第93話 探索祭二日目、朝から寄り道
翌朝。
白雪はイベント専用の休憩エリアで目を覚ました。
「んー……よく寝た!」
大きく伸びをして、周囲を見回す。
昨日と同じ広場には、すでに多くの参加者が集まっていた。
焚き火の周りで話をしている人もいれば、装備を確認している人、今日の探索先について相談している人もいる。
白雪はそんな様子を眺めながら、昨日のことを思い出した。
「今日は鳴石の穴の奥に行ってみようかな!」
昨日見つけた《鳴石の空洞》。
その奥には、まだ小さな穴が続いていた。
どこへ繋がっているのか気になる。
それに、草原で見つけた土の空洞も気になっている。
「うーん、どっちから行こう?」
しばらく考えた結果、白雪はとりあえず草原へ向かうことにした。
「行ってから考えよう!」
考えるより、まず動く。
白雪らしい決め方だった。
そのとき、少し離れたところから声がした。
「白雪!」
振り返ると、黒羽とユウマが歩いてきていた。
「おはよう!」
「おはよう。今日はどこへ行くの?」
黒羽が尋ねる。
「草原!」
「昨日の続き?」
「うん! 気になる穴があるんだ!」
「私は森の奥へ行くつもり。昨日見つけた結晶が気になるから」
「俺は山だ。昨日の岩のモンスターにもう一度挑戦する」
ユウマが剣の柄に手を置いた。
「そっか! みんな頑張ってね!」
「白雪もね」
黒羽が微笑む。
三人はそれぞれの目的地へ向かうことにした。
<システムメッセージ>
《未知なる大地の探索祭》
第2日目を開始します。
探索可能時間:開始
イベントポイントの集計を再開します。
休憩エリアから各地へ転送されると、周囲の景色が一瞬で切り替わった。
白雪が立っていたのは、昨日と同じ草原だった。
「よーし!」
白雪は昨日見つけた場所を思い出しながら歩き始めた。
まずは《鳴石の空洞》。
そのあと、土の空洞。
順番は決まった。
……はずだった。
「あっ!」
白雪は突然立ち止まった。
草原の少し先に、妙なものが見えたからだ。
地面から、細長い草が何本も伸びている。
けれど、普通の草とは違う。
風が吹いていないのに、先端だけがゆらゆらと揺れていた。
「なんだろう?」
白雪は予定をあっさり変更し、そちらへ向かった。
近づいてみると、草の先端には小さな丸い袋のようなものが付いている。
それが、ぷるぷると震えていた。
「……揺れてる」
白雪が指先で軽く触れる。
ぷるんっ。
袋が大きく揺れた。
「わっ!」
その瞬間、袋の先端から小さな白い粉が飛び出した。
ふわあっ。
白雪の顔に粉がかかる。
「わぷっ!」
思わず目を閉じた。
少しして目を開けると、視界が白くぼやけていた。
「えっ、なにこれ!?」
周囲が見えにくい。
白雪は慌てて数歩後ろへ下がった。
どうやら、あの袋から出た粉を浴びてしまったらしい。
<システムメッセージ>
状態異常が発生しました。
「くしゅっ!」
白雪は思わずくしゃみをした。
「くしゅん! うわぁ、なんか変!」
目が少し潤み、鼻がむずむずする。
毒や麻痺とは違うようだが、なかなか落ち着かない。
「えっと、これって薬で治るのかな?」
白雪はアイテム欄を開き、状態異常用の薬を確認した。
しかし、くしゃみに対応する薬は持っていない。
「うーん……」
とりあえず、袋の付いた草から距離を取る。
少し離れると、くしゃみはだんだん収まっていった。
「ふぅ……びっくりした」
白雪はもう一度、草を眺めた。
今度は触らないように、少し離れたところから観察する。
袋は風もないのに、一定の間隔で膨らんだり縮んだりしている。
「息してるみたい」
白雪はしゃがみ込んだ。
草の根元には、小さな白い粒が落ちている。
拾い上げると、表面に細かな毛が生えていた。
「これも粉が出るのかな?」
白雪は指先で軽く押してみる。
ぷしゅっ。
「わっ!」
また白い粉が出た。
「くしゅん!」
白雪は慌てて手を引っ込めた。
少し離れてから、拾った粒をアイテム欄へしまう。
<システムメッセージ>
《くしゃみ草の種》を入手しました。
「くしゃみ草っていうんだ!」
名前が分かったところで、白雪は満足そうに頷いた。
そのとき、草むらの奥から小さな生き物が現れた。
丸い身体に、長い鼻。
背中には白い袋のようなものがいくつも付いている。
その生き物が鼻を動かすと、袋がぷるぷると揺れた。
「……あっ」
白雪は先ほどの草を見た。
そして、その生き物を見る。
「もしかして、あの草と同じ?」
生き物は白雪を見つめたあと、鼻を鳴らした。
ぷしゅっ。
白い粉が飛び出す。
「くしゅん!」
白雪はまたくしゃみをした。
「やっぱり同じだ!」
どうやら、この生き物もくしゃみの原因になる粉を出すらしい。
白雪は少し距離を取って、じっと観察した。
生き物は地面を嗅ぎながら歩き、草の根元に鼻を近づける。
そして、袋を揺らしながら、草の種を食べ始めた。
「それ、おいしいの?」
白雪はアイテム欄から《くしゃみ草の種》を取り出した。
少し離れた場所で、匂いを嗅ぐ。
特に変な匂いはしない。
けれど、さっき粉を浴びたばかりだ。
「……食べたらどうなるんだろう」
白雪は少しだけ種をかじってみた。
カリッ。
「んー……」
味はほとんどない。
少しだけ香ばしい。
「意外と普通!」
そう思った直後、鼻の奥がむずむずしてきた。
「……あ」
くしゅん!
「くしゅっ! くしゅん!」
白雪は両手で鼻を押さえた。
「やっぱり出るんだ!」
自分で食べて確かめた結果、くしゃみが出ることが分かった。
白雪はしばらく鼻を押さえながら、目の前の生き物を眺めた。
「君は平気なの?」
生き物は何事もなかったように、種を食べ続けている。
白雪はその様子を見て、少し羨ましそうに呟いた。
「いいなぁ……」
<システムメッセージ>
未発見の植物を発見しました。
《くしゃみ草》の発見ポイントを獲得しました。
未発見の生物を発見しました。
《ハナムズリ》の発見ポイントを獲得しました。
「ハナムズリ?」
白雪は生き物の名前を確認した。
「かわいい名前!」
ハナムズリは、白雪の足元をくるりと回ると、草むらの奥へ歩いていった。
白雪はその後ろ姿を見送る。
「またねー!」
そして、ようやく本来の目的を思い出した。
「あっ、そうだった!」
鳴石の空洞へ行くつもりだった。
白雪は草原を走り出す。
ただし、途中で何かを見つければ、また寄り道するかもしれない。
北の森林。
黒羽は昨日の続きとなる広間に立っていた。
中央の台座には、淡い緑色の結晶が置かれている。
昨日、《根守り》を倒したあとに現れたものだ。
黒羽は結晶の周囲を慎重に調べた。
台座には三つのくぼみがあり、それぞれ違う形をしている。
「石を置く場所かしら……」
昨日手に入れた《根紋石片》を取り出す。
しかし、形は合わない。
黒羽は周囲の壁を確認した。
壁には細い根が広がっているが、その一部だけが不自然に太くなっていた。
「……あそこね」
黒羽は壁へ近づき、根の隙間を調べた。
すると、小さな石が三つ並んでいるのを見つけた。
それぞれの表面には、台座のくぼみと似た模様が刻まれている。
「これを使うのね」
黒羽は一つずつ石を取り外し、台座へ戻った。
山岳地帯。
ユウマは昨日の戦闘場所へ戻ってきていた。
岩の隙間は崩れたままになっている。
その奥から、重い足音が響いた。
ゴン……ゴン……。
「来たか」
ユウマは剣を構えた。
《岩殻の守り手》が姿を現す。
胸元の銀色の鉱石には、昨日つけた小さな亀裂が残っていた。
「今日は決着をつける」
ユウマは地面を蹴った。
岩殻の守り手が腕を振り上げる。
その動きを見極め、ユウマは攻撃をかわしながら懐へ飛び込んだ。
剣が銀色の鉱石へ向かう。
ガキンッ!
昨日と同じ硬い音。
しかし、亀裂が少し広がった。
「よし……!」
岩殻の守り手が大きく身体を揺らす。
ユウマはすぐに距離を取った。
二日目の探索は、三人それぞれの場所で始まっていた。
白雪はまだ、今日の探索先を決めていない。
けれど、彼女の寄り道は、まだ始まったばかりだった。




