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第97話 水音の先にあるもの

 青白い光が揺れる小さな水場。


 白雪は水面に手を入れ、細長い水棲生物と遊んでいた。


「こっちだよー!」


 指先を右へ動かす。


 水棲生物はそれを追いかけ、くるりと身体を回した。


 今度は左へ。


 くるっ。


「おおっ、上手!」


 何度か繰り返しているうちに、水棲生物は白雪の指先に慣れたのか、近くを泳ぎ回るようになっていた。


「ふふっ、かわいいね」


 白雪は水面を軽く撫でた。


 そのとき、水棲生物が突然、水場の奥へ泳いでいった。


「あれ?」


 水棲生物は一度だけ水面から顔を出し、白雪の方を振り返る。


 そして、奥の岩陰へ潜り込んだ。


「また案内してくれるの?」


 白雪は立ち上がり、岩陰へ向かった。


 そこには、人が通れるほどの隙間があった。


 水が細く流れ込んでいる。


「ここも続いてるんだ!」


 白雪は少しだけ迷った。


 しかし、奥から聞こえる水音が気になる。


「ちょっとだけ見てみよう!」


 白雪は水に足を入れ、隙間を通り抜けた。


 通路は緩やかな下り坂になっていた。


 壁は濡れていて、ところどころに白い水草が生えている。


 足元を水が流れ、進むたびに小さな波紋が広がった。


「滑らないようにしないと……」


 白雪は壁に手を添えながら進む。


 少し進んだところで、通路の天井が低くなった。


「おっと」


 頭をぶつけないように身をかがめる。


 そのまま進むと、突然、足元の水が深くなった。


「わっ!」


 膝の辺りまで水に浸かる。


 白雪は慌てて壁に手をついた。


「びっくりしたぁ……」


 水は冷たいが、流れは穏やかだった。


 少し先には、丸い岩がいくつも浮かんでいるように見える。


「石が浮いてる?」


 近づいてみると、それは岩ではなく、白い水草の葉だった。


 大きな葉が水面に浮かび、その上に小さな水滴がいくつも乗っている。


 水滴は風もないのに、葉の上をころころと転がっていた。


「わぁ、かわいい!」


 白雪は一枚の葉に指を伸ばした。


 水滴がころんと動く。


 もう一度触れる。


 今度は水滴が葉の端まで転がり、水の中へ落ちた。


 ぽちゃん。


 その音に反応して、水の底から小さな光が浮かび上がった。


「あっ!」


 光は白雪の足元を通り過ぎ、少し先の岩の隙間へ消えていく。


 白雪はその場所を覗き込んだ。


 隙間には、細かな青い粒が溜まっていた。


 手を伸ばして一つ拾う。


<システムメッセージ>

 《水滴砂》を入手しました。


「砂みたいな石だね」


 指先でこすると、少しだけ光が揺れた。


 白雪はもう一つ拾おうとした。


 そのとき、水面に浮かんでいた葉が大きく揺れた。


「ん?」


 葉の下から、何かが出てくる。


 白い小さな生き物だった。


 身体は丸く、背中には水草のような葉がついている。


 短い足を動かし、水面をすいすいと進んでいく。


「また生き物!」


 白雪が近づくと、生き物は葉の上に乗った。


 そして、背中の葉をぱたぱたと揺らす。


 そのたびに、水滴が周囲へ飛び散った。


「わっ、濡れた!」


 白雪は笑いながら顔を拭いた。


 生き物は逃げずに、葉の上をくるくる回っている。


「君も水遊びが好きなの?」


 白雪は手のひらを水面につけた。


 生き物が近づいてくる。


 そっと指先を近づけると、鼻先をちょんと触れさせた。


「ふふっ」


 その生き物は、白雪の手のひらに小さな水滴を一つ乗せた。


 透明な水滴の中には、青い光が揺れている。


「これ、くれるの?」


 白雪が受け取ると、通知が表示された。


<システムメッセージ>

 《水葉の雫》を入手しました。


「ありがとう!」


 白雪は嬉しそうに笑った。


 生き物は葉の上で一度跳ねると、水の流れに沿って奥へ進んでいった。


「またねー!」


 白雪は手を振った。


 そのとき、視界に新しい通知が表示される。


<システムメッセージ>

 未発見の水辺植物を発見しました。

 《水滴浮葉》の発見ポイントを獲得しました。


 未発見の生物を発見しました。

 《水葉モチ》の発見ポイントを獲得しました。


「水葉モチ!」


 白雪は名前を声に出して読んだ。


「もちもちしてそうな名前!」


 実際に触った感じも、少し柔らかそうだった。


 白雪は水葉モチが消えていった方向を見た。


 まだ先があるのかもしれない。


 けれど、今日はすでにいくつもの場所を見つけている。


「うーん……」


 少し考えてから、白雪は来た道を振り返った。


「今日は戻ろうかな!」


 まだイベントは二日目だ。


 無理に奥まで進まなくても、明日も探索できる。


 白雪は水滴浮葉をもう一度眺めてから、来た道を戻っていった。


 北の森林。


 黒羽は、根の扉の奥へ進んでいた。


 通路の壁には、複雑に絡み合った根が広がっている。


 その根の隙間から、淡い緑色の光が漏れていた。


「……かなり広い場所ね」


 通路を抜けた先には、円形の広間があった。


 中央には、大きな木の根が柱のように立っている。


 その根の周囲には、いくつもの小さな石板が並んでいた。


 黒羽は近づき、石板を確認する。


 それぞれに異なる模様が刻まれていた。


「これは……順番を合わせる仕掛け?」


 石板の一つを動かす。


 すると、床の模様が一瞬だけ光った。


 黒羽はすぐに手を止める。


「動かす順番があるのね」


 周囲を見回すと、壁に小さな刻印があった。


 そこには、枝が三方向へ伸びる模様が描かれている。


 黒羽は石板と刻印を交互に見た。


「なるほど。まずは配置を確認しないと」


 黒羽は石板の位置を記憶し、慎重に調べ始めた。


 山岳地帯。


 ユウマは《山水岩亀》と向き合っていた。


 水面を蹴って突進してくる岩亀。


 ユウマは横へ避け、剣を振るう。


 ガキンッ!


 刃が甲羅に当たった。


 しかし、ほとんど傷はつかない。


「硬いな……!」


 岩亀はそのまま身体を回転させ、甲羅をぶつけてくる。


 ユウマは後ろへ跳んだ。


 ドンッ!


 岩の壁に甲羅がぶつかり、周囲に水しぶきが飛び散る。


「甲羅を正面から攻撃しても駄目か」


 ユウマは相手の動きを観察した。


 岩亀が水場へ戻ると、甲羅の隙間から青い光が漏れている。


「……あそこか」


 甲羅の後ろ側。


 脚の付け根に、青い結晶が埋まっていた。


 ユウマは剣を構え直す。


 岩亀が再び突進してくる。


 今度は避ける方向を少しだけ変えた。


 水場の縁を利用して身体を滑らせ、岩亀の側面へ回り込む。


 そして、脚の付け根へ剣を突き出した。


 ガキッ!


 青い結晶に刃が当たる。


 岩亀が大きく身体を揺らした。


「やっぱりそこか!」


 ユウマは距離を取り、次の攻撃に備えた。


 イベント専用の休憩エリア。


 白雪は一度戻り、アイテム欄を眺めていた。


「今日もいろいろ拾ったなぁ」


 《水滴砂》に《水葉の雫》。


 《水滴浮葉》や《水葉モチ》も見つけた。


 白雪は一つずつ思い返していたが、すぐに別のものが目に入った。


「……あれ?」


 アイテム欄の端に、見覚えのない小さな白い粒がある。


「これ、いつ拾ったんだろう?」


 手に取ってみる。


 ころころと転がる小さな粒。


 白雪は少し考えた。


「まあ、あとで見よう!」


 結局、詳しく調べることもなくアイテム欄へ戻した。


 その頃、イベントの途中経過ランキングが更新されていた。


<システムメッセージ>


 《未知なる大地の探索祭》

 第2日目 途中経過ランキング


 1位 白雪

 2位 黒羽

 3位 レイ

 4位 ユウマ

 5位 セツナ


 白雪は順位をちらりと確認した。


「まだ一位だ!」


 それだけ言うと、すぐに画面を閉じる。


 今の白雪にとって大切なのは、順位よりも明日どこへ行こうかということだった。


「明日は水葉モチにもう一回会えるかなぁ」


 白雪はそんなことを考えながら、休憩エリアのベンチに腰掛けた。


 イベント二日目。


 探索は、まだ続いている。

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