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第96話 泉の水面に揺れる影

 青白い光が満ちる小さな泉。


 白雪は水面に指をつけ、ゆらゆらと揺れる波紋を眺めていた。


「きれいだなぁ……」


 水面には天井の結晶が映り込んでいる。


 風が吹くたびに水面が揺れ、青白い光が細かく散らばった。


 先ほどまで一緒に遊んでいた《風水魚》は、泉の底へ潜ってしまったらしい。


「もういないのかな?」


 白雪が水面を覗き込む。


 すると、底の方で小さな光が動いた。


「あっ!」


 光はゆっくりと近づいてくる。


 けれど、魚ではない。


 水の中に、細長い影が揺れていた。


「……何だろう?」


 白雪は顔を近づけた。


 影は水草の間をすり抜け、泉の端へ移動していく。


 その先には、小さな岩の隙間があった。


「そこに入るの?」


 白雪は立ち上がり、泉の周囲を回った。


 岩の隙間は水面より少し低い場所にある。


 水が流れ込んでいるようで、周囲の石は濡れていた。


 白雪はしゃがみ込み、隙間を覗く。


「奥まで続いてるね」


 隙間の中から、かすかな水音が聞こえた。


 ちょろちょろ……。


 白雪は近くの小石を拾い、隙間へ転がしてみる。


 コロコロ……。


 小石は途中で水に落ちたらしく、ぽちゃんという音がした。


「水があるんだ!」


 白雪は隙間の入口に手をかけた。


 そのまま身体を低くして、中へ入っていく。


 狭い通路は少し下り坂になっていた。


 足元には浅い水が流れている。


「わっ、冷たい!」


 水に触れた足先がひんやりする。


 けれど、歩けないほどではない。


 白雪は壁に手をつきながら、ゆっくり進んだ。


 少し進むと、通路が広がった。


 そこは小さな水の空間だった。


 天井から細い水滴が落ち、床には浅い水たまりが広がっている。


 壁の一部には青白い結晶が埋まっていた。


 そして、水たまりの中央に、先ほど見た細長い影がいた。


「あっ、いた!」


 影の正体は、小さな水生生物だった。


 細長い身体に、透明なひれ。


 頭の両側には、小さな水滴のような突起がついている。


 水の中を滑るように移動し、時折、身体をくねらせて跳ねた。


「かわいい!」


 白雪が近づくと、生き物は少しだけ距離を取った。


 それでも逃げる様子はない。


 白雪は水たまりのそばにしゃがみ込んだ。


「こんにちはー」


 指先で水面を軽く叩く。


 ぽちゃん。


 生き物が反応して、白雪の指先へ近づいてきた。


「おおっ!」


 もう一度水面を叩く。


 ぽちゃん。


 生き物はくるりと回り、尾を振った。


「遊んでくれるの?」


 白雪は水面に指をつけたまま、ゆっくり左右に動かした。


 生き物もその動きを追いかける。


 しばらくすると、生き物は水たまりの端へ移動し、壁に埋まった結晶の下へ潜り込んだ。


「あれ?」


 白雪が覗き込む。


 結晶の下には、小さな窪みがあった。


 そこに青い粒がいくつも溜まっている。


「何かある!」


 白雪は水に手を入れ、粒を一つ拾い上げた。


<システムメッセージ>


 《水滴晶粒》を入手しました。


「水滴晶粒……」


 白雪は粒を指先で転がす。


 透明な粒の中に、青い光が閉じ込められているようだった。


 もう一つ拾おうとしたとき、生き物が白雪の手の甲に身体を寄せた。


「ん?」


 ひんやりとした感触。


 生き物は白雪の手の周囲を一周すると、窪みの奥へ戻っていった。


 そこには、小さな貝殻が落ちていた。


 白く透き通った貝殻で、表面には細い水の模様が刻まれている。


「これも拾っていいのかな?」


 白雪が手を伸ばすと、生き物は貝殻の横で身体を揺らした。


 まるで、どうぞと言っているようだった。


「ありがとう!」


 白雪は貝殻を拾い上げた。


<システムメッセージ>


 《水滴貝》を入手しました。


「きれいな貝!」


 白雪は貝殻を光にかざした。


 すると、水たまりの奥で何かが光った。


 今度は生き物ではない。


 床の水の中に、細い線が浮かび上がっている。


 白雪は水を手でかき分けた。


 そこには、丸い石がいくつも並んでいた。


 石の表面には小さな穴が開いている。


「これ、さっきの鳴石に似てる!」


 白雪は一つ持ち上げた。


 水が穴を通り抜けると、ぽこっと小さな音が鳴る。


「おおっ!」


 もう一つの石を持ち上げる。


 こちらは少し高い音がした。


 白雪は二つの石を交互に水へ沈めたり、持ち上げたりした。


 ぽこっ。


 ぽろん。


「面白い!」


 水滴が石の穴を通るたびに、違う音が響く。


 しばらく遊んでいると、床の石が一斉に淡く光った。


 水たまりの水面が揺れ、壁の結晶が青く輝く。


 その瞬間、奥の壁から水が流れ始めた。


 さらさら……。


 細い水路が開いたらしい。


「わっ、流れてきた!」


 白雪は水路を追いかけた。


 水は小さな溝を通って、壁の向こうへ流れていく。


 その先には、さらに小さな空間が続いていた。


 白雪は迷わず進む。


 そこは、天井の低い小さな水場だった。


 中央には青白い石が一つ置かれている。


 その周囲には、白い水草が広がっていた。


「ここもきれい!」


 白雪が石に近づくと、水場の水面に小さな波紋が広がった。


 石の表面には、細かな模様が刻まれている。


 白雪が触れると、石が淡く光った。


<システムメッセージ>


 未発見の水辺空間を発見しました。

 《水音の隠れ場》の発見ポイントを獲得しました。


「やった!」


 白雪は嬉しそうに笑った。


 そのとき、背後から水を跳ねる音が聞こえた。


 振り返ると、先ほどの細長い生き物がついてきていた。


「来てくれたの?」


 生き物は水面から顔を出すと、白雪の方へ小さく跳ねた。


「ふふっ、ありがとう!」


 白雪は水面に手を入れ、そっと指先を動かした。


 生き物はその周りをくるくると泳いでいる。


「また遊ぼうね!」


 白雪はしばらくその生き物と遊んでから、来た道を戻ることにした。


 北の森林。


 黒羽は根の扉の前で、左右の仕掛けを調べていた。


 右側の根の配置は、ほぼ正しい形になっている。


 残るは左側の壁に並んだ穴だ。


 黒羽は穴の一つへ指を入れ、内部を確かめた。


 奥に小さな突起がある。


「押すと反応するのかしら……」


 一つ目を押す。


 カチッ。


 扉の模様が一部光った。


 次に隣の穴を押す。


 カチッ。


 今度は別の模様が光る。


「順番がある……」


 黒羽は一度、穴の並びを確認した。


 右側の根の形と、左側の穴の位置。


 それぞれに対応関係があるのかもしれない。


 黒羽は根の配置を見直し、穴を一つずつ押していく。


 最後の穴を押した瞬間。


 ゴゴゴ……。


 扉の中央に緑色の光が集まった。


「……!」


 黒羽はすぐに一歩下がる。


 太い根が左右へ伸び、扉の中央に大きな隙間ができた。


 その向こうには、薄暗い通路が続いている。


 黒羽は短剣を構えた。


「ようやくね」


 彼女は慎重に通路へ足を踏み入れた。


 山岳地帯。


 ユウマは岩の崩れた通路を抜け、水の流れる場所へたどり着いていた。


 そこは、山の内部にできた小さな空洞だった。


 天井から水が滴り、中央には浅い水場が広がっている。


「本当に水場だったか」


 ユウマは周囲を見回した。


 水辺には、青い鉱石がいくつも埋まっている。


 その奥には、岩で塞がれた細い通路があった。


「先へ進めそうだな……」


 ユウマが近づくと、水面が大きく揺れた。


 バシャッ!


 水の中から、岩のような甲羅を持つ生き物が現れる。


 《山水岩亀》


「今度は亀か」


 山水岩亀は低く鳴き、ユウマの前へ立ちはだかった。


 ユウマは剣を構える。


 岩殻の守り手との戦いで消耗した体力は、すでに回復している。


「よし、相手になってやる」


 山水岩亀が水面を蹴った。


 大きな水しぶきがユウマへ飛んでくる。


 ユウマは横へ避け、剣を構え直した。


 二日目の探索は、まだまだ続いていく。

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