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第94話 鳴石の奥に隠されたもの

 草原を走る白雪。


「えーっと、こっちだったよね?」


 昨日見つけた《鳴石の空洞》へ向かっているはずなのだが、途中で何度か方向を間違えていた。


「あれ? この岩、昨日も見たような……」


 目の前には、少し傾いた大きな岩。


 その横には、黄色い花が咲いている。


 白雪は花を見て、昨日のことを思い出した。


「そうそう! この近くだ!」


 目的地を思い出した白雪は、再び走り出した。


 やがて、岩の隙間が見えてくる。


「着いた!」


 白雪は狭い隙間に身体を滑り込ませた。


 少し進むと、昨日と同じ小さな空洞にたどり着く。


 壁に埋まった青白い鉱石が、薄暗い空間を照らしていた。


「ここだ、ここ!」


 中央には、風が通るたびに転がって音を鳴らす丸い石が並んでいる。


 コロロ……コロロ……。


「やっぱりいい音!」


 白雪はしばらく石の音を聞いていた。


 そして、昨日見つけた奥の小さな穴へ向かう。


 穴の周囲には、白い綿毛がいくつも引っかかっていた。


「今日はこっちを調べるんだ!」


 白雪はしゃがみ込み、穴の中を覗いた。


 奥から風が吹いている。


 穴は狭いが、少し先で広くなっているようだった。


「通れそうかな?」


 白雪は肩をすぼめ、ゆっくりと中へ入っていった。


 身体を横にして、岩に引っかからないように進む。


 少し進んだところで、頭上に小さな空間が現れた。


「おおっ!」


 そこは、人が立ち上がれるほどではないものの、手足を動かす余裕がある小さな空間だった。


 壁には白い綿毛が張りついている。


 床には細かな砂と、丸い青色の石が散らばっていた。


「綿毛がいっぱい!」


 白雪は一つ拾い上げた。


 ふわふわしていて、とても軽い。


 手を離すと、綿毛は風に乗って奥へ流れていった。


「あっ、また行っちゃった!」


 白雪はその後を追った。


 空間の奥には、細い縦穴があった。


 上から風が吹き込んでいるらしい。


 穴の周囲には、青い石が輪のように並んでいた。


「これ、昨日の石と似てるね」


 白雪は石の一つを手に取った。


 表面には小さな穴が開いている。


 試しに耳元へ近づけると、風が通り抜けて、かすかな音が鳴った。


 ピィ……。


「笛みたい!」


 白雪は別の石も拾い上げた。


 こちらは少し低い音がする。


 ピィ……ポォ……。


「音が違う!」


 白雪は石を一つずつ鳴らしてみた。


 音の違いを楽しんでいるうちに、縦穴から吹く風が少し強くなった。


 すると、床に並んだ青い石が小さく震え始めた。


 カタカタ……。


 白雪は石を持ったまま、動きを眺める。


 次の瞬間、石が一斉に転がり始めた。


 コロロロロ……!


 空間全体に澄んだ音が響く。


「わぁっ!」


 白雪は思わず顔を上げた。


 風が穴を通り抜け、石の穴を順番に鳴らしているようだ。


 音は高くなったり低くなったりしながら、奥へと流れていく。


 まるで小さな楽器のようだった。


「すごいね!」


 白雪が楽しそうにしていると、床の一部が淡く光った。


「ん?」


 光った場所には、細い溝が刻まれている。


 その溝は、縦穴の周囲を一周するように伸びていた。


 白雪はしゃがみ込み、指先で溝をなぞる。


 すると、床の青い石が一つだけ強く光った。


 カチッ。


 少し離れた場所でも、別の石が光る。


 カチッ、カチッ。


 やがて、床の石が順番に光り始めた。


「おお……?」


 ゴゴゴ……。


 空間の奥から、岩が動く音が響いた。


 白雪は顔を上げる。


 壁の一部がゆっくりと横へ動き、細い通路が現れた。


「開いた!」


 白雪は嬉しそうに通路へ近づいた。


 中からは、今までよりも冷たい風が吹いてくる。


 その風に混じって、青白い光が見えた。


「何があるんだろう?」


 白雪は少しだけ身を乗り出した。


 しかし、通路は狭く、先の様子は分からない。


「……入ってみよう!」


 白雪は迷わず通路へ入った。


 その先は、岩の壁に囲まれた小さな部屋だった。


 中央には、青白い結晶がいくつも集まっている。


 結晶の周囲には、細い風の流れが渦を巻いていた。


「きれい……」


 白雪は近づき、結晶を眺めた。


 表面には小さな穴があり、風が通るたびに澄んだ音が鳴っている。


 チリン……。


「これも音がするんだ!」


 結晶のそばには、小さな欠片が落ちていた。


 白雪が拾い上げる。


<システムメッセージ>


 《風鳴晶片》を入手しました。


「風鳴晶片……」


 白雪は欠片を耳元へ近づけた。


 チリン。


 小さく澄んだ音が鳴る。


「これ、好き!」


 そのとき、部屋の奥で何かが動いた。


 白雪が振り返る。


 青白い結晶の陰から、小さな生き物が顔を出した。


 身体は半透明で、背中には小さな羽のようなものがある。


 羽ばたくたびに、周囲の風がくるりと回った。


「わっ、何この子!」


 生き物は白雪を警戒するように、少しだけ距離を取った。


 それから、結晶の周囲をふわふわと飛び始める。


 白雪も目で追いかけた。


「飛んでる……!」


 生き物は結晶の上に止まり、小さな声で鳴いた。


 チリリ……。


 その声に合わせて、周囲の結晶が一斉に音を鳴らす。


「わぁ!」


 白雪は手を叩いた。


 生き物は驚いて飛び上がり、部屋の隅へ逃げてしまった。


「あ、ごめんね」


 白雪は声を小さくした。


 しばらく待っていると、生き物は少しずつ戻ってくる。


 白雪はその場に座り、動かずに眺めることにした。


 やがて、生き物は白雪の頭上を一周し、近くの結晶に止まった。


<システムメッセージ>


 未発見の生物を発見しました。

 《風鳴り精》の発見ポイントを獲得しました。


 未発見の空間を発見しました。

 《風鳴りの小部屋》の発見ポイントを獲得しました。


「風鳴り精っていうんだ!」


 白雪は名前を確認すると、もう一度小さな生き物を見つめた。


「かわいいなぁ」


 風鳴り精は結晶の上で羽を揺らしている。


 白雪はその様子をしばらく眺めていた。


 やがて、風鳴り精が一つの結晶をつついた。


 コロン。


 結晶が転がり、部屋の端へ移動する。


 その下から、小さな青い実が現れた。


「あっ、何か出てきた!」


 白雪は実を拾い上げた。


 丸くて、表面が少し透き通っている。


「これも食べられるのかな?」


 白雪は匂いを嗅いだ。


 爽やかな香りがする。


「ちょっとだけ!」


 ぱくっ。


 噛んだ瞬間、口の中に冷たい風が吹き抜けるような感覚が広がった。


「ひゃっ! 冷たい!」


 白雪は目を丸くした。


 味は甘く、後味はすっきりしている。


「おいしい!」


<システムメッセージ>


 《風鳴りの実》を入手しました。

 《味覚》の熟練度が上昇しました。


 白雪は残りの実をアイテム欄へしまった。


 そのとき、風鳴り精が白雪の肩にちょこんと止まった。


「お?」


 白雪はそっと顔を向ける。


 風鳴り精は小さく鳴くと、すぐに飛び立った。


 そして、部屋の出口へ向かっていく。


「もう行っちゃうの?」


 白雪は少し残念そうに立ち上がった。


 けれど、風鳴り精は出口の手前で止まり、こちらを振り返った。


「……ついてきてってこと?」


 白雪は笑顔になった。


「行く行く!」


 北の森林。


 黒羽は台座の前に立っていた。


 三つの石を、それぞれ形の合うくぼみに置く。


 カチッ。


 カチッ。


 カチッ。


 最後の石が収まった瞬間、中央の緑色の結晶が強く光った。


 ゴゴゴ……。


 広間の床が揺れ、壁に広がっていた根が左右へ動いていく。


 その奥から、さらに広い空間が姿を現した。


「……開いた」


 黒羽は短剣を構えたまま、奥を確認する。


 そこには、木の根で作られた大きな扉があった。


 扉の中央には、緑色の結晶と同じ模様が刻まれている。


 黒羽は結晶を台座から取り外し、扉へ近づけた。


 すると、扉の模様が淡く光った。


 しかし、扉は開かない。


「まだ条件があるのね……」


 黒羽は周囲を調べ始めた。


 焦る必要はない。


 この場所には、まだ何か仕掛けが残されているはずだった。


 山岳地帯。


 ユウマは《岩殻の守り手》の胸元へ剣を叩き込んだ。


 ガキィン!


 亀裂が大きく広がる。


「あと少し!」


 岩殻の守り手が大きく腕を振り上げた。


 ユウマは攻撃を避け、岩の陰へ回り込む。


 そして、相手が身体を反転させた瞬間、胸元の鉱石へ向かって踏み込んだ。


「これで終わりだ!」


 剣が亀裂へ深く突き刺さる。


 パキィン!


 銀色の鉱石が砕けた。


 岩殻の守り手は大きく身体を揺らし、やがて膝をつく。


 ドォン……。


 巨体が地面へ倒れた。


<システムメッセージ>


 《岩殻の守り手》を討伐しました。


 《岩殻の核片》を入手しました。

 《山銀鉱》を入手しました。


「……よし!」


 ユウマは剣を下ろした。


 昨日から続いていた戦闘に、ようやく決着がついた。


 岩殻の守り手が倒れた場所には、岩の隙間へ続く道が残されていた。


 ユウマはその奥を見つめる。


「まだ先があるのか」


 彼は剣をしまわず、慎重に進み始めた。


 イベント二日目。


 三人はそれぞれ、新しい場所へと足を踏み入れていた。

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