!レイカに会いたかったんだもの!」
いきなり抱きついて甘えてくる。
その目は潤んで宝石の様に輝き、頬に赤みがさしている。
あらまあ。私が男ならイチコロだよ。
相変わらずの小悪魔ぶりである。
アンちゃんなんかニコニコして眺めているよ。
「仲が良い二人を見てると、こっちも暖かい気持ちになりますよ。」
本当にアンちゃんはカレーヌ様には甘い。
そして、そうね、カレーヌ様が私を大好きなのは間違いないでしょう。
「カレーヌ様、どうかおすわりになって。お身体にさわるといけませんわ。」
母がジュースを二つ持ってくる。
「ありがとう、おばさま。ひと休みさせてもらうわね。」
すっと、アンちゃんが引いた椅子に座って優雅に微笑む。根っからの貴族の令嬢だなぁと、いつも思う。
おっと、今は人妻か。
「今日は何かお話でも?」
「そうなのよ、レイカ。」
「レプトンの野郎の愚痴ですか?レイカちゃん、聞いてあげてネ。」
アンちゃんの眉間にシワが。
「うふふ。それは無いわ。ねえ、アンディにレイカ。
赤茶の髪でソバカスだらけの若い忍びって、ここの人よね?」
あら、それはきっと。
「…ハンゾーですね。アイツがどうかしましたか?」
アンちゃんの眉間の皺がみるみる深くなって目がすっと細くなる。
「四月の終わりかしら?カルラが、町でゴロツキに絡まれてるのを助けてくれたらしいの。
お礼を言いたいって言うから連れて来たんだけど。
ハンゾー?って言うの?今、居る?」
なんと。
「アイツは今、ゾフィーって新入りの様子を見にお義母さんの家に行ってます。
ねえ、そうですよね?お義母さん。」
アンちゃんが腕を組む。
「ええ。お父さんが今日休みだから、ゾフィーにご飯を作ってもらってるの。マギーと一緒にね。」
「ふうん?」
カレーヌ様の片眉があがる。
「新しい子を雇ったの?」
「ええ。ここにも三人。母のところに1人。ハンゾー君がグランディの孤児院から連れてきたの。」
「カルラは是非会ってお礼を言いたいって言ってけど…日を改めるわ。」
カレーヌ様はため息をついた。
「でも、ここの人だとわかったから安心。」
「カレーヌ様、国の治安維持も俺たちの仕事ですからね。お構いなく。
でもまあ、ハンゾーを呼び戻しますよ。詳しく報告を聞かないと。
…おい、シンゴ。」
アンちゃんが壁際に目をやると、いつのまにかシンゴ君がいた。
「はっ。すぐに連絡します。」
すぐにハンゾー君が戻ってきた。十分とかからなかった。
「アンディ様、御用でしょうか。」
「ン、お前先月末、カレーヌ様のところのカルラさんを助けたか?」
「…ああ。ザックの姉さんでしょ?…ここに休暇届けを出して、スイーツでも爆食いしようと街に出たのですが…。
路地で柄の悪い二人組に絡まれてましたからね。ちょっと締めておきました。」
なるほどねえ。失恋の痛手をスイーツ爆食いで癒そうとしたのか。
甘党男子か。
「そそそ。ウチの近くの路地でね。ありがとう、助けてくれて。
あの日はお届け物を頼んだの。
ついそこまでだから、ハミルトンのガードは要らないって出かけていったのよ。
そしたら、まだあまりコチラに慣れて無かったらしくて。道を一本間違えたらしいの。」
「ああ…そうだったんですか。」
カレーヌ様は頭に手をやってため息を付く。
「私も考えが甘かったわ。彼女が無事で良かった。」
「いいえ。不埒な奴らを締めるのも私達の仕事ですからね。それにザックはミルドル坊ちゃんの親友だ。その姉さんですからね、無事で良かったですよ。」
ハンゾー君はソバカスだらけの顔で微笑んだ。




